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ふと思い出す『悪魔の花嫁』

あれも初期設定に凝りすぎて回収できないパターンだった……(いやまだ続いてるらしいんだけど)チャンスを得た作家があらゆるアイディアを詰め込んでしまうということがあるのかもしれない。本当いうと三角関係は元の鞘に収まるしかない。最初にカップルとして紹介されたキャラクターを、読者・観客は受け入れて、親近感をもつ。(受け入れないと始まらない)二人が手をたずさえて困難を乗り越えた、という話でないと意味がない。何...

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美奈子を探し続ける話なら収まりが良かった・・・のか?

心の美しさは眼の輝きや表情の柔らかさに現れる。「微笑の女神」であるヴィーナスの魂を移し、美しく生まれ変わらせるための娘は、だから心まで美しくなければならない。仮にデイモスがブサイクな男だったら、人間界の女たちは「俺に魂をよこすか?」と持ちかけられても「おととい来い!」と追い返しただろう。彼が若く美しい半裸の男性だから、女たちも「あら、いいわね」って気分になる。富と名声と美貌を手に入れ、若い悪魔に抱...

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「恐怖の神」の職能を考えてみる。

キャスパーみたいな幽霊なら怖くない。怖いのは「何をするつもりか分からないがジッとこちらを見ている」とか「とりころされる」とか「霊の世界へ引きずって行かれる」とか、そういう時。「天国よいとこ一度はおいで」という歌があるが、霊の世界がいいところだったら……すぐにご一緒するのは遠慮するかもしれないが、怖くはなくなるだろう。とすると、恐怖を感じる原因のひとつは「不安」「先行きの見えないこと」だ。恐怖を感じて...

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【悪魔の花嫁と妖子は第一話で終わっている。】

旧来型ディズニープリンセス式の「男を信じて待つ女は、必ず救われる」という物語に対して、「信じても無駄。あいつら美人に弱いから、必ず裏切る」と言ってのけたまでは良かったんだけれども、それなら女同士でなんとかしようというふうに前向きに展開して行かないから、話の続けようがない。ヴィーナスは海の泡から生まれたのが本来の伝説だから、例えば海の精霊が同情して手助けしてくれた、なんて話でもいい。キルケー、ハーピ...

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【手塚治虫『MW』の誤算。】

西村寿行は炯眼で、早くも1970年代後半に、「女王様が男たちに同性愛行為を命じる」という場面を描いている。手塚治虫『MW』は、さらに早く、竹宮恵子『風と木の詩』連載開始の数ヵ月後に発表されている。たぶん対抗意識を燃やしたのだ。でも、西村と違って、「女性がそれを描いた」ことの本質をつかみそこねた。独立・対等志向の女性ではなく、同性愛男性自身を国家転覆をもくろむ悪役にしてしまい、途中で「しまった」と思った...

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【歌は下手でもセクシーなドレス着てと言われたら。】

成田美名子の漫画作品『花よりも花の如く』に、女性ジャズシンガー(の卵)がライブ店から「歌は下手でもいいからセクシーなドレスを着て出演して」と言われて傷ついた……と苦衷を打ち明ける場面がある。主人公の能楽男子は、読者のほとんどである一般女性の心理を背負っているから「あ、女性は社会に出るとセクハラされてしまうから大変なんだな」というふうに反応する。でも、彼も似たようなことを言われる可能性はある。「紋服を...

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【手塚『MW』の結城は女性のほうが論理的。】

手塚治虫『MW』は、竹宮恵子『風と木の詩』の連載開始後、数ヶ月のうちに連載を開始しています。ディズニーを茶化した手塚先生は、女性による新しい表現分野の隆盛にも対抗意識を燃やしたのです。たぶん。真のテーマは「近ごろ流行りの女性的な男性と、それをもてはやす女性への忌避感」と考えると、分かりやすいです。物語は、異性愛であろうが同性愛であろうが、もともと恋人関係にあった二人が国家犯罪に巻き込まれたのですか...

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【1980年代『花とゆめ』はBL誌だったか。】

雑誌の顔は、少女漫画の王道というべき『ガラスの仮面』(美内すずえ)、不世出の天才・三原順による『はみだしっ子』、それから『スケバン刑事』(和田慎二)だったと思います。三原作品は、可愛らしい少年たちを主人公にしたホームドラマには違いないのですが、1970年代若者文化の熱さを伝え、プログレッシブロックの影響があるなどとは言うまでもなく、今なお読みこなすには知力胆力の要る傑作です。和田作品は、1980年代の間に...

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【昭和53年、里中満智子『晶子恋歌』講談社】

末に生まれし君なれば、親の情けはまさりしも。子供の頃になぜか掲載誌を一回だけ買って読んだことがあったらしく、見開きいっぱいに『君死にたまふことなかれ』が掲げられ、その下で兵隊さんが倒れているという頁が鮮烈に記憶に残っていたのを思い出したので、取り寄せてみました。行かずして古本が買えるネット時代は有難い限りです。再読して間然するところのない美しい傑作でした。思えば子供心にも、晶子の皮肉の痛烈さと心痛...

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【女流メンズ漫画、ネオテニープライド。】

高口里純の漫画作品『伯爵とよばれた男』に印象的なエピソードがあって……老いを感じ始めた大女優が「世間から忘れられる前に死にたい」というので、それまでいじめていた若手女優へ自分自身のサツガイを命令するのです。自殺幇助としての嘱託殺人。彼女の謎の急死は、大女優らしいドラマチックなものとして華々しく報じられ、記録と記憶に残りました。若手のほうは彼女の生前の推薦によって、次の主役の座を得て、新しい銀幕の女王...

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『悪魔の花嫁』の美しき不毛。

原作者は不思議な才能の持ち主だな、と思います。一話完結形式で女性の悲哀を描かせると上手いのですが、もっと大きな構想を用意することも、なんとか伏線を回収して着地させることもできないのです。シリーズ構成に長けた男性の監督(漫画だから編集者)の采配のもとに一話ずつ任せてもらえば才能を発揮できるのかな、と考えると、いかにも女性的なのかもしれません。1960年代以来、日本の少女漫画にはヒロインの相手役として金髪...

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河合克敏『とめはねっ! 鈴里高校書道部』

小学館ヤングサンデーコミックス。2007年5月7日初版第1刷、2009年8月30日第10刷発行。連載担当:坪内 崇。(奥付より)じつに気持ちのよい、薀蓄系・部活動漫画。ゆうきまさみに似た可愛らしい絵柄で、単行本第一巻カバーの女子高生に惹かれて手に取りました。北鎌倉に位置する「すずり」高校における、まさに廃部寸前の弱小部活動が不慣れな新入生を無理やり獲得して、少しずつ実績を積んでいくという王道少年漫画。昨今手抜きな...

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成田美名子『花よりも花の如く』

望月さんの登場する『とめはねっ!』とは「ボーゲツ」つながりです。白泉社。能楽あるある小ネタ集。女性ファン同士が「野外能って虫が集まってくるから大変だよねーー」とか「こないだは風が強すぎて、うちの師匠の扇が飛んでった」「あるあるーーw」っておしゃべりしてる感じだと思えばいいです。男性向けによくある戦略的な薀蓄漫画ではないので、能楽の歴史や決まりごと、型の名称や装束のつけ方をレクチャーするというような...

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隣の山の集英社。

酷暑の夏のあいだ、運動部の活動に励んだ頼もしい若者も、まだまだ大勢いることでしょう。指導者・本人とも、水分補給・体調には充分注意してください。『ハイキュー!』(テレビアニメ版)では、トーナメント一回戦に勝った主人公が、二回戦・三回戦とバレーボールを続けることが出来るというので、嬉しさのあまり表情が緩んでしまうという場面があって、可愛らしかったです。いっぽうで「負けちゃったーー!」と嘆く女子部員の姿...

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『ハイキュー!』の男の子らしさ。

まだ高校生なのにオッサンくさいと言われることが一番の悩みの種だったり、意中の女性に「声をかける勇気はない!」と変なところでキッパリしていたり、集合写真を撮るときには愛想よくしろ、と互いをつつき合ったり。試合場では決然とした男らしさを見せる若者たちが、根っこの部分では意外に小心者で人目を気にしており、常識的なわけです。そういう男の子らしさ、自然体の日常性が、よく表現されていると思います。もし、これを...

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書道をイメージ利用した漫画。

数年前に講談社『イブニング』誌上で、書道家を主人公にした作品が掲載されていたと思います。市井で暮らす人々の人生模様を描いた上で、型破りな若手書道パフォーマーが、彼(女)の人生を象徴する漢字を記した作品を進呈するという話だったと思います。その書を制作するにあたって、紙はどこどこ産の高級紙、筆は何号、膠の混ぜ具合は……なんて解説をするわけではないわけでした。酒井美羽『ミルクタイムにささやいて』では、主人...

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おじいちゃんのステレオタイプ。

和装で、杖をついて、白髭をのばして、一人称「わしはのう」というタイプ。『ミスター味っ子』の味皇さまみたいのですね。『とめはねっ!』にも出てきました。100パーセントセクハラ三浦先生。三浦先生は若いころ教員をやっていたらしくて、その頃には普通にお堅い洋装の中年男性だったらしいです。それがいつから「わしもそろそろ髭をのばして和服でも着てみるかな(そして助平まる出しに生きてみるかな)」となったのか、と考え...

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河合克敏『とめはねっ!』第3、4巻。

三浦先生大活躍の夏休み合宿と、新キャラ登場により、少年少女の恋愛模様も、書道への熱意も一層の深まりを見せました。まったくもって「キャラ立ち」がひじょうによく、それぞれの立場から発言される書への見識や疑問が響き合って、スリリングな掛け合いとなっています。文化部の中でも最もおとなしいかのように思われがちな書道部に、なぜか加わっているスケバン・加茂ちゃんの行動力とベランメエも冴え渡ります。キャラクターの...

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水木しげる作品の思い出。

戦後の闇市の時代に、マッチを一本ずつ売る老婦人。まとっているのは薄い和服一枚だけ。客の買ったマッチを自分ですって、その灯りで自分の着物の中を見せるのが本当の商売なわけです。でも歳を取ってしまって、もう誰からも相手にされない。しまいに自分ですったマッチの火が着物の裾に燃え移る。炎に巻かれながら「あったかいよ、お父ちゃん」とつぶやく。「お父ちゃん」とは父親のことだったのか、夫のことだったのか。いま手元...

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水木しげる『墓場鬼太郎①』

先生、怖いです。角川文庫、貸本まんが復刻版。平成18年初版。多色刷りの貸本表紙が一巻ごとに再現されています。文庫の体裁でこれをやるのはすごい。第一話は掲載誌が『妖奇伝』。漫画タイトルは『幽霊一家』。絵柄がアメコミ調。主人公がなかなかダンディ。職業は銀行の調査員。ハードボイルドを意識していたと思われます。クロスハッチングを多用したペン画ならではの背景が泣けます。こういう技術は残していきたいですね。期せ...

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水木しげる『のんのんばあとオレ』一、わんばく大戦争の巻

講談社コミックス、1992年11月、第2刷。ああすっかり洗練されている。日本の漫画界はGペンの「しなり」が生む線の美しさと、ペンで背景を描く技術を維持できるでしょうか。わんぱく大戦争は、子どもの喧嘩とはいえ命にかかわるようなことまでやってるわけで、本人たちにとっちゃ大変です。お目つけ役の大人はいない。兵隊さんごっこが当たり前だった時代の男児たちは大変でした。主人公ゲゲ(=しげる本人)の家庭の様子も含めて...

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朝日新聞出版『週刊 マンガ日本史』

朝日新聞出版の出している薄い本(歴史マンガのシリーズ発行)のダメっぷりがひどいので怒る気力もなくしていたんですが、第41巻、池上遼一の黒田官兵衛は謹んで拝読しました。セクシーな官兵衛でしたね。確かな画力でロングとアップを交互に配置できるからこそ、コマ運びのあっさりしているのは池上さんらしさ。経歴の長い先生で、個人的に『クライング・フリーマン』を楽しく読んでいた頃から数えても二十年ほど経過しているので...

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1973年、水木しげる『総員玉砕せよ!』

点描と掛け網の圧力。対照的に白っぽい人物が、軍隊生活と戦闘の意義の虚しさを象徴するかのようで印象に残ります。講談社文庫、1995年6月第1刷、2015年12月14日第28刷。密林に注文したら少し待たされまして、12月19日に「追悼 水木しげる先生」の帯が掛けられて届きました。「一体我々はなにしにこんなところで戦うのでしょうか」「そいつあわしにも分らんなあ」(p.209)戦争そのものには国防という善悪を超えた意義があるのか...

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1992年、水木しげる『のんのんばあとオレ』第二巻

「ガキ大将は強いばっかりじゃいけん 小さい子も面白く遊ばせる才覚がなくっちゃみんなはついてこん」いいこと云うね、田舎の小学生。講談社コミックス、1992年10月第一刷。妖怪に好かれた落第王の巻。1970年代に描かれた『総員玉砕せよ!』のほうは、話法に荒いところがあって、じつはやや読みにくいのですが、こちらはコマ運びが滑らかです。作者70歳。境港の落第王における異世界への興味は、逃避的な趣味として好事家が妖怪絵...

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1967年、石ノ森章太郎『ジュン 1』ポット出版

これもポット出版の目録を見て取り寄せてみました。まさかのハードカバー。約340頁。物理的に重いです。A5版。漫画はこのくらいの大きさで読みたいものです。2011年9月、第一版第一刷。紙質が良く、印刷も美しいです。>本書は「COM」(虫プロ商事)1967年1月号~1969年2月号に連載された「章太郎のファンタジーワールド ジュン」を一冊にまとめた。だそうです。昭和42年度小学館漫画賞受賞作。作者は1938年1月生まれ。執筆...

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手塚治虫・岩本仁志『MW』再考。

戦後の日本人と「神」と道徳で、思い出しました。あの話は、「ホモセクシュアルのキリスト教徒が戒律か人間愛かで徹底的に悩む宗教物語」か、「無宗教的な普通の日本人が友人の犯罪を制止できないと悩む道徳物語」のどっちかにハッキリ決めるべきだったのです。本当いうと、現代の男性観客に訴求するために最も良いのは、妹の犯罪にすることです。手塚の原作の時点で、少女のテロリストというタブーに挑戦すれば良かったのです。賀...

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ジェイムズくん。

「野生化した人工知能が選挙権を要求してくる未来があり得る」という話を聞いたもんですから、とっさにテレビドラマ『相棒』のジェイムズくんを連想したんですけれども。どうもね。ジェイムズくんというと、黒髪で片目を隠した吝嗇な青年の印象しか浮かんで来ないタイプでございます。どケチ虫な人工知能が国家予算の使い方に難癖つけて、選挙権どころか立候補してきたら、どうしようかなァ……。なお、1980年代前半の漫画の話をしろ...

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デイモスは裏切りの神であり続ける必要がある。

池田悦子原作・あしべゆうほ作画『悪魔の花嫁』。1975年から連載されている作品で、不定期掲載となりつつ最終回を迎えていない。少女漫画には時々あるパターンです。デイモスは、裏切りの神であり続ける必要があるので、ヴィーナスとの約束を果たしてしまうわけに行かないのです。現実なら、美奈子がどんどん歳を取るので、永遠の美と若さの女神(の神霊の引越し先)には相応しくなくなってしまい、デイモスは結局「約束を果たさな...

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1976年-1984年、竹宮恵子『風と木の詩』小学館

これこそ三島由紀夫に読ませたかった。論じている内に40周年を迎えてしまったなァと、ふと思い出したので、改めて述べておきます。あの作品最大の評価ポイントは、全体の構成だと思われます。まず巻頭言によって全体が回想録であることが示され、第一部序盤で第二部の主人公になる人物の存在が暗示された上で、第一部と第二部が時系列的に倒置しており、第三部を最後まで読んだところで、セルジュという若者が、その後の人生をまっ...

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成田美名子『花よりも花の如く』に見る女心、男心。

シリーズ序盤のエピソードに基づく部分的考察。じつは能楽師というのも舞台上の男である以上、女性客から「顔で選ぶ」とか「若さで選ぶ」とか(本人に聞こえないように)言われちゃう可能性はあるのです。実際に『花花』に登場する若手能楽師たちは、女流漫画家自身の好みにしたがって、女性的(少女漫画的)な顔立ちの「イケメン」として描かれていますね。けれども劇中には、女性ファンがお舞台そっちのけでキャーキャー騒ぐ描写...

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Misha

Author:Misha
スマホ時代にさからう評論系長文ブログ。冷静に通読できる大人の読者様を想定しています。

「若い人」に直接呼びかける文章は、18歳以上のヤングアダルト対象です。高校生は受験を最優先してください。

書く人は、新旧とりまぜて映画とアニメを見ながら文芸書に取りくんでみたり、昔の漫画を思い出したり、お国の先行きを心配したりしております。

記事中の色つき文字は、映画中の台詞・挿入歌からの引用です。あらすじは、あまり申しませんので、楽しみに御覧ください。取り上げる作品は、暴力・エロスなど特殊な要素を含んでいることもあります。

ときおり、耽美・BL・同人・LGBTに言及します。いずれの分野からも、偏見と差別と自虐がなくなるといいと思っております。

「二次創作の責任を二十四年組に押しつけるな」「実在同性愛者に甘えるな」が基調です。

全体として、二十四年組ファンが社会学者に物申すという珍しい構図。一部勘違い同人を叱責することによって全体を守るという意図もあり、ときにかなり辛口です。

記事は時々予告なく手直し・削除・分割しております。保存は個人的閲覧の範囲で、お早めに御随意に。転載・改変利用は固くお断り申し上げます。

解題


Casketとは、玉手箱。

でも検索すると棺桶がならびます。来世まで持っていきたい好きな作品の記録帳とご理解ください。