1961年5月、内田吐夢『宮本武蔵』東映京都

  19, 2016 10:20
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やり直しのできんのが人生だ。

製作:大川博、原作:吉川英治、脚本:成沢昌義・鈴木尚之、撮影:坪井誠、美術:鈴木孝俊、音楽:伊福部昭

伊福部音楽の鳴り響くオープニングの格調高さに、ややのけぞりながら鑑賞開始。

まだ中村だった時代の錦之助が主演。たいへん熱血です。暑苦しいです。お通さん役・入江若葉は新人ですが、たいへん力量ある清純派ヒロインです。

天下分かれた後の関が原。冒頭から泥まみれで這いずり回る敗残の錦之助をカメラが追い回す衝撃的リアリズム。これ、カメラ自体を後ろに引っ張ってるんですよね?

以後はロケハンの勝利……と云いたいところですけれども、時々人声がわんわんと反響しております。美術もリアリズム路線。スタジオに樹が生えている。美しい遠景は(当然ながら)マット画で、姫路城と千年杉は(ときどき)模型。地味に手が込んでます。

語り口は吉川文学の完全映画化で、『バガボンド』ほどにも脚色がなく、いっそ淡々と云ってもよいほど真正面から武蔵の青春を辿ります。もともと甲高い声を体当たり演技に枯らす主演俳優は、いつぞやの大河ドラマそこのけで、顔が真っ黒に汚れてます。とにかく暑苦しいです。

「能面のようにいい男」って、ふつうあんまり云わないですけれども、錦之助の顔は目が大きくて、鼻筋が通っていて、頬がふっくらして、バタくさくはなくて、平太とか怪士とか飛出などの男性を現した能面を連想することです。

三国連太郎が沢庵和尚の役で、十年の間にすっかりベテランの風格になってます。長い脚でスタスタ歩くのが印象的。たけぞーが日本一のアホなので、沢庵との人間性の差が見どころになります。名台詞いっぱいです。

カメラはクレーンを使って思いきって高いところから、人物の動きを追って追って追って、ワンシーンが長いこと長いこと。

本位田のお婆や、木暮実千代演じる年増女も大活躍で、女性のたくましさを描く女性映画の一面もあります。人間の良心代表な「お通」さんもブレません。

歳を取った女性の言葉遣いがまた能楽の詞のようで、まだこういう脚本を書ける人がいたんだなと思われることです。

長い作品ではなく、たけぞーが沢庵の手で姫路城の天守に押し込められて、書物を読むようになったところで終了。ラストショットでは錦之助の面構えが変わって、本領発揮される続篇が意識されているようです。

おぬしもここを母の胎内とこころえ、よく臍の緒を養え。

物語にはヒネリがないですから、ものすごく面白いってんじゃないですけれども、主役の大熱演をカットなしで撮りきったことによる風格と、巨大な納屋を備えた農家・雄大な岩山など、これだけの建物と自然が残っていて、これだけのものが撮れたという、時代の証言・記録としての意味が大きいかと思われます。

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