1977年、ルイス・ギルバート『007 私を愛したスパイ』

  08, 2016 10:20
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むかーーし、ソ連という国があったのです。マイクロソフトではなく、マイクロフィルムの時代でした。いま、レーニンの遺体はどうなってるんでしょう。

『さらば宇宙戦艦ヤマト』が公開された1978年の洋画・邦画合わせた配給収入ランキング第3位。約32億円。SF全盛時代に、七つの海の覇者が意地と洒落っけを見せました。

デタント時代のソヴィエト・アングロ・コーポレイション。見せ場盛り沢山で飽きない2時間5分。ショーン・コネリー時代に練り上げられた007らしさの粋を集め、最新技術でブラッシュアップ。

ロケもセットも火薬量も豪華で、体当たりアクションが次から次へと繰り出され、SF映画張りの特撮も美しく、ときどき真顔でパロディも入ります。「ポチョムキン」捕まっちゃうし。

制作陣による解説つきの特別版DVDを借りたのですが、それによると、妙にだだっ広いKGB司令官のオフィスもエイゼンシュテイン映画を参考にしたのだそうです。

モーリス・ビンダーによるオープニングは1960年代の味わいを維持して趣き深く、本編は小気味よい台詞のやり取りも、登場人物の目線を意識したカメラワークも、照明の使い方も、緩急自在な編集も、音楽の使い方も、たいへんに洗練されております。

監督さんは、あまり他で聞かないお名前ですが、これまでに30本ほど撮ってきたのだそうで、潜水艦内の緊迫感の描き方からして、戦争映画を撮れる人なのだろうと思いました。

銀髪の美しいクルト・ユルゲンスは魅力的なヴィラン。引きこもりの大金持ちは新世界の神になりたいタイプ。手に水かきがある設定なのだそうで、握手を拒んだ後、片手を挙げた際に一瞬見て取れますが分かりにくいです。もうちょっと強調すれば、単なる金持ちではなく、海を愛した男の悲哀が出たかもしれません。

海中基地はデザインも良く、浮上シーンが印象的でした。窓外のお魚は沖縄の水族館で撮ったのだそうです。

Why do we seek to conquer space when seven-tenths of our universe remains to be explored?

「なぜ宇宙などへ行くのかね。世界の7割が未知のまま残されているというのに?」

アメリカの流行を完全に逆手に取っております。

「ジョーズ」の下敷きが何かとは云うまでもなく、海中から見た浜辺の景色もそのまんまですし、イギリス人のジョークセンスは臆面もないようです。それにつけても鮫の餌になるのはいやですが、男に首筋を食われて死ぬのもいやですな。好みのタイプですかそうですか。(愛されキャラではあります。)

いっぽうで、軽くエジプト観光案内でもあり、ルクソールの古代神殿を背景にアフターファイブの正装のままというミスマッチが素敵です。

エジプトロケというと、ピーター・ユスチノフ主演『ナイル殺人事件』も同じ頃の作品だろうと思います。(確認したところ、翌年でした)

イギリス人がエジプトと聞いては黙っていられなかったようで、耳に懐かしいメロディーが響いたには爆笑させてもらいました。編集室のジョークだったのがラッシュでもウケたのでそのまま使ったそうです。そらウケますわな。

思えば、この異国情緒と体当たりアクション、魅力的なヴィランの造形をSFの世界へそのまま移したのがルーカス作品なわけで、本家本元が気を吐いたのです。

英米がテニスボールを打ち合うかのようで、横で見ている東洋人としても楽しい限りです。

アメリカの若者たちの作品との大きな違いは、もちろん化粧濃いめの女が大勢登場するところで、この後は世界的に女優から化粧っけがなくなってしまうので、最後の華といえるかもしれません。

「Every woman for herself. Remember?」(女は誰でも自分のことだけよ。忘れてた?) ぷぷっ。

今回のボンドガールは添え物ではなく、彼女とボンドと悪役ジョーズがそれぞれに活躍するバランスが良いです。

女とできてしまうと物語が弛緩するのがいつものパターンですが、これは裏にもう一つの愛のドラマを置いて緊張感を保ったのが良いアイディアでした。

緊迫の一夜明けて、サルディーニャ島の馬車に同乗する姿に肌を許した男女の馴れた雰囲気が漂うところも良いです。さっそく始まる女の闘いw 

当時の人も、電化チャンバラは若者にまかせて、やっぱり大人はこっちだよと思ったかもしれません。

私が愛したスパイは永遠にショーン・コネリーなのですが、ムーアもいいなと思ったことです。根が真面目そうで、情が深い感じ。コネリーはもっと気障で底知れない感じでしたね。

現代では、せまいスタジオで撮影して、照明で輪郭線をぼかして、CGで背景を描いて、切り替えテンポの早いデジタル編集で空間のせまさをごまかしてってやってるわけですが、この頃は真顔で実物大のセットや巨大模型を組んでしまい、フィルムで撮ってるわけで、今となってはその実直な仕事ぶりに感謝の念が湧いて参ります。

なお、原潜の内部が遊覧船のように快適そうなのですが、撮影の都合上、かなり広めに造ってあるのだそうです。空を映した海の色が美しいラストショットには「次回はユア・アイズ・オンリーです」って字幕が出ました。

さて、バカルディを買ってきて、ロックで飲ろうと思います。(いい女のふり)

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