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2007年、ザック・スナイダー『300』


続篇じゃないです。少し前に続篇の公開記念で1本目のほうが新パッケージになっていたので買っといたのです。

絵が美しいので、たいへん好きな作品です。一枚ずつ隅々まで描きこんだ油彩画のならぶ美術館へ行ったような、お得な気分になります。

背景と人物は明らかに合成で、スタジオ撮影感ありありなんですが、その作りものっぽさがまた舞台劇を見に行ったような気分にさせてくれます。

実際の舞台劇では、遠景のスケール感を出せないので、両者を組み合わせた「映像らしさ」が嬉しい。

ロケハンに行ってしまって、クレーンを使って、生撮り感を重視する作り方もあるのでしょうが、個人的にはこのミニチュア感というか、教会のせまい壁に描かれたルネサンス絵画の再現感というか、ひじょうに好きです。デレク・ジャーマンに見せてやりたかったです。

ストーリーは「来た見た負けた」なんですが、あらすじが分かればいいのであれば映像は必要ないわけで、映画は「見せ方」だろうと思うのです。

ナレーションが入ってるところが「おはなし」らしさを醸し出して、画面に「もともと誇張したアニメーションのようなものだ」という弁解の効果を与えているわけで、うまいものだと思います。

一種の特撮というか、CGだから特殊効果なんですが、そういう意味じゃなくて昔の怪獣映画みたいな、作り物感を楽しめばよろしいので、それを「くだらない」と思うかどうかが分かれ道になる作品かと思われます。

【見どころ。】

よくもそろえたり男性美。なかでも、レオニダスが単身切り込んでいく場面が白眉かと思われますが、何度見ても重装歩兵の古代彫刻そのものの姿であるところが感動的です。

ペルシャ軍の造形に惜しみなく投入された荒唐無稽な想像力は、「昔はこういうのスペースオペラでやってたよなァ……」などとも思わされました。

かつては映画でさえ古代(史実)に関して無理はできないと思われていたのかもしれません。

その間に考古学・音楽を含めた民俗学の研究が進んで(ギリシャ方の)再現が可能になったのか、アカデミズムも世代交代して「面白ければいいじゃん」という意識に変わったのか。

ブルーグレー、およびセピアに色調補正した画面のなかで、戦士たちのマントの赤色が目に残ります。異様なステンドグラスのような、レオニダス軍のラストシーンも素敵です。

そして、じつは女性キャラクターもカッコいいところが好きです。出陣前夜の夫婦和合も刺激的かつ美的な名場面。

カメラの性能を駆使した巫女のダンスも、肉眼による鑑賞を前提には表現できない、新しい芸術かと思われます。

ピーター・メンサーは、もうちょっと見ていたかった印象的な役者さん。starz『スパルタカス』では良い役でした。

【天佑。】

武勇で知られたスパルティアタイが、よく大軍を防いだと聞かされれば、やっぱり「バッタバッタと薙ぎ倒し」ということが想像される。

その漫画的な想像に、エロスと残虐描写を加味して、大人の娯楽にしあげた。PTAが一番いやがる要素を逆手にとったわけです。これは漫画・アニメを見慣れた新世代が成人に達したことによって生まれてきたもので、実際に監督がまだ若い。

そして原作が実際に漫画(グラフィックノベル)なんですが、その画力は日本の多くの作品とは桁が違うようです。

宗教画的な画面は、じつは漫画から来ているんですが、その漫画に中世・古代からの蓄積が反映されている。

俳優は腹が割れるまで筋力トレーニングを積んだのだそうで、古典古代の芸術遺産に直結する表現力を身に着ける努力をすれば、荒唐無稽も大人っぽく見せることができる。

これが天の欧米人に与え給うた能力で、残念ながら日本人がうらやんでもどうにもなりません。

メンサーたちのような黒人俳優はどうなのかっていうと、おそらく血脈のどこかで白人と交流して体格の良さを手に入れたので、日本人にも足の長い「ハーフ」のアイドルなら存在するわけですが、「純日本人」では太刀打ちできないのです。

【そして日本。】

日本人は男女ともあの肉体美を真似できないので、小さな子どもや細ッこい少年少女が活躍する話にすり替えるわけです。

大きな肉体への憧れは、もちろん巨大ロボットや巨大戦艦で表現するわけです。宗教画にも演劇にも造詣が深くないので、アニメ独特の動きを追求するわけです。

日本製アニメのいたずらなカラフルさはまた、日本人の地味さが基礎にあるのだろうと思われます。砂漠の国では建造物がカラフルだ、というのと大体同じじゃないかと思います。

この映画の主演にしても、starz『スパルタカス』にしても、顔をあれだけ「汚し塗装」してあっても、眼に透明感があるので絵的にサマになる(黒人は白目部分が多い)わけですが、日本人は目も小さいし、虹彩も褐色だし、鼻が低くて深い陰影を表現できない。

おそらく日本のアニメは、それだけ見ていると「分からない」ものです。

背景となる山がちな大自然の色調の暗さ、民族の小柄かつ地味な顔立ちという「負」の部分まで総合すると、ちょうどバランスが取れていることが見えてくるのだろうと思います。

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Misha

Author:Misha
スマホ時代にさからう評論系長文ブログ。冷静に通読できる大人の読者様を想定しています。

「若い人」に直接呼びかける文章は、18歳以上のヤングアダルト対象です。高校生は受験を最優先してください。

書く人は、新旧とりまぜて映画とアニメを見ながら文芸書に取りくんでみたり、昔の漫画を思い出したり、お国の先行きを心配したりしております。

記事中の色つき文字は、映画中の台詞・挿入歌からの引用です。あらすじは、あまり申しませんので、楽しみに御覧ください。取り上げる作品は、暴力・エロスなど特殊な要素を含んでいることもあります。

ときおり、耽美・BL・同人・LGBTに言及します。いずれの分野からも、偏見と差別と自虐がなくなるといいと思っております。

「二次創作の責任を二十四年組に押しつけるな」「実在同性愛者に甘えるな」が基調です。

全体として、二十四年組ファンが社会学者に物申すという珍しい構図。一部勘違い同人を叱責することによって全体を守るという意図もあり、ときにかなり辛口です。

記事は時々予告なく手直し・削除・分割しております。保存は個人的閲覧の範囲で、お早めに御随意に。転載・改変利用は固くお断り申し上げます。

解題


Casketとは、玉手箱。

でも検索すると棺桶がならびます。来世まで持っていきたい好きな作品の記録帳とご理解ください。