1951年、木下恵介『カルメン故郷に帰る』松竹

  28, 2016 10:20
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皆様、どうかこの絵巻物をいついつまでもお忘れなく、輝かしき思い出の一頁におしたためおき願います。バックオーラ~~イ♪

撮影:楠田浩之、音楽:木下忠司・黛敏郎、衣装:浜野庄太郎、衣装提供:高島屋

木下映画の真骨頂、でよろしゅうございますね?

じつは『善魔』を拝見した時、「木下映画って面白いのか……?(汗)」と思ったんですけれども、これはよく分かりました。 

すべての場面に目が細くなってしまったことです。浅間山が自然美なら、女体もまた「美しき天然」でした。1951年。日本のアプレゲール女子はこんなに元気で可愛らしかったのです。貴重な記録かと思われます。

日本初のカラー作品だそうで、まずはカメラがほぼ360度まわります。グルーーーーッと景色が一周して、きたかるゐざわの爽快な青空が目にも心にも沁みることです。

そこへ帰ってくる極彩色のお嬢さん達は、にくたいのしゅたいせいをかくりつし過ぎちゃったみたいです。

戦後の男たちがオロオロしてる横で、若い女が舶来品をどんどん取り入れて、キラキラ輝いていく。映画監督のおじさん達も嬉しくて仕方がなかったのでしょうね。

もちろん「田舎町に都会の女が新風を運んできて、一騒動」という物語。かるくシニカルなフランスふう喜劇。日本人が全力で欧米に憧れていられた時代の、ヒーローなき世直し。

脚本も木下監督で、ナチュラルな台詞の掛け合いが素晴らしいです。笠智衆が絶好調。カルメンさんは最後までカルメンさんでした。

都会の女といっても、生まれながらの宮さまや安城家のお嬢様などではないわけで、根が田舎で走り回っていた子ですから、はすっぱなわけです。威勢がよいのです。そこがいいのです。

ミュージカル映画の要素もあって、振り付けもビックリするほど大胆です。ヒロイン2人の体の線が本当にきれいなので、とても楽しく拝見できます。

カルメンはもちろん芸名で、仕事仲間を連れて休暇中に帰郷するんですけれども、この友達がまたすっごく可愛い女性なのです。

哀愁を帯びた日本的メロディーでお遊戯する小学生たちも、素で可愛いです。なぜ裸足なのか。

父と娘、男と女、旧と新、都会と大自然、「聖職」と世俗の娯楽、「目の毒」ということもある健常者と障碍者、戦後の平和と戦争の記憶、「芸術」の二義性。

さまざま対比のいずれにも、善・悪の価値判断を与えず、すべてを丁寧に、大胆なようで節度をもって描き出す監督の手際を、晴れたる空と浅間山という美しき天然が見おろしているのでした。徹底した世俗描写が突き抜けて、聖性を帯びたといったところでしょうか。

キーパーソンは笠智衆の校長先生で、彼の心の眼が「芸術」の本性をしっかりと見抜いたことから話が急展開するのでした。個人的には、カルメンさんのお姉さんが共感度高いです。自分は村で地道に暮らしてるんだけど、少しだけ外の世界で働いたこともあって、妹の自由を応援してるんですね。

そうだ、佐田啓二が出てました。村の青年教員役。この純朴さに比べると、森雅之はいかにもすれっからした都会の中年男ですね。そこがいいんですが。(今回は出てないです。)

その佐田の長い手足を活かして、最後の最後に木下監督らしい要素が見られたかと思います。

じつはカルメンさんの誇張した女性性と、コメディの雰囲気から『ラ・カージュ・オ・フォール』や『プリシラ号の冒険』を思い出したんですけれども、あるいはこの映画も鮮やかな六色虹旗を掲げる皆様お気に入りの一本でしょうか。

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