2013/05/13

2008年『セントアンナの奇跡』

流血をともなう戦争映画を娯楽のうちと思って観る腹がくくれていれば、おすすめです! 

ドイツ将校の肩章・勲章などと、ルガーがアップで見られます。キャラクター描写、伏線の回収ぶり、名台詞の数々。脚本と演出の工夫が効いており、緊張感は非常に高く、そう言っちゃなんですが、面白いです。スパイク・リー監督はアメリカの人ですけども、序盤のアメリカ国内描写から既に欧州映画、単館上映系の雰囲気があるのは不思議でした。たぶんカメラの使い方。

ファルファッラ役ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ(『炎の戦線エル・アラメイン』)お目当てで借りておいたらしいです。いつ見てもいい男です。頬の深い皺がいい。

前半は人種問題直球勝負。実際に黒人である俳優たちが差別される黒人を演じるのですから、タフな現場です。監督がちがう人種のひとで、気を使っていたら撮れないわけで、AAチームが円陣組んでGO!

冒頭の玄関ドアからサイコ・ホラーな雰囲気が漂います。室内へ入るとテレビ画面に『史上最大の作戦』の中でもっとも残酷な場面。グッと不安な感じが高まるとともに戦争に関わる話だなという予感(予備知識ゼロ)

BGMがやや饒舌でメロドラマ調なのと、そのくせカメラはずっと手ブレしており、フリードキンそこのけのハードなドキュメンタリータッチで、方向性が分かりにくく、最初なめてかかりましたが重量級でした。

戦場残酷描写もやり過ぎず、ぬる過ぎず。ドライなタッチ、かつ美的にも優れています。川を運ばれる人血の赤が美的ならね。基本的にはドイツ人を悪役とする戦争冒険映画ですが、ドイツ人の描写も好悪とりまぜて手抜かりがありません。ちゃんとドイツ語でしゃべってます。ナチっぽさというのか、俳優さんたち熱演です。イタリア人はイタリア語。こちらは素人さん?というほど自然な風情。秋枯れのトスカーナの自然と、石を積んだ壁で迷路のようになった街が美しいです。そこで起こる……ミステリーでもあるストーリーは、全くネタバレしないでご覧ください。

現代で起きた事件から話が順に前へさかのぼって、伏線がきもち良くツボに入っていく式。読める展開であることの安心感を下地に、痛さと悲しさの情緒が急激に高まってきます。イタリア男の涙は女々しく見えないからずるいです。

後半は泣くと画面がよく見えなくなっちゃうので苦労したり。

面白いというべき題材ではないのですが、場面の切り替えが早く、話題が盛りだくさんで面白く見られます。迫撃砲や銃器ののタイミングが気持ちいいです。ドイツ軍の重機関銃はどの映画でも良い(?)働きをしますが、今回は火を噴く銃口を真正面から映した(もちろん特撮)のが効果満点。血糊の量も気が利いています……

そんなわけでストーリー的には悲劇ですが、なにしろイタリアの子役がいい顔します。黒人兵は知ってるような知っていないような、でも印象的ないい顔をした男をそろえております。紅一点のイタリア女はスタイル抜群のべっぴんさんです。

悲劇なんだけどしっかり面白い。リアル描写とファンタジーのミックス具合が陶酔感を高めます。『史上最大』へのオマージュ描写は伊達ではありません。興行収入が制作費を下回っちゃってるっぽい(出典:ウィキペさん)んだけど、もっと評価されていい映画。



2013/05/04

2005年『ヒストリー・オブ・バイオレンス』

いいよ、これ……。

出だしの怪しさ(妖しさ)から一転、ホームドラマから一転、二転……。ピリッと効いた暴力描写と、郷愁満点の風景描写、実力派俳優の演技を待つタイプのじっくりしたカメラ、静かなBGM。大人のための一本。

嫁さんのキャラクターや、息子の学校でのエピソードなど小技もきいており、一見まったりしてますが高い緊張感と先行きへの興味を持続させ、飽きさせません。

『ロード・トゥ・パーディション』に似た雰囲気でしょうか。いや、あれはちょっとサイコホラー調のところもあったから……あれよりもっとホームドラマ寄りで、アメリカ中西部の片田舎の平和な暮らしが共感豊かに描かれております。薄青い空が、麦畑が、紅葉が美しいです。勤務熱心な誇り高き保安官がいいです。

『乱暴者』で見た1950年代と同じ(たぶんもっと前から変わらない)街のメイン・ストリートの風景、主人公が経営する小さなダイナー、そこへ集まる(撮影地の素人さんじゃないのかと思うような)気の良さそうな住人たち。日曜日の教会で響く讃美歌の余韻が漂っているかのようです。

そこで静かに暮す俺は、しかし本当の俺じゃない。

男のロマンですが、でもそのヒロイズムを本当に発揮してしまったら家族を傷つける。また敵には敵の事情があり、家族としての苦悩がある。

男のロマン、ヒロイズム、ナルシシズム、映画的娯楽の最大のものである暴力を描くにも工夫が必要になってきたわけで、かつては男同士のドンパチ全開でした。1972年に『ゴッドファーザー』があって、悪役であるマフィアにも過去があり、家族愛があり、裏事情に苦労する様子が描かれました。1980年代から女性がドンパチに参加するようになり、それとともに性的にも大胆な女性が描かれ始めました。

2000年頃から“暴力沙汰のさなかにおける家族愛”(男と女と子供の核家族)が中心に据えられるようになった気がします。

多くの女性と、本当は男性も、平和で静かな家庭を守りたい気持ちを尊重しつつ、もっと非日常的で刺激的な映画的娯楽を“カップリング”させる。

基本的には暴力を担当し、そのことで悩む(ドラマを背負う)のは男性の役割で、女性と子供はそれを許し、支える役。ただし女も、ひたすら“大きな愛で包む”ってことでは済ませず、言うことは言うようになった。子供も純真無垢なだけではない。ぶつかった上で“じゃあこの先どうするか”という自問があり、それぞれが答えを出す。

これはひとつの頂点かもしれません。

R-15指定なのは、流血をともなう暴力描写があるところと、それより“尺”を取った濃厚なラブシーンがあるからですが、後者は夫婦が(もう互いを確認し合うにはこれしかないというギリギリの)絆を確認する大事な場面なので、大人だけでじっくりご覧ください。

キャスティングが非常にうまくて、主人公役ヴィゴ・モーテンセンは“枯れたアラン・ドロン”みたいで非常に顔立ちがよく、いかにも油断ならないようにも見えるし、でも実直な男にも見える。あれがロバート・デ・ニ―ロだったら最初から狂気が漂ってしまうわけで^^;

個人的にはエド・ハリスが出てるから借りたんじゃないかと思います。……が『エム・バタフライ』つながりで監督の名前で借りたかもしれません。

冒頭の二人組は、男二人して疲労感たっぷりにモーテルの同じ部屋から出てきますが、映画『セブン』における“肉欲”の罪を犯す役を演じた俳優から名前を頂いてるそうで(出典:ウィキペさん)、肉欲かよ……。

終盤、兄弟愛の表現も妖しい雰囲気。キスをねだる兄ちゃんの可愛い顔がたまりません。

これは「そういう目で見るべきではない」というよりは“誰が見ても楽しめる”ようにできている、と解釈すればよろしいのではないかと思います。男女の夫婦愛には共感しにくい人もいるわけで、サービス精神。同じ2005年に『ブロークバック・マウンテン』が絶賛されておるわけでございまして、そういう時代が始まったのだと思います。

兄ちゃんとエド(違)の間にどんな協定が結ばれ、エド自ら出張ってきたのかは結局説明されませんでした(わざとおびき寄せてというようなことではなかった模様)が、そのへんを映像化してしまうとマフィアの映画になってしまい、家族愛から焦点が外れてしまうので、“流した”感じでよろしかったのではないかと思います。個人的には、エドは私怨で動いたということにしておきます。エド、この時55歳。もっと老けて見えますが、いい感じに枯れてました。

エドが印象的だったので、その後で登場する兄ちゃんは難しいキャスティングと思われましたが、ウィリアム・ハートは風采も上がり、演技派でした。『蜘蛛女のキス』をもう一回見ておくよ(若いとき見たからよく分からなかったんだ)