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創作物は誰を悪役にするか?


若い女をはべらせた白髪の老人、というのが『さらば宇宙戦艦ヤマト』。

浪人者などの若い男をたばねる白髪の老人、というのが時代劇によくある型。

このへんは、脚本家・監督などから見て「既成の男性中心社会の権力の象徴」ってことで、相対的に若い主人公たちにとっては目の上のタンコブであることが分かりやすい。

将来結ばれるべき若い男女が世界の平和を守っていて、対するに「おほほ」と笑う男性(トランスキャラクター)が悪役というのが『科学忍者隊ガッチャマン』(1972年)から『美少女戦士セーラームーン』(1992年)まで受け継がれた型。

「ジュディのお友達」と称した人々が反撃の狼煙をあげた……というと物騒なので、勇を鼓して人権運動に踏み出したのが1969年。

映画・テレビなどの創作界では、直ちに彼らを「滑稽な悪役として描く」という、反改革とは言わないまでも、揶揄する意識が表現されたと思います。

申すまでもなく、都心部に結集している映画スタッフ・テレビスタッフの多くは、実家を後にしてきた若い男性で、その多くはストレートです。

先日拝見したテレビドラマ『相棒』では、人工頭脳ジェイムズくん育ての親である孤独な女性が悪役でした。バーチャルリアリティにのめり込む独身女性の痛々しさと、仕事にうちこむ健気さが、個性的な女優により、やや誇張されて表現されていましたね。

もともと彼女自身の仕事なんですから、プログラムの名前を「Namiko」にしたって悪いこたありません。

ほんとは「あの子」がネットの大海に出て行くんじゃなくて、あくまで彼女の仕事が世界を席捲するのです。ネット上の人工頭脳が世界中の法務省データベースにアクセスし、難事件の犯人を割り出して、被害の拡大を防ぐ。男性が暴力をふるうことの多い世の中で、彼女が新世界をつかさどる神となるのです。

もともとの目的が悪いことじゃないのが悲しい話です。

人類史の初期には、穀物を生じる大地の象徴として、一人で子どもを産む女神が登場します。その子どもは、娘ではなく、男の子です。アポロンも、ヒュアキントスも、一寸法師も、もとはそのような大女神の脇侍としての小児神、穀物そのものの象徴だったらしいです。

人の口に入って咀嚼されてしまうものが男の子なんですから、不思議といえば不思議ですが、これは古代の詩人の多くが男性だったから「ママと僕」を描きたかったのでしょう。

キリストの処女懐妊という話が、異常事態として否定されるのではなく、尊敬と思慕の念をもって受け入れられることにも、この古代の記憶が反映しているのでしょう。

大女神の多くは、世界がキリスト教化されていく過程で、古代の悪習の象徴、魔女ということになりましたが、ジェイムズくん育ての親も、魔女のようでもあり、巫女のようでもある風貌を持っていたかと思います。

巫女とはもちろん神のよりしろであり、神の声の代弁者です。

「こういう孤独な女は、茶色い巻き髪と三重マスカラでおしゃれしていたりしないものだ」というステレオタイプ認識は、創作物にはやっぱり必要で、「おしゃれな研究者もいます!」とか言ってると、話が成り立たないということはあります。

いっぽうで、法務省の役人というエリートの小悪党ぶり(彼は色事に熱心だっただけで殺人をおかすほどではなかった)も描かれていたわけで、そこは伝統的といえるかもしれません。

それにつけても右京さんが小料理屋でくつろぐ場面が減ったことで、薫ちゃん夫妻がその後登場しないのはもちろんですし、都心に在住する脚本家たちにも独身者が増えているのでしょうし、ふつうというか伝統的な男女の安定的な関わりが描かれなくなっていくのかもしれません。

ここで「日本はおかしい」とか言っちゃうのはやや早計で、東京イコール日本ではありません。

ドラマの不調は、中央から発信される(若い)人生模様と、地方が希求する内容とのギャップによるのかもしれないと思う時もあります。

どう考えても若者が集結し、相対的に熟年世代の比率がさがっていく東京において、彼らを満足させ得るドラマが制作されることはむずかしい。

仕事に夢中すぎる女性を悪役にするのは、あるいは彼らをも満足させ得るかもしれませんが、毎回それをやるわけにも行かないし、彼ら自身(中高年男女)の痴情のもつれを若いスタッフが揶揄的にえがいたら「不愉快だ」って言われるでしょう。

『相棒』には、中年女性がむかし世話になった監督の「映画を見ながら死にたい」という夢をかなえてやったという良エピソードもありましたが、あれも何回も使える手でもありません。

「犯罪動機なんて、ようするに色と金」と開き直れば自嘲的になって『TRICK』になっちゃうわけですが、そういうわけで『相棒』の脚本陣は神経すり減らしているだろうと思います。

素人が申すまでもありませんが、上手に気分転換なさってください。


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Misha

Author:Misha
スマホ時代にさからう評論系長文ブログ。冷静に通読できる大人の読者様を想定しています。

「若い人」に直接呼びかける文章は、18歳以上のヤングアダルト対象です。高校生は受験を最優先してください。

書く人は、新旧とりまぜて映画とアニメを見ながら文芸書に取りくんでみたり、昔の漫画を思い出したり、お国の先行きを心配したりしております。

記事中の色つき文字は、映画中の台詞・挿入歌からの引用です。あらすじは、あまり申しませんので、楽しみに御覧ください。取り上げる作品は、暴力・エロスなど特殊な要素を含んでいることもあります。

ときおり、耽美・BL・同人・LGBTに言及します。いずれの分野からも、偏見と差別と自虐がなくなるといいと思っております。

「二次創作の責任を二十四年組に押しつけるな」「実在同性愛者に甘えるな」が基調です。

全体として、二十四年組ファンが社会学者に物申すという珍しい構図。一部勘違い同人を叱責することによって全体を守るという意図もあり、ときにかなり辛口です。

記事は時々予告なく手直し・削除・分割しております。保存は個人的閲覧の範囲で、お早めに御随意に。転載・改変利用は固くお断り申し上げます。

解題


Casketとは、玉手箱。

でも検索すると棺桶がならびます。来世まで持っていきたい好きな作品の記録帳とご理解ください。