水木しげる『墓場鬼太郎①』

  14, 2015 10:20
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先生、怖いです。

角川文庫、貸本まんが復刻版。平成18年初版。多色刷りの貸本表紙が一巻ごとに再現されています。文庫の体裁でこれをやるのはすごい。

第一話は掲載誌が『妖奇伝』。漫画タイトルは『幽霊一家』。絵柄がアメコミ調。主人公がなかなかダンディ。職業は銀行の調査員。ハードボイルドを意識していたと思われます。クロスハッチングを多用したペン画ならではの背景が泣けます。こういう技術は残していきたいですね。

期せずして「人間よりも前から地球に存在していた種族」という話を続けて鑑賞してしまいましたが、やっぱりSFも怪談も、ついでに耽美も、現代文明の否定、人間社会の相対化という意味があります。

人が死ぬと溶けるというのは戦記ものを読んでいても出てくる話で、どうしても漫画家の心には戦場体験が深く刻まれていたのだろうと思います。

『墓場鬼太郎』は『妖奇伝』廃刊の後をうけた雑誌の名前。その第2巻に掲載された『下宿屋』の冒頭、老教授の遺体が鼠に食われるあたりまで、ポー、ダーレスを思わせる陰惨な正統派ホラーの展開が、個人的には好みです。

ここからは路線変更を図ったらしく、早くも目玉オヤジが愛されキャラになってます。これは笑いながら読んでいいのだろうと思う。戦前の人らしいというか、テンポの早い乾きぎみの笑い。

妖怪や幽霊を怖がるのは人間なわけで、人間キャラクターが導入の役目を終えて退場し、妖怪どうしの話になってしまえば、読んでいる人間は面白がっていられる。他でも見られる創作上の定石なのかもしれません。

巻末には水木サン自身による回想録が掲載されており、生活の苦闘から紆余曲折の果てに妖怪コメディが生まれてきた様子が分かります。救いの神となった読者はどなただったのでしょうか。

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