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1966年2月、マキノ雅弘『日本侠客伝 血斗神田祭り』東映京都

待て待て待て! 警察を入れるんじゃねェぞォ!

脚本:笠原和夫、撮影:わし尾元也、音楽:斉藤一郎、助監督:原田隆司

シリーズ屈指の名作。と云いたいのが一杯あるわけですが、これはたぶん名作中の名作。

神田のまとい持ち、火事は消しても燃える心が消さりょうか。逆デジャヴュを感じつつ。役者の吐く息が白いです。『昭和残侠伝 唐獅子牡丹』・『昭和残侠伝 一匹狼』と同じ年。健&純子にはお忙しいことです。

高倉と鶴田の二枚看板に、まだ若い藤山寛美の名人芸をコメディリリーフ以上に使いこなして。極道サスペンスと、三者三様の枯れススキ的ロマンスのいずれも見ごたえのある回。火事と喧嘩は、そうそう起こってもらっちゃ困るわけで、藤山を狂言回しに、出動しない時の鳶の衆が何やってるのかという説明がなされるのも興味深いです。

マキノさんにゃ珍しいほどのローアングル&クローズアップと、音楽の劇的な使い方で緊迫感を高めます。男の甘えも女の甘えも許さない(が描ききる)笠原の心意気と、リベラル魂も燃えてます。『侠客伝』は、笠原が腕を上げて行く様子が手に取るように分かるようでもあって、面白いですね。

トランペットとティンパニを効かせたオープニング曲がいつにも増して格調高く、情趣深く響きます。タイトルバックが現代(1966年当時)の本職の出初式の実録で、これ自体が貴重な映像かと思われます。

本篇入ると、大正十年。木遣り歌も風情な鳶の正月道中に車をつっこむ天津敏。今回は一番組の「看板」を着た善玉のほうに常日頃の(?)悪役俳優が顔を連ねて、壮観です。大木実は今日も大政みたいな立ち位置で、いいとこ見せました。里見幸太郎はピカピカに若いです。

天津は三つ揃いの似合うインテリヤクザ(ふう)で、イカサマ博打に堅気をはめる悪い人。おうちが広いです。悪役を一人で背負いきったので立派だったと思います。賭場にはどこかの博奕打ちがまぎれ込んでいます。

たいへん段取り良く人間関係が明かされたところで、この頃には高倉健のキャラクター性がハッキリしていたようで、いい度胸で気持ちよく新しい場面を開きに来てくれます。

高倉のべらんめェと鶴田の関西弁がいいバランス。男が男の何に惚れるって、手の届かない女に惚れぬく純情に惚れるのです。

藤純子はね、やっぱりあんまり賢い女じゃないのです。行った先で芸者ができるんだから、気はいいのです。たぶん仕事仲間の女性にも人気がある。流されたなりに強いというかな。愚かな女の典型の中で、最も美しい人。

駆け落ち者をかくまってくれた親分さんの仇討ちという話はどっかで聞いたような気もしますが、飛車角だったり爆弾常だったりしたあの人は、もう五・六人道連れにするところ。珍しいほどの長尺は、監督から仁侠スター第一人者への敬愛の証でしょうか。

高倉の得物は鳶らしく鳶口(手鉤)でしたが、長ドスに持ち替えてからの立ち姿がやっぱり決まります。顔立ちにもまだ若い輝きがありました。

高いところからの群衆描写もマキノ監督の上手いところで、町中の鳶の衆が泣かせます。まといがひるがえるラストシーンは、仁侠映画史上最も美しい場面かもしれません。

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Misha

Author:Misha
スマホ時代にさからう評論系長文ブログ。冷静に通読できる大人の読者様を想定しています。

「若い人」に直接呼びかける文章は、18歳以上のヤングアダルト対象です。高校生は受験を最優先してください。

書く人は、新旧とりまぜて映画とアニメを見ながら文芸書に取りくんでみたり、昔の漫画を思い出したり、お国の先行きを心配したりしております。

記事中の色つき文字は、映画中の台詞・挿入歌からの引用です。あらすじは、あまり申しませんので、楽しみに御覧ください。取り上げる作品は、暴力・エロスなど特殊な要素を含んでいることもあります。

ときおり、耽美・BL・同人・LGBTに言及します。いずれの分野からも、偏見と差別と自虐がなくなるといいと思っております。

「二次創作の責任を二十四年組に押しつけるな」「実在同性愛者に甘えるな」が基調です。

全体として、二十四年組ファンが社会学者に物申すという珍しい構図。一部勘違い同人を叱責することによって全体を守るという意図もあり、ときにかなり辛口です。

記事は時々予告なく手直し・削除・分割しております。保存は個人的閲覧の範囲で、お早めに御随意に。転載・改変利用は固くお断り申し上げます。

解題


Casketとは、玉手箱。

でも検索すると棺桶がならびます。来世まで持っていきたい好きな作品の記録帳とご理解ください。