水木しげる作品の思い出。

  01, 2015 10:20
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戦後の闇市の時代に、マッチを一本ずつ売る老婦人。まとっているのは薄い和服一枚だけ。

客の買ったマッチを自分ですって、その灯りで自分の着物の中を見せるのが本当の商売なわけです。でも歳を取ってしまって、もう誰からも相手にされない。しまいに自分ですったマッチの火が着物の裾に燃え移る。炎に巻かれながら「あったかいよ、お父ちゃん」とつぶやく。

「お父ちゃん」とは父親のことだったのか、夫のことだったのか。

いま手元にないのですが、いずれかの傑作集に収録されていると思います。原作つきだったかもしれません。

『遠野物語』にはご自身が登場なさって、柳田の紹介したエピソードを一つずつ検証するという形式でした。最初に登場した山女がえらくセクシーに描かれていましたね。有名な「幽霊の着物の裾で茶碗が廻る」という話については「この婆さんは現世への執着が深い」という感想を述べておいででした。

まちがいなく人間の愛欲と業を描いているんだけれども、読者にとって不快ではない。暗くなるまでに丁寧に描かれた画面からは、画業への誇りと人生への愛惜が感ぜられます。

妖怪絵は原画展を拝見したことがありますが、広重を模した風景の中に妖怪が顔を出していて、人間が逃げ出す様子が描かれていたかと思います。

妖怪の父といえば、まるで小林一茶のように妖怪たちと戯れていた好々爺のようですが、彼の作品には、妖怪の出現に眼をむいて驚く人間の姿が描かれている。

戦場を見てきた人の心のうちには、死んだ人が化けて出る、破壊され、放置された器物に恨みの心が宿るということへの現実感と、強い恐れがあったことと思います。

剣よりも、小銃よりも、Gペンの力が人を打つ。漫画の心が受け継がれてほしいです。ご冥福をお祈りいたします。



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