1955年イギリス映画『暁の出撃』視聴記。

  21, 2012 21:51
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クレジットに習って実在の第617中隊と御遺族の皆さま、あわせてルール地方の皆さまに哀悼の意を捧げます。総力戦はどちらにとっても悲惨です。
映画評だけど事実に基づいているので面白かったで終わらせるわけにいかないです……

「でっかい反跳爆撃でルールのダムを壊し隊」
実施部隊の指揮官による手記に基づくドキュメント。
英空軍全面協力により当時の実戦機を使用した長く美しい空撮と、風防越しに回転する風景の臨場感。

……なんて観たことのある方には申し上げるまでもない傑作なわけですが。

古い映画の感想、それも戦争物って難しくて、マニアックな方はとっくに観ておいでだろうし、興味のない方は何と言われても一生ご覧にならないでしょうし。
こう読んで「面白そう、観てみよう」と思って頂ければ真に幸いですが、それにはあまりネタバレしないほうがよろしいでしょうし、といって何も知らないよりはコメディなのか残酷シーンもあるシリアスものなのかくらいの心の準備はあったほうがいいしね。

邦題がまた曲者で、『戦略大作戦』ときけば『史上最大の作戦』と似たドキュメントなのかなと思うとトンデモだし、この『暁の出撃』はヒロイズム満載のアクションものみたいだけど、実際には設計技師の苦労を描いたヒューマンドラマみたいなところがあるし。

と、さらっとご説明しつつ、前置きした上で個人的な感想として「こういうところが面白かったー!」と言い散らかす感じでよろしゅうございますか。

さて。それでは以下はネタバレです。

最初にして最終的な感想は「イギリスだねぇ」

『史上最大の作戦』で「フラナガン様のお戻りだ」とギャグ(?)をかましたのもイギリス、前線にペットを伴う指揮官がいるのもイギリス、バグパイプを先立てて、匍匐前進なにそれ状態で堂々行進する精鋭コマンド部隊もイギリス。

全くあのままのクールかつリラックスした雰囲気で困難な極秘任務に当たる面々。
爆撃隊隊長が連れ歩く猟犬は、基地内のみんなの人気者。士官室は優雅で個室も広いし皆おしゃれで髪型が粋。日本軍なら長髪といわれるところ。

タイトルは『暁の出撃』だけど、出撃までに一時間。
交戦国の工業地帯に打撃を与えるために、上流にあるダムを支える厚いコンクリート壁を崩したい。そのための爆弾造りが、思いついたはいいけど難しい。
資材も時間も足りない、斬新すぎるアイディアに理解者はいない。わずかな人脈を頼りにこぎつけた実験は失敗続きで皆あきれて帰っちゃう。
その様子が丁寧に映されるので、研究者の助手になって現場にいあわせ全てを目撃している気分。実験結果に一喜一憂する博士にすっかり共感しちゃうのでした。
直接的な対人兵器でないのがせめて気分的に救い、なんていうのは甘いんでしょう。

イギリス人俳優が皆若干ハイトーンの早口でよく喋るのはシェイクスピア以来の伝統かしらん。
アメリカ映画は短い台詞がポンポンやりとりされるのが多いような気がするんだけど、もしかしたら「あんまり口達者なのは男らしくない」という意識があるのかも。

爆撃中隊は出撃30回以上のベテランを揃えた新編成、極秘任務を帯びて極秘夜間超低空飛行訓練ばかりやってるから他の中隊には昼間あそんでる奴らだと思われていて、からかわれる。
ついに隊長から「次に言われたらやり返せ」とお許しが出て大乱闘。でも楽しそう。

日本の海軍兵学校にいたイギリス人教官は「イギリスの士官学校の生徒は上流階級出身に限られるが、日本はその点平等だ」と書いた。
逆にいうとあの二つの中隊の士官たちは、昔っから顔見知りのような連中なわけです。ホグワーツみたいな寄宿学校で幼年クラスから一緒だった、なんて人達もいたかも。
萌えてる場合ではなく(いや萌えてもいいんだけど)彼らの中には今夜にも出撃して帰ってこない者もあるかもしれない。偵察機だって撃たれるし、訓練中の故障もあり得る。そんな中でのひと時の気晴らし、スキンシップ。

ほんの一瞬だけ乱闘に参加したギブソン隊長(リチャード・トッド)のネクタイひん曲がった姿には「可愛い~!」と喜ぶしかなかったと白状します。
あのシーンは誰が観てもそういう場面だからよろしゅうございますね?

実は個人的にはトッドのほうがノーマークで、『バルジ大作戦』つながりでロバート・ショウ目当てで借りたのでした。実質彼のデビュー作、隊長機の副操縦士というチョイ役ですが、トッドのマスクの甘いのに比べていい面構えで印象的でした。
で、今やっと『史上最大』にもトッドがいたことを思い出したり(ノ´∀`*) もう一度観たい。透明感のある綺麗な眼が印象的。

出撃から爆撃成功までは、前半の研究に同席したのと同じ体感。せわしない編集がなく、ひとつひとつの作業がたっぷりと時間をとって描かれ、機内に同乗しているかのような時間感覚。鳴り続けるエンジン音。
片や司令部は時計の音も響かない重い沈黙の中、報告を待つばかり。静中動。観る者の掌にもじんわりと汗がにじむのでした。

緊張感でガチガチの司令部へココアを配りに入ってきた若い女性の兵かな?士官かな?がいました。甘いもので少しでも気分をほぐしてもらおうと彼女なりに気を使ったのかもしれないと思うといじらしいです。

タイトルは『暁の出撃』なんだけど、満月の夜中を目がけて出撃し、暁には帰投しています。たぶん「特攻」をイメージして邦題をつけたんでしょうね。原題は『The Dam Busters』です。そのまんま。

作戦成功して終わる映画は多いけど、印象的だったのは帰投した後の隊員の様子まで丁寧に映されていたこと。個室に戻り、同室者と無事を祝いあうでもなく、無言でそれぞれの寝台へ背中をのばす二人。緊張の大きかったことが伝わります。
7人乗りの四発爆撃機、撃墜は8機。持ち主のいなくなった時計、手紙。
対空弾幕の厚さを知っていれば出さなかったと言い訳をする博士に「それでも皆行っただろう」ときっぱり言いおいて、また次の任務が待っているであろう少佐の背を見送るのは、もはや自分の足で彼を追うことのできなくなった愛犬の視線なのかもしれません。

終戦から十年。『史上最大』より更に7年も早い1955年の公開。まだ記憶の生々しかった頃、『ライアン』のような受傷描写はとてもできない。でもうちの子はどう戦ったんだろう、知っておきたいと思う人たちへの共感と戦没者への尊敬を込めて、「こんなに頑張ったんだ」という様子を丁寧に撮る。

合掌。
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