なんでも腐っていく時がいちばん旨いのさ。映画『ツィゴイネルワイゼン』鑑賞記。

  27, 2012 21:24
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の下には原田芳雄が埋まっている。
「友よ骨まで愛してるぜ」的なことを言われて言い返せない青地さん気を強くもって下さい。
大谷直子はいい女優さんですなァ……

「キモ可愛い」って言葉がありますが、これは「きも綺麗」でしょうかね。夢野久作の小説世界に近いとまず思いました。泉鏡花でもいいや。谷崎の短編もいいかもしれない。

ひとくちに言うと男性視点の暴力的エロス、もひとつ言えば狂気の映像による表現なんだけど、『桜の森の満開の下』のような猟奇的描写があるわけではなく、貧しい門付け等の衝撃映像もあるけど、起きる事柄そのものは日常的に理解できるレベルで、ただその映し方が或る意味でほぼすべてロマンチックです。何よりも作り手が楽しんでいることがよく分かる。

男=死。知性ゆえの狂気。女=生と性。恋の妄執と、それを捧げられる男冥利。物語のつくりそのものは古典的で象徴的。分からないことはありません。

が、共感可能なストーリーはあるんだけど、それを「何がきっかけで何が起きました」と順番に絵解きするのではなく、「なんでわざわざこういう撮り方をするんだろう」といいたいほどの映像・演出の工夫そのもの、発想力を鑑賞する作品。イリュージョンですな。これはアニメではダメで、実際にこういう風景を探してきた、音を録ってきたってことの説得力。贅沢につくられていると思います。

男と女と男。女が妬くのはもう一人の女なのか、夫が本人にだまって娘の名付けに一字もらうほど親しい友人なのか、男が妬くのはもう一人の男なのか、「あいつとうちの女房ができてるに違いない」と思うのは「あいつ」の魅力を自分自身が認めてるからで、もう何角関係だこりゃ。

そして、よく食う映画。とにかく食う映画。その際の咀嚼音、蕎麦や汁をすする音が生々しく録られていて非常に気持ち悪く、だからこそイヤホン推奨。映画館で耐え難い音量で聴くとさらに気持ち悪くてよろしいかも。

役者の演技によって恋心をバーチャル体験するタイプの作品ではなく、観てきれい・聴いて気色わるいという観客の肉体的感覚・官能を直接刺激する野心作っつーか暴力的作品。暴力が描かれてるんじゃなくて作品そのもののありかたが暴力的。Mになりきって御覧ください。じっさい、長いです。
これを145分間観ていられた'80年代はゆったりしたいい時代だったのかもと思うなど。

実は'80年に入ってからの公開というのが意外に新しい作品だと感じられて驚いたくらいで、アングラいわれた70年代の作品かと思ってました。ま、企画・製作は'70年代の間になされたわけですが。

個人的には青地さん(藤田敏八)のセリフ棒読みに近い演技と、洋館に日本人が住んでいる舞台設定が戦後すぐの『安城家』『晩春』を思い出させて、80年代の映画ではなく40年代の映画を観ているような、いっそリアルに昭和初期にとられた作品を観ているような混乱に襲われました。

時代劇の話でもいいましたが、顔立ち・体型の変わってしまった現在の役者が衣装だけ当時のをつけても嘘っぽいんだけど、着流し&トンビがよく似合う原田芳雄、日本美人の代表的になまめかしい大谷直子を始めとする役者さんの存在感がドキュメンタリーを観ているような感覚を起こさせたんだと思います。

あとね、セリフのテンポが素敵でした。

腐りかけて実がぜんぶ蜜になっているんです。どうせ貴男はきもち悪がって召し上がらないでしょう?
蜜の中にね。毒のような苦味が混じっていて、食べ慣れるととても美味しいんですよ。

中途で目が覚めると、枕元の水を飲んで、また眠る。

気は確かか?
狂ってるよ。
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