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1978年、角川春樹・佐藤純彌『野生の証明』

「自分はただの、平凡な市民です」

2時間23分。『さらば宇宙戦艦ヤマト』が洋画・邦画あわせた配給収入第5位だった1978年の第4位。約22億円。

『西崎義展の狂気』(講談社)が、同時期の型やぶりプロデューサーとして角川春樹を紹介していまして、その宣伝戦略のすごさに言及していたのですが、当時、身をもって経験しました。おとーーさーーん、怖いよーー。テレビを点ければ聞こえたものです。

……あれ? 映画冒頭の立てこもり事件の字幕は「1980年5月」でしたから、ちょっと未来の話という設定なのですね。「この作戦は世界同時革命戦争の一環である」という新左翼も、三國連太郎の金持ちっぷりも、ベタな描写が良いです。

国家権力とブルジョワと極道(または外道)の癒着vs.名もなき市民というガッチガチな左傾的世界観による対立の構図は同時代の和田慎二の漫画にもよく見られました。

海の向こうでは「デタント時代のソヴィエト・アングロ・コーオペレイション」とか云ってたんですが。

原作は150万部(!)の大ベストセラーだそうで、今さらではあるのですが、ネタバレ厳禁のミステリーの一種でもあるので、あらすじは申しません。

脚本の良さは原作の良さでもあるのでしょうが、三國と丹波も出ていた『切腹』に匹敵するでしょうか、超えたでしょうか。

メインキャラクターの人数が最小限に抑えられ、無駄のない台詞・場面構成によって、映画作りに緊張感があった頃の、手に汗にぎる面白さにあふれております。

キャスティングがじつに豪華で、仁義なき面々が男盛りの色気を振りまいておりまして、その中央にあって、日本一ワッパ姿の決まる男が残侠(いや特殊工作隊員)の不器用な花を咲かせております。最近こういうの減ったので、再見の価値は高いです。

因縁の村におけるクライマックスは「待ってました」と声をかけたくなることです。終盤は原作とは変更されているのだそうで、荒唐無稽になっちゃうのですが、かえって高倉の生真面目な存在感が赤銅色に艶光りしております。

どこの演習場で撮ったんだろう(近所にしては富士山が見えないなァ)とか思いつつ、DVD終了後に付録映像を見たところでは、アメリカで大ロケを敢行したそうです。

この「アホか」と云いたくなるようなアイディアを実現しちゃうところが素人プロデューサーの強みなのかもしれません。

前半は東北の山村や、古い南京下見板張りの洋風建築をロケハンした、やや時代錯誤な背景が金田一(じっちゃんのほう)を彷彿させるわけですが、後半の展開は市川昆なら撮ることは撮るかもしれませんが役者が兵ちゃんじゃできないわけで、ほかにも1960年代のハリウッド大作とか、仁侠映画とか、いろいろと想起させることではあり、映画の面白みを知っている人が、あらゆる要素を取り入れて、自分で自分の一番見たい映画を作っちゃったのです。(うらやましい)

序盤は「話が見えない」と云いたいほどの荒っぽい並行モンタージュでたたみかけますが、だんだんに高倉の表情をじっと映し出すワンシーンワンカット的演出が増して、社会派ドラマの味わいを深めます。

前半を彩った中野良子は、一見した頼りなさからは想像もつかない、理知的で媚びてないのに色気が漂うという、すごくいい女優さんでした。あの独特の、台詞まわしは……真似したい。感じです。(←こんな具合に区切りながら発音する)

ちょっと海外女優にはいないタイプかもしれません。1時間19分あたりの女の勇気も、高倉の表情も、じつに良いです。そこで宿の外観を映しちゃうんですかそうですか。

大野雄二の音楽は、ティンパニを用いて大作らしさを響かせております。謎が少しずつ解けていくあたりではミステリアスな情感を高めました。どうしてもルパンのサントラに聞こえるのは云わない約束。

後半のアクションは、どこを取っても、この後のアクション映画やテレビドラマがどれほど真似したことでしょうという場面の連続でした。

夏木(夏八木)演じる刑事のキャラクター造形と、高倉演じる味沢との人間関係もよく、「ああ、沢木というオリジナルキャラクターの刑事を出した2007年の『MW』もこれをやりたかったのか……」なんて思いました。

それにつけても火薬量w

エンディングは甘さを出してしまいましたが、2時間超えの長丁場につきあった観客へのごほうびということで良いでしょう。女性観客としては本編で充分ですが、日本の男たちは少女が好きなのです。

「おとーさん、おとーさん」と甘える頼子(よりこ)ちゃんは、セーラー服の中学生というには、ちょっと幼い感じで、本当は小学生を設定・キャスティングしたかったかもしれません。でも薬師丸自身はカワイコぶったふうではなく、すごくナチュラルないい演技を見せたと思います。

刃物に気づくところのクローズアップの連続が良かったですね。ケーキはつぶれても味は同じだから大丈夫よ。

不思議な感受性のある少女というのは、ちょうど同じ1978年にテレビ放映されていた宮崎駿『未来少年コナン』にも通じるので、当時の流行だったのでしょう。

『私を愛したスパイ』を見た時にも思ったことですが、このすぐ翌年には、その宮崎駿が『カリオストロの城』で激リアル爆発シーンを含む伝説のカーチェイスを披露したのでした。

いい時代でしたね。

『さらば』と同じランキングシリーズはこれにて終了。

次は軽機関銃の健さんもいいけどやっぱ長ドスかなってことで残侠シリーズか、仁義なき方向へ振ってみるか。いや『戦国自衛隊』が先でしょうか。(たぶん『人間の証明』が正解)

製作:角川春樹、監督:佐藤純彌、原作:森村誠一、脚本:高田宏治。

付録映像に役者の生年が載っていたので、ご参考までに。

高倉健(1931年生)本作公開時47歳
夏木勲(現:夏八木勲、1939年生)同39歳
中野良子(1950年生)同28歳
松方弘樹(1942年生)同36歳
三國連太郎(1923年生)同55歳
丹波哲郎(1922年生)同56歳
舘ひろし(1950年)同28歳
成田三樹夫(1935年生)同43歳

男は、誰もみな無口な兵士。

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Misha

Author:Misha
スマホ時代にさからう評論系長文ブログ。冷静に通読できる大人の読者様を想定しています。

「若い人」に直接呼びかける文章は、18歳以上のヤングアダルト対象です。高校生は受験・就活を最優先してください。

書く人は、新旧とりまぜて映画とアニメを見ながら文芸書に取りくんでみたり、昔の漫画を思い出したり、お国の先行きを心配したりしております。

映画評は、アップロードする以上は「下げる」ようなことは言わないことにしております。あらすじもあまり申し上げませんので、楽しみに御覧になってください。記事冒頭の色つき文字は映画中の台詞・挿入歌の歌詞からの引用です。

なお、取り上げる作品は、暴力・エロスなど特殊な要素を含んでいることもあります。

ときおり、耽美・BL・同人・LGBTに言及します。いずれの分野からも、偏見と差別と自虐がなくなるといいと思っております。

「二次創作の責任を二十四年組に押しつけるな」「実在同性愛者に甘えるな」が基調です。

全体として、二十四年組ファンが社会学者に物申すという珍しい構図。一部勘違い同人を叱責することによって全体を守るという意図もあり、ときにかなり辛口です。

記事は時々予告なく手直し・分割・削除しております。保存は個人的閲覧の範囲で、お早めに御随意に。転載・改変利用は固くお断り申し上げます。

解題


Casketとは、玉手箱。

でも検索すると棺桶がならびます。来世まで持っていきたい好きな作品の記録帳とご理解ください。