1952年、新東宝『清水次郎長傳』

  25, 2015 10:20
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石松三十石船、七五郎の義侠、閻魔堂の最期、青木屋の決斗。

製作:杉原貞雄 監督:並木鏡太郎 脚本:三村伸太郎 撮影:横山實
出演:高田浩吉(松竹)・田崎潤・月形竜之介・市丸(ビクター)・廣澤虎造

見渡せば、富士の高嶺に久能山。田子の浦風そよそよと。東海道は良いところ。

唐突な選択は、近所のホームセンターでDVDを売ってたからです。廣澤虎造の本人出演に惹かれました。ナレーションの代わりに浪曲が全編に用いられています。青木屋の酒宴のシーンでは市丸姐さんもご本人出演。眼福耳福。

大正生まれの祖父が「虎造が最高だった」って言ってたんですが、いま思えば実演を聞いたことがあったのかどうか。地方に根づいて畑を耕す人の、ラジオを通じて娯楽を求める心、芸術に憧れる心は大切にしたいものです。

タイトルからいうと「駿河の国が安部ごおり、清水みなと、うど町に住居をする山本長五郎」の一代記みたいですが、本人はすでに海道一の大親分になっています。実質、遠州森の石松を主人公にした活劇。

次郎長親分(月形竜之介)は眼ぢからがすごいです。石松(田崎潤)は声に張りがあって、ニヤリと笑った顔がセクシーな色男です。角帯に一本刀の落とし差し。金毘羅さんへ向かう船で虎造と邂逅。
「江戸っ子だってね」
「神田の生まれよ」
う、嬉しい。

次郎長は海運で成功した人なので、願掛けをする時は海神である金毘羅権現に祈るようです。石松は満願のお礼参りの代理。船に乗り込む場面はセットで再現する代わりに広重の「京都名所之内 淀川」が映し出されます。

虎造はじめ、べらんめェのよく廻る役者たちの名人芸にすべてを委ねて、各場面とも大変な長廻しです。そのカメラの構え方が気が利いていて、人物をちょっと斜めから撮るのです。船の窓の外から撮る構図もじつに粋です。

脚本も編集も過不足なく、すごく洗練されていると思います。浪曲で聞かれるエピソードをだいぶ端折って、テンポよくつないでいます。浪曲ファンには物足りないかもしれませんが、映画俳優の力量で「見せる」技術が高いのだと思います。もちろん白黒時代で、縦線も入ってますが、画面はかなりきれいです。修復も良かったのでしょうが、もともとの保存が良かったのでしょう。

(なお、古い映画に「雨」が降っているのはフィルムの特性ではなく、保存の悪さによる劣化なのだそうです。)

小松村の七五郎(高田浩吉)は出演者筆頭。中盤の主役で、水際立った美形です。嫁のお民さん(浜田百合子)もすこぶるカッコいい。お安くないです。

都鳥(進藤英太郎)は小者の悪役らしいツラ構えで、いかにも憎々しいのですが、これこそ大切な役どころで、名悪役というのでしょう。物語はこの悪役のせいで、急激に(まさに)真剣味を帯びてきます。

「女に会うまでにしなきゃならねェ大切な用があるんだッ」

いいこというね、石。

斬り合いのBGMはオーケストラを使用したロマン派ふうですが、曲調がよく、違和感はありません。竹やぶを再現したセットがすごいです。保下田の残党によるコメディリリーフも良いバランス。使いどころと切り上げるタイミングがいいので、こういうのは歌舞伎から来ているでしょうか。

物語は石松の仇討ちということになって大詰めを迎えます。座敷を埋め尽くす配下から十一人の精鋭を呼ばわるシーンはゾクゾクしますね。

決斗の舞台となる青木屋の主人は喜劇の名人芸を見せます。こういうのは空襲で全滅したという浅草にまでさかのぼるのでしょうか。もっと前の幇間の芸でしょうか。画面隅でじっと待っている竜之介親分(もとい)次郎長親分もいい味です。

斬り合いでは血糊が見られません。舞台劇(歌舞伎など)をそのまま踏襲しているのですが、個人的には充分だと思います。

冒頭とラストシーンの茶畑はどこでしょうか。セットかな!?(広大) 富士山は明らかにマット画ですが、見事です。もう少し右肩の宝永山が尖っていると、駿河の富士山らしいです。

風さえ薫る東海道。清水一家の伊達姿。

みずからの個性をわきまえた俳優と、本職の芸人と、引き算の美学を心得た映画人。フィクションの楽しさを堪能できます。良い時代でした。

清水の次郎長は、関川夏央・谷口ジロー『秋の舞姫』(双葉社)に登場していました。「この喧嘩。清水の次郎長があずかった」 かっこいい……。

この映画だけ見ると、まるで江戸時代の人ですが、海道一の親分は維新の大混乱を乗り越えて活躍した人です。お茶畑にも自ら関わっています。『秋の舞姫』には「明治二十六年天寿をまっとうした」とあります。あらためて長五郎の一代記も読んでみたいと思います。追分羊羹も買ってこようっと。

※ 故きを温ねる記事にて年内は終了いたします。皆さま良いお年をお迎えくださいませ。

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