2013/03/29

黄金の日日 第四回 第4話 北征前夜

しまった面白かった。書かずにいられない気分。




1978年放送のNHK大河ドラマ。本放送時はちっちゃかったのでよく覚えていない。川谷拓三の処刑シーンがトラウマになっている(後半のどこかにある。今でも怖くて確かめたくない)

ほかの作品について調べている途中で部分的につべで引っ掛けた(なんて言っていいのかどうか)のが、この回の能をフィーチャーした場面だった。NHKオンデマンドで単品購入して通して見てみた。便利な世の中になった。

市川染五郎(当時。現:松本幸四郎。まだ少年という設定のようで、若い演技に徹しているが、ささやくような独特のセリフまわしが変わってない)演じる水夫が信長の朝倉攻めにとつぜん巻き込まれる……という回。

船も街もセットと模型がちゃちくて可愛いのだが俳優たちは生き生きしている。染五郎のウブっぽい演技と五右衛門役:根津甚八の危険な色気の対比がよい。宣教師フロイスの持つ地球儀が見たくて司祭館にしのびこんだ二人、帰りがけの駄賃に銀の燭台をもらっていくかどうかで突然おおだちまわり。楽しい。展開は早い。セリフは短い。けっこうなことである。

信長が(いつぞやの近江方面のお姫様の話のときのような色っぽい妖怪みたいなカリスマではなく)武人として先見の明があり、果断にして寛容な政治家でもあり、商業政策にも長けており、堺の商人を心服させていた様子が具体的に述べられている。さすが城山三郎。

梶原四郎のややハイテンションなナレーションは内容が盛りだくさんで「もう一回いって」と言いたくなるが、耳に心地よい。プロの語りはやはり良い。

海外に憧れる主人公へ、宣教師がイタリア都市国家の繁栄を語って聞かせる。視聴者としても「そうか、同じ時代か」と歴史知識の再確認ができ、興味深いところ。ヴェネチアと堺はいずれも商人による自治国家と聞かされて、日本の若者の胸にわき上がる誇りとさらなる憧れ。

そんなヴェネチアも、いまは他国に支配されている……信長の専制への不安が聞く者の胸をチラッとかすめる。しかし信長の船に乗り込むと、彼の近代的な戦法に感服するばかりである。

主人公は歴史上の有名人たちの陰にあって、やや印象が薄いが、いざ登場したときはしっかり視聴者とシンクロし、見る者に臨場感を与えて目を離させない。

市川の演技は抑えめだ。彼は胸の中できもちが動いていることを感じさせるのがうまい。

二条城のセットは、ちょっと気合い入れた感じ。中庭に能舞台がフルサイズで再現されている。並んで能をみる足利将軍(松橋登が美しい)と信長(高橋幸治も美しい)。

銕仙会の皆様の実演(とうぜん撮影スタジオで生本番)による鬼退治を描く能と、若き将軍による信長退治の陰謀が水面下で動き始めている描写がザッピングされる。“鬼神のまんなか刺し通す……たちまち鬼神を従へ給ふ”という詞章に合わせて将軍・武将・商人役の俳優たちが意味ありげに信長へ目線を使うところと、最後に囃子の音を響かせる効果がにくい。

なんで四月に『紅葉狩』やねん、とはちょっと思うけど、信長公記(現代訳)(原文)第三巻に観世・金春立合能の記録があり、番組の半分が秋の曲になっているようだ。なぜかは個人的に調べられない。

1970年頃は、まだ企業の中にも謡曲クラブがあった。部下が毎週同じ曜日になると早めに帰るので何かと思ってきいてみたら「お稽古に通っている」というので俺も始めてみた……なんて話もこの頃のことだ。リアルでも小説でもそういうエピソードがある。ドラマ制作にも能が生きていたようだ。

その能舞台の見学を許された堺衆の一人に密命を帯びた者(今井宗久)があった。鉄砲五百丁、木下藤吉郎へ届ける。その荷駄隊の指揮をまかされた息子:兼久は(信長に肩入れする)父親への反発心から酔いどれていた。先発隊には五右衛門が加わり、主人公は友人として万が一にそなえて金を預かってくれといわれ、状況を知って、木下(という面白いお侍さん)にまた会いたさに荷駄隊に加わるが……

か黒い上層部の政治・陰謀と、根が素直だからこその若者の反発心、もっと若い者のキラキラした好奇心が不意に出会って一つの新しい道へつながる。できた展開だなぁ!

これはご都合主義といわない。この一点へ向って根回しがなされてきた。プロットはこうありたい。

酔った勢いで思いつきを言う林隆三の演技の、一人芝居に近い気合いがすごい。酔っぱらいなのに。言われてためらう染五郎のギャグぎりぎりっぷりも可愛いし、上手い。

セットは若干しょぼいが芝居で見せる。なお、女性陣の着た小袖がじつに華やか。栗原小巻の巻き毛はご愛嬌だが顔立ちに似合っているし、男性陣も70年代当時に流行った長髪の印象を残したまま時代劇を演じている。当時は考証にこだわるよりもこっちのほうがカッコよかったのだ。そして夏目雅子はやっぱり美しい。

もしかしたら坂妻や千恵蔵を知っていた世代は「なんだこれは」と思ったかもしれない。染五郎は大根あつかいだったかもしれない。でも光ってる。リアルでは1978年だからオイルショック後なんだけど、新しい時代・新しい世界を求めて飛び出していく若者のさわやかさ・勢いでドラマ全体が光ってる。脇固めもいいし、皆かっこいい。なんせ信長かっこいい。太閤記の頃より明らかにうまくなってる高橋幸治。今回は石坂浩二はいないのねw

たぶん続き(とここへ至るまでの三回)も見てときどきレビューすると思います。