2017/04/28

1969年8月、丸山誠治『日本海大海戦』東宝

どんな時でも我々はなお、最善を尽くさねばならん。

製作:田中友幸 脚本:八住利雄 撮影:村井博 美術:北猛夫 録音:吉岡昇 照明:高島利雄 音楽:佐藤勝 監督助手:石田勝心 協力:三笠保存会 特技監督:円谷英二

空の青。海の青。翩翻とひるがえる旭日旗。いわきの煙はわだつみの。龍かとばかりなびくなり。皇國興廃在此一戦。

万丈の敬愛をこめて勇将たちの人間性を描き出す丸山&八住、超絶技巧を尽くす特技班。海国日本の誉れは、映画人たちの誇りでもあります。ものすごいです。

戦争映画の傑作は海外にもありますが、ほかの国は海戦ってことをあまりやってませんから、これほどの艦砲射撃の再現は映画史上でも珍しいでしょう。

日本には東郷平八郎という男がいました。円谷英二という男もいたのです。そしてまた、三船敏郎という男もいたのでした。

明治37年。まず東宝オールスターに大物ゲストが加わった豪華出演者クレジットに目が細くなります。幸四郎(先代)の明治天皇、笠智衆の乃木さん、再現度高いです。

黒澤映画の先輩後輩というべき藤田進と三船、『悪い奴ほどよく眠る』以来の名コンビというべき三船と加藤武、加山雄三・黒沢年男・佐藤允の適材適所ぶりなど、キャスティング的興趣も尽きません。そして異彩を放つ仲代達矢。

パースと余白を大目に取った構図が美しく、色彩感覚あふれる印象的な画が続きます。面白いのは海戦中にカメラが回頭する(!)ことで、CGではありません。くり返します。CGではありません。

第二次大戦ものは航空戦描写が多くなるので、艦内の様子はあまり映されませんから、機関科や砲術科の奮励ぶりを描いたことも貴重です。そして宮古島や島根の漁民に泣かされます。

しかも、勝って終わりにしなかったところが重要。声も美しい名ナレーションを拝聴しましょう。

2017/04/28

1968年8月、丸山誠治『連合艦隊司令長官 山本五十六』東宝

これからは空の時代だ。

製作:田中友幸 脚本:須崎勝弥・丸山誠治 参考資料:橋本忍・渕田美津男・奥宮正武・反町栄一・高木惣吉 特技監督:円谷英二 撮影:山田一夫 美術:北猛夫 録音:西川善男 照明:平野清久 音楽:佐藤勝 監督助手:長野卓

個人的には「連合艦隊」って書くと連合軍の艦隊みたいなので「聯合艦隊」って書くほうが好きなんですが、タイトルなのでやむを得ません。

昭和43年8月14日公開。東宝8.15シリーズ第2弾。年間興行成績第2位。

春のうららの新潟県、加治川。伊藤博文もご出演の記録フィルムと仲代達矢のナレーションで昭和十四年の状勢を軽くおさらいした後は、「アメリカが最も恐れた」海軍リベラル派の明朗闊達な人柄を真正面から共感深く描いて参ります。ナチュラルなカラー撮影。昭和18年4月18日、ブーゲンビル島上空まで。

『ハワイ・マレー沖海戦』から数えれば四度目、『太平洋の鷲』『太平洋の嵐』に次いで三度目なので、すでに観客に予備知識が共有されていることを前提に、前半はお話がどんどん進みます。

日独伊三国同盟が英米を刺激し、戦争への第一歩となった経緯や、真珠湾から始めることに決まった経緯が従来よりも分かりやすく語られております。爽やかな知性を感じさせる脚本は納得の須崎。

オープニングクレジットなしでどんどん入りますが、たいへん品の良い脚本&演出だと思います。差し向かいで話し合う場面は俳優の目線の高さを変えたり、パース効かせたり、アップとロングの切り替えなど、退屈にならないように、よく工夫されております。

陸軍は例によって暴走気味で、そのまま(逆に)『日本のいちばん長い日』に通じていくのでしょう。

加山雄三はだいぶ貫禄が増して、雷撃の神様らしくなりました。森雅之がいい感じに近衛さん。米内さんは幸四郎(先代)です。

特撮部分はじゃっかんの使いまわし感がありますが、何度見ても素晴らしいと申しましょう。藤田進も明らかに別撮りですが(『嵐』みたいな撮影は二度もできない)、よく全軍に号令する気迫を発しております。

後半が新たに撮影された部分なわけで、こちらが今回の重点なのでした。ネズミ輸送は決して威張れた話ではないはずですが、将兵たちは決して諦めませんでした。(作戦開始の時点で鼠なんて言わないだろうというのは言わないことにして)

やっぱりこの頃まだ自虐史観じゃなかったと思います。

2017/04/28

1967年、井上昭『陸軍中野学校 密命』大映

きみは、揚子江を見たことあるかね?

企画:関幸輔 監修:日下部一郎 脚本:舟橋和郎(週刊サンケイ「陸軍中野学校」・弘文社版「謀略太平洋戦争」より) 撮影:今井ひろし 録音:海原幸夫 照明:加藤博也 美術:西岡善信 音楽:斉藤一郎 助監督:国原俊明

昭和十五年、初夏。上海。雷さまピンチ。

同志社の英文科を出た京都府右京区生まれの監督が描く和製スパイ映画はリアリズム重視のクールビューティー。

クローズアップ多用による密度の濃い画から受ける「できのいいテレビドラマみたいだな」という印象にたがわず、『ザ・ガードマン』『キイハンター』を手がけた方だそうです。

『座頭市物語』から照明の加藤博也つながりで、シリーズ半ばの作品をいきなり拝見したので、主人公に後輩ができて、雷さまの先輩らしいふてぶてしい顔と、任務の困難さに悩む姿が両方見られるところが嬉しいです。照明はもちろん最高です。

洋画とちがって笑い壷がなく、言葉遊びの要素もなく、地味っちゃ地味な脚本は、そのぶん切れ味がよく、本職の諜報員の日常を追ったドキュメンタリーのような味わいで、じわじわと引き込まれるのでした。特高と憲兵が混同されてるっぽいなと思いつつ。

山形勲は6年の間にだいぶ老けました。撮影当時の世論が国交正常化に向けて準備されつつあったのかもしれない点が興味深いです。時節柄、逆さ万字にお目にかかってしまうので苦手な方はご注意ください。

細身の俳優たちによるアクションシーンも誇張がなく、なんか生々しいです。しかもスパイ専用秘密道具満載。

細面の美男ぞろいなのが唯一の美化した点で、雷蔵主演ですから女性向けを意識しているのだろうと思われます。女が上になるロマンスシーンはよく分かっております。

なによりも全篇を通じてカメラワークと編集が冴えており、衣笠や三隅を考え合わせても、これが京都人の美学であろうかなと思われます。

謎解きドラマなのでプロットは申し上げられませんが、たいへん面白いです。しかも文芸調の清廉な感動の余韻を持たせてしまう雷蔵の底力。

2017/04/28

1967年8月、岡本喜八『日本のいちばん長い日』東宝

全国の聴取者の皆様。ご起立を願います。

製作:藤本真澄・田中友幸 脚本:橋本忍(大宅壮一編『日本のいちばん長い日』より 文芸春秋「戦史研究会」)撮影:村井博 美術:阿久根巌 録音:渡会伸 照明:西川鶴三 音楽:佐藤勝 監督助手:山本迪夫・渡辺邦彦 編集:黒岩義民 

創立35周年記念映画。日本映画演劇陣総出演。東宝が全機能を動員した超大作。これが日本の映画だ。(予告篇・ポスターより)

東京オリンピック成功、カラーテレビ普及の世に敢えて問うモノクロの心意気。結末に至るまで圧倒的な映像美と物量作戦で突き進みます。小さき島国よ。何度めだクーデター。(未遂)

自虐史観(軍隊を悪役として描き、日本は悪いことをした国だという意識)というのは敗戦まもなくの映画には観られなかったものが1970年代から急に強くなってきたような気がするんですが、この土足っぷりを観てしまうと、陸軍(の一部)への反感は、戦後の国民の中にも強まったのかもしれません。

ただし、面白いって言っちゃ失礼だが、面白いです。まさかここへ来て伊藤雄之助の表情に泣かされるとは思いませんでした。侍従役の俳優たちは、たいへん上品で、それらしいです。

1945年8月15日。

まずはその手前に至る経過のグダグダっぷり一部始終が手際よく語られ、現代史の良い勉強になります。この裏で潜水艦イ-57号が動いていたことになります。

仲代達矢による硬質なナレーションのところどころに現代では不適切とされる単語が含まれ、戦禍の悲惨さを伝える実録写真も使用されており、フィクションとしても「カラーではお見せできません」的場面が少々ございますので苦手な方は要注意ですが、あえて一家に一枚。

ここでリアルな話をすると、いちばん若かった兵隊さんは、1945年8月に14歳で海兵団に志願入隊した人なので、1931年生まれ。今年86歳になられます。

それより5歳以上年長で、この映画に登場する将兵たちの同世代だった方々は、90歳以上です。

三船は1920年生まれで、25歳のとき実際に玉音放送を謹聴したはずです。観客の多くは彼と同世代。出征・復員なさった方々だったことになります。

その厳しい同時代人の眼にさらされる画面は、御前会議はもちろん、閣僚会議の様子や、防空壕で行われた秘密会議等々、一般人の証人などあり得ないわけですから、戦後の閣議などを参考に、ほぼ想像で設定するしかないはずですが、制作陣はたいへん誠実に勤めていると思います。

宮城内は、映るのは一瞬なんですけれども、ロケできるわけはなく、各部屋をセットで完全再現したと思われます。

女性はほとんど登場せず、「その頃の家族は」というふうに話を逸らさずに、真正面から騒乱の現場を撮りに撮ったドキュメンタリー調で、俳優たちの玉の汗を映し出すズームアップや冷たい諷刺的クレーン構図の勘所が良く、映画そのものとしての出来栄えの見事さは、やっぱり「面白い」と言わざるを得ません。

録音場面と児玉基地をカットバックしたのは、あまりに絶妙すぎたと言うべきでしょうか。

オープニングクレジットがないので、どんどん始まるわけですが、さぞかし名のある監督さんだろうと思いましたら岡本喜八さんでした。(ひたすら三船さん目当てで監督名も確認せずに視聴開始)

なお貫太郎首相は笠智衆で、米内海相は山村さん。納得の布陣。島田正吾のやや時代劇がかった台詞回しがたいへん効果的です。藤田の絶叫はビリビリと空気を震わせます。

橋本脚本の残念なところ(差し向かいで会話する場面が多く、動きが少ない)は払拭され、叛乱将校たちの激越な台詞の数々と、スタンディングオベーション的感動を呼ぶ最終ナレーションは、脚本家人生の中でも金字塔的な作品だろうと思われます。

オールスター戦争映画というと『史上最大の作戦』『パリは燃えているか』が思い出されますが、彼我の作風の差異は、映画の面白さにもいろいろあることを教えてくれるようです。(岡本が個性的すぎるのかもしれない)

ポスターは三船さんのハラキリ画像ですが、これ世界中に撒いたんですか東宝さん。

2017/04/28

1965年6月、丸山誠治『太平洋奇跡の作戦 キスカ』東宝

勇気を持て。学者の良心を忘れたのか。

製作:田中友幸・田実泰良 脚本:須崎勝弥(千早正隆「太平洋海戦最大の奇跡」より) 撮影:西垣六郎 美術:北猛夫 録音:西川善男 照明:西川鶴三 音楽:団伊玖磨 監督助手:坂野義光 特技監督:円谷英二

資料:「霧の孤島」元第五警備隊軍医長・小林新一郎 「手記」元第一水雷戦隊先任参謀・有近六次 写真「記録写真太平洋戦史」光文社版

ガ島、テニアンすでに落ち、さらばラバウルよ。昭和18年7月29日。なお雪深き北太平洋アリューシャン列島キスカ。海霧よ今日もありがとう。

世界戦史上、最も地味にして最も大胆な(といってもよい)秘密作戦、完全再現。ほぼドキュメンタリー。カラーテレビ普及の世にあえて問うモノクロの美しさ。

カラーで撮っても地味な北方の風景を逆手に取ったと申せましょうか。ややコントラストを強めてあると思われ、たいへん美術的です。特技班も円熟の極致を見せます。爆薬使用量最高。

人物画は低く構えたカメラで密度を高めております。

オールスターの配役ぶりが見事で、筋立てとしては「来た見た乗った」という他ない単純なお話に、人物描写の深みを与えております。須崎脚本はやっぱり軍人どうしの会話が男らしく微笑ましく、清々しいのでした。

女性を一人も登場させず、兵同士の自然なジョーク以外のコメディリリーフもなく、本当に誠実に、現場の視点で作戦遂行の一部始終のみを再現したので、地味な展開でありながら、一瞬も観客を離さない緊迫感を実現しております。

DVD特典はスーパーバイザーをつとめた当事者のインタビュー。

「終戦という言葉は、腹には持ってないです。敗戦だと」(元キスカ島第五十一根拠地隊司令官付・近藤敏直)

キスカ島における空襲は本当に苛烈なものだったそうです。復員なさった方々は、若い人に二度と同じ思いをさせたくないと仰るものなのでした。