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2002年、森昭雄『ゲーム脳の恐怖』NHK出版


根本的には「子どもには外遊びと言葉かけ、スキンシップが必要だよ」と云ってるんで、悪い話じゃないのです。運動のきっかけになるゲームならいいんじゃないかというのも常識的な判断です。

これを叩くこと自体を面白がっちゃうと、ゲーム叩きの裏返しの同じ穴のむじなで「ゲーム脳脳脳」みたいなことになっちゃうでしょう。

読んだのは初版発行後わずか三ヶ月後に出た第七刷。最終的には三十五万部ほどになったそうで、今ではなかなかこの数字を出せなくなりましたね。

何故そんなに受け入れられたのか? 比喩としては理解できるからです。

ゲームばかりやっていれば、動体視力は良くなるが、新聞も読まない・ニュース番組も見ないのだから、社会の動きに疎くなり、選挙にも関心がなくなる。親が呼んでも返事もしない。どうしたら云うことを聞かせられるんだろう?

この疑問に対して「脳みその後ろのほうは働いているが、前のほうは働いていない」という話は分かりやすい。「幼い頃からの繰り返し訓練によってゲームに特化した機械化人間のようなものが出来あがってしまったんだ」ということを云われれば、やっぱり人間としてゾッとする。

つまり、背景には「昭和的な詰めこみ教育を見直して、世界に通用する人材を育てよう」という、21世紀型全人教育の理想がある。親世代自身に「会社人間」とか、そういうものへの反省がある。だからこそ厄介なのです。

この手の話は必ず「自分が子どもの頃には野山をかけまわって」というノスタルジーの表出につながっていくわけで、これが人生の半ばを過ぎた人々の「自分の時代が最高だった」というナルシスムを満足させる。

そのような「生きた」遊びの中から、このように優秀な科学者が育ったのだから、あの全人教育を復活させれば、長引く少子化と不況を解決できる。自分も安心して旅立つことができると思う。人間「Ego」から離れることはできない。

きれいに話が廻っちゃうのです。

なお、新作ゲーム展示会におけるコスプレイヤーの様子を「中学生くらいの女の子が背中に白い羽根を飾って無表情に歩いていたので驚いた」という具合に書いており、もともとサブカル方面に慣れていない人であることが分かります。

歩いてるだけなのに満面の笑みを浮かべていたら、むしろ怖いです。

コスプレ衣装をそろえて(ことによると自作して)会場まで来る子というのは、それなりに意欲も行動力もあるので、そんなに心配することはありません。

筆者の生年は紹介されておりませんが、公式サイトに日本大学を1969年に卒業したとあるところからすると、おそらく1945年頃の生まれで、2002年の時点で五十代半ばくらい。1980年代に入る頃には、すでにコスプレしたファンが1941年生まれの富野由悠季を勇気づけたりしていたわけでございますが。

出生数は第二次ベビーブーム終了直後の1975年に激減しており、以後回復しません。1975年生まれは、ファミコン登場の1983年には、8歳。

8歳では、まだ文字をスラスラ読めるとは限りません。漫画の中核的な読者層とは云えません。もともと人数が少ないのに、丸ごとゲームにかっさらわれたのです。ゲーム機・ソフトとも高価なので、保護者は「今月はゲームを買ったから漫画は無しよ」と云ったでしょう。

少年漫画出版界は、この時点で暗澹たる未来を見たのです。

代わりに取り込まれたのが女性読者だったわけで、少年漫画キャラクターの女性化は、最近どころか30年も前に王道路線となったのです。閑話休題。

発刊&ベストセラー後、十年以上が経過しましたが、ダンスゲームは当時ほど盛んではなくなってしまったように思います。ニンテンドー「ウィー」を家族で楽しみましょうというテレビコマーシャルも減ったようです。スマホの普及によって、指先ゲームの普及は明らかに加速したでしょう。

ゲームに害があるかどうか、子どもが「キレる」原因になっているかどうかは、じつは脳波では証明できない。

本書が論駁された後、じゃあデジタル機器に関する問題行動はなくなったかというと、オンラインゲームに一千万つっこんだとか、ツイッター廃人とか、ラインいじめとか、続出しているわけで、デジタル機器と情報インフラの発達に人間(の少なくとも一部)のほうがついて行けていないことも明らかなようです。

ゲームに熱中して他の情報を遮断すれば、政治にも社会にも関心も意見もない人間になるに決まっておりますし、熱中をさまたげられると怒りっぽくなることも多くの人が経験済みでしょう。

でも、これはデジタルに限った話ではなく、昔っから文学に熱中しすぎて命を縮めてしまった作家とか、賭博のトラブルで刃傷沙汰とか、にせものの骨董品に財産つぎこんだとか、マネーゲームで逮捕とか、いろいろあるわけです。

機械と数字を用いて証明するという手法がいかにも男性的な自己顕示欲というべきか、退官を目前にした五十代の筆者による自分史の一種、男性ナルシスムの象徴なんて読み方もできるかもしれません。

いずれにせよ「ゲームに熱中しすぎて他のことをやらないと偏った人間になるよ」という基本的な認識自体は、誰が聞いても「そりゃそうだ」と納得できることではあります。

だからまァ比喩の一種として、いろいろな意味で自戒の書として、一度読んでおくのもいいのではないかと思います。


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Misha

Author:Misha
スマホ時代にさからう評論系長文ブログ。冷静に通読できる大人の読者様を想定しています。

「若い人」に直接呼びかける文章は、18歳以上のヤングアダルト対象です。高校生は受験を最優先してください。

書く人は、新旧とりまぜて映画とアニメを見ながら文芸書に取りくんでみたり、昔の漫画を思い出したり、お国の先行きを心配したりしております。

記事中の色つき文字は、映画中の台詞・挿入歌からの引用です。あらすじは、あまり申しませんので、楽しみに御覧ください。取り上げる作品は、暴力・エロスなど特殊な要素を含んでいることもあります。

ときおり、耽美・BL・同人・LGBTに言及します。いずれの分野からも、偏見と差別と自虐がなくなるといいと思っております。

「二次創作の責任を二十四年組に押しつけるな」「実在同性愛者に甘えるな」が基調です。

全体として、二十四年組ファンが社会学者に物申すという珍しい構図。一部勘違い同人を叱責することによって全体を守るという意図もあり、ときにかなり辛口です。

記事は時々予告なく手直し・削除・分割しております。保存は個人的閲覧の範囲で、お早めに御随意に。転載・改変利用は固くお断り申し上げます。

解題


Casketとは、玉手箱。

でも検索すると棺桶がならびます。来世まで持っていきたい好きな作品の記録帳とご理解ください。