俺はいったい誰なんだ。

  18, 2012 10:57
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白河院の落胤である。

どっちみち忠盛が乳父として面倒を見ていたであろう子供である。

「取り入るためにもらい受けた」というのであれば、面識もない下っ端だった者が、不倫の子をかかえて困っていた白河院(笑)を救ってやった、ということでなければならない。それによって忠盛はどんどん出世したってことでなければならない。

実際のところは、仕事(=出世のチャンス)をまわしてもらえるという引き立てはあったが、位でいえば白河院のなくなる時点で四位であり、のちの清盛自身の大出世に比べりゃ大したことはない。

彼はその後も(他の貴族ではなく彼のみに可能な)武力によってコツコツと手柄を立てることによって正四位上までやっとの思いで昇るのであり、「娘を入内させて皇子を産ませ、おじいちゃんいきなり一位」みたいには、赤ん坊(清盛)のおかげってわけじゃない。

「すでに取り入っていたからこそ、ごほうびとしてもらい受けた」「信頼の証として預けてもらえた」ってところだ。

たとえ院の末子として正式に「認知」されていたとしても、今さら立太子とかあり得ないし、うっかり独立させて貧乏な公家にするよりは、既に金持ちである平家に頼むほうが安心で、親心としてむしろ正しい。手に職をつけさせてやってくれ、院の家来として働けるように武芸を身につけさせてやってくれ、ってことになっていただろう。儂も(自分の息子に苦労させないように)末永くお前さんを保護するよ……ってことで、そう考えりゃ赤ん坊は二人の父に愛されたのであり、結構な話だ。

というわけで清盛くんは「誰なんだ」と言われりゃどっちにしても「最初は白河院の子、今は忠盛の子、将来は平家を継ぐ子、そのことを院もお認めになっている子」ってことでべつに間違いではない。

本人が気に入らないことがあるとしたら「自分で決めた運命ではない、親の敷いたレールには乗らない」ってことだが、もちろん当時の人間の考えそうなことではない。現代人の観るドラマだし、その反骨精神によってこそ大事業を成し遂げられたのだと話がつながっていくところだから、それはいいとしても……

清盛くんは自分が忠盛の実子ではないことに気づかされたからこそグレて家出したのだが、それにしちゃ思い切りが悪い。しかも家令の家貞も継母の宗子も、彼を嫡男として受け入れようとしている。うるさいこと言ってんのは叔父の忠正だけだが、彼自身は「平家の存続のために清盛を廃嫡すべきだ=兄の家長としての判断が間違っている」と騒ぎ立てる正にそのことによって、いま現在の一門に分裂の危機を招いていることに気づいていない。

彼が騒ぐのは「義姉がかわいそうだ」という心理によるが、義姉と不倫してるわけでもないし、それを狙ってるわけでもない。じつは家盛は彼の子ってわけでもない。「下の子として生まれた俺の苦労、甥っ子への同情」を語ることで言い訳としているが、不倫を疑われる恐れがあることに気づかない。彼は最初っから良い人あつかいになっている。一門の信頼が厚いことになっている。だったら尚さら分裂の危険がある。彼は少なくとも人前では黙っていなければならない。演技は面白かったけどねーー

義姉は「私の代わりに夫と喧嘩してください」と頼んだわけではない。彼は勝手に察して、勝手に喧嘩してくれる。黙っていてもジャスト誕生日にネックレスをプレゼントしてくれて、しかも「あいつとうまくやれよ」などと微笑し、決して「俺とホテルへ行こう」などとは誘わない男みたいなものだ。

いっぽう清盛くんは、乳父の盛康以下、自分の味方になってくれる郎党を糾合して忠正と対決姿勢をとるわけでもない。判断を忠盛にあずけている格好だが、あの養父には揺らぎがない。

それでも清盛くんがグレているわけは、つまり「子供のころ異母弟にケガをさせたので継母にひっぱたかれた」ことを根に持ち続けているからであり、表面的には「父をなくしたのでグレた」「後継者にふさわしくないと言われたのでグレた」と主張するが、実際には「本当のお母さんを知らない」ことをずっとスネているのである。そしてこれが五十歳過ぎてから寸白の熱に浮かされて妖しい夢のなかでついに母の遺体を確認するまで続く。

つまり「生みの母の影響力はそれだけ大きい」という女性の自己満足が真のテーマである。

それを強調する必要があるので、彼らは男として行動しない。うるさい者を黙らせ、迷う者を説得し、そのために必要な実力を身につける努力をしない。山にこもったり寺にこもったりしない。

白河院の落胤であることを誇りとし、あるいは鼻にかけて、家成を通じて運動し、親王宣下をせまるわけでもなければ、天一坊のような事件を起こすわけでもない。

武士にふさわしくないと言われたら、そんなことはないと武芸の稽古にはげめばよい。兵法を勉強し、一門を率いて戦のできるところを見せればよい。その対抗者は「兄の判断が間違っており、弟の俺のいうことのほうが正しい」というなら、いっそ自分の子を次期棟梁に推せばよい。

清盛と忠正が騒ぐのは、それによって宗子が毅然と「清盛も私の子です」といってのけるための布石であり、男二人は宗子の引き立て役である。で、それ以上の意味がない。

「清盛くんが傷ついた→義母は反省した」という流れにしたいので、清盛くん(7歳)は街のいたずら小僧にひとこと言われただけで彼を信じてしまい、それまでの家族への信頼をかなぐり捨ててしまう。えらい簡単であるのは、その前提に「そういえば昔お母ちゃんにひっぱたかれた」ってことがあるからだ。

つまりテーマがズレており、真の主人公が清盛じゃないので、エピソードが男のドラマとしてはつながっておらず、どっかで聞いたような話の寄せ集めになっており、違うほうへ違うほうへ展開していく。

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