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水木しげる『墓場鬼太郎①』


先生、怖いです。

角川文庫、貸本まんが復刻版。平成18年初版。多色刷りの貸本表紙が一巻ごとに再現されています。文庫の体裁でこれをやるのはすごい。

第一話は掲載誌が『妖奇伝』。漫画タイトルは『幽霊一家』。絵柄がアメコミ調。主人公がなかなかダンディ。職業は銀行の調査員。ハードボイルドを意識していたと思われます。クロスハッチングを多用したペン画ならではの背景が泣けます。こういう技術は残していきたいですね。

期せずして「人間よりも前から地球に存在していた種族」という話を続けて鑑賞してしまいましたが、やっぱりSFも怪談も、ついでに耽美も、現代文明の否定、人間社会の相対化という意味があります。

人が死ぬと溶けるというのは戦記ものを読んでいても出てくる話で、どうしても漫画家の心には戦場体験が深く刻まれていたのだろうと思います。

『墓場鬼太郎』は『妖奇伝』廃刊の後をうけた雑誌の名前。その第2巻に掲載された『下宿屋』の冒頭、老教授の遺体が鼠に食われるあたりまで、ポー、ダーレスを思わせる陰惨な正統派ホラーの展開が、個人的には好みです。

ここからは路線変更を図ったらしく、早くも目玉オヤジが愛されキャラになってます。これは笑いながら読んでいいのだろうと思う。戦前の人らしいというか、テンポの早い乾きぎみの笑い。

妖怪や幽霊を怖がるのは人間なわけで、人間キャラクターが導入の役目を終えて退場し、妖怪どうしの話になってしまえば、読んでいる人間は面白がっていられる。他でも見られる創作上の定石なのかもしれません。

巻末には水木サン自身による回想録が掲載されており、生活の苦闘から紆余曲折の果てに妖怪コメディが生まれてきた様子が分かります。救いの神となった読者はどなただったのでしょうか。

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Misha

Author:Misha
スマホ時代にさからう評論系長文ブログ。冷静に通読できる大人の読者様を想定しています。

「若い人」に直接呼びかける文章は、18歳以上のヤングアダルト対象です。高校生は受験を最優先してください。

書く人は、新旧とりまぜて映画とアニメを見ながら文芸書に取りくんでみたり、昔の漫画を思い出したり、お国の先行きを心配したりしております。

記事中の色つき文字は、映画中の台詞・挿入歌からの引用です。あらすじは、あまり申しませんので、楽しみに御覧ください。取り上げる作品は、暴力・エロスなど特殊な要素を含んでいることもあります。

ときおり、耽美・BL・同人・LGBTに言及します。いずれの分野からも、偏見と差別と自虐がなくなるといいと思っております。

「二次創作の責任を二十四年組に押しつけるな」「実在同性愛者に甘えるな」が基調です。

全体として、二十四年組ファンが社会学者に物申すという珍しい構図。一部勘違い同人を叱責することによって全体を守るという意図もあり、ときにかなり辛口です。

記事は時々予告なく手直し・削除・分割しております。保存は個人的閲覧の範囲で、お早めに御随意に。転載・改変利用は固くお断り申し上げます。

解題


Casketとは、玉手箱。

でも検索すると棺桶がならびます。来世まで持っていきたい好きな作品の記録帳とご理解ください。