記事一覧

2009年12月、西崎義展『宇宙戦艦ヤマト 復活篇』

最後の最後まで、諦めるな。

企画・原作・製作総指揮:西崎義展 脚本:石原武龍・冨岡淳広・西崎義展 音楽監督・指揮:大友直人 演奏:日本フィルハーモニー交響楽団 ヤマト・オリジナルスコア:宮川泰・羽田健太郎 ピアノ:横山幸雄 絵コンテ・チーフディレクター:白土武 キャラクターデザイン:国友やすゆき・湖川友謙・高橋信也 メカニックデザイン:小林誠 総作画監督:湖川友謙 作画監督:宇田川一彦・高橋信也 撮影監督:加藤道哉 美術監督:竹田悠介 演出:高山秀樹 メカニック演出:羽原信義 効果:倉橋静男 編集:西崎義展・坂本雅紀 総監修:舛田利雄 アソシエイトプロデューサー:山本暎一 副監督:小林誠 CG制作:オムニバス・ジャパン CGプロデューサー:貞原能文(※エンドクレジット登場順)

「西崎は75歳の誕生日を目前にひかえていたが、この時点で人生のラスト・ステージを成功裏に飾ったと言っていい。12年前に自分が経営する会社も自分自身も破産。2度の刑事事件で服役まで経験し、その後、映画製作を敢行。全国233館での公開を実現させたのである。」

(牧村康正+山田哲久『「宇宙戦艦ヤマト」をつくった男 西崎義展の狂気』 p.319)

無限に広がる大宇宙。また何をかいわんや。西崎の執念を見る映画。ついに監督に躍り出ました。なお冒頭に「原案:石原慎太郎」が表示されます。

なによりも嬉しいのは、古代進が沖田さん譲りの殴りこみ戦法と沈着冷静に行動することを兼ね備えた立派な艦長になっていることで、その点ではたいへん落ち着いて気持ちよく見られます。

3D(CG)時代になって、その描画も見事です。光の描写が素晴らしいです。

ブラックホールを紹介するあたりはNHKの特番みたいですが、宇宙への憧れは、カール・セーガンの番組に先立って、ヤマトが教えてくれたと思います。

西崎は伝記を読むと制作現場に口を出して、さんざん苦労させたのだそうですけれども、アニメ監督としては素人だったわけで、むろんCG技術を具体的に知るはずもなく、このへんはCGスタッフが思う存分やっちゃったんだろうと思います。

アナログ時代の描画スタッフも、撮影スタッフも、なんだかんだ云って大物プロデューサーの器を信じて、みずからの辣腕を奮うことのできた、よい時代・よい仕事だったのだと思います。

音楽は宮川・羽田両氏が物故しており、今さらクラシックの流用ですが、大友・日フィル・横山起用の新録音には開いた口がふさがりません。

演奏はもちろん、選曲と使い方はさすがにセンスが良く、もとより音楽劇の要素もあるシリーズですから、その最終章として面目を保っていると思います。

歌唱はメタル? ビジュアル系?(汗)ってなりましたが、ALFEEでした。『さらば』世代向けかな……。

人物造形のほうは、電算室のお嬢さん達が有能かつ可愛いです。このまま『2199』につながるのでしょうね。

戦闘男子は若すぎイケメン過ぎで、なぜかヤンキー属性ついており、どいつもこいつも尻軽でよく持ち場を離れるので、イラッとさせられることです。

美晴さんもふつうに女隊長ってことでよかったはずですが、軍医が持ち場を離れてなんとする。(美人に白衣を着せたいスタッフがいたのでしょう)

誰得かよく分かんない要素がいくつか見られますが、若い観客にばかりおもねっているわけでもなく、ゴルイ・大村・パスカルのオヤジ3人衆が武人魂を見せつけて、中年心を震わせてくれます。

悪役の造形には、オカルトorファンタジーの流行を取り入れているようで、毎度のことではありますが、意外なほど全方位的に目配りの利いた一本になっていると思います。

じゃあ面白いのかって云われると、面白いという言葉をどう捉えるのかによるわけですが、西崎って人はもともと創作畑の人ではなく、いわんや同人系ではなく、自覚的な「引用」とか、パロディ要素を駆使してファン心理をくすぐるってことをしなかったですね。

その点ではたいへん実直な、お硬い人だったかと思います。説教臭も健在でした。

じゃあつまんないのかっていうと、やっぱり感動的なのです。前回から引き続き、地球そのものを中核にすえた物語作りには、1974年の第1シリーズから主題が一貫し、その総仕上げとして、雄大な愛と理想が謳い上げられていると思います。

前回は「水の惑星」という要素に絞り込みましたが、今回は地上の自然美を「ロケハン」したのが良かったですね。

今回、松本零士が入っていないせいか、ファンタジックな女性キャラクターが登場せず、古代進を中心とする、一本筋の通った男のドラマになっているわけで、これが西崎の本当にやりたかったことと考えてよいのではないかと思われます。

1934年生まれで、戦場には出ていないんですけれども、実質的に「石油の一滴は血の一滴」という資源争奪戦だった植民地戦争の時代が、根深く発想に影響していたように思われます。

同時期に公開されたのが『ワンピース』の劇場版10本目だったそうで、興行成績では比ぶべくもないわけですが、麦わら一味は闘う相手が身近な権力なわけで、やっぱり原作者が戦争を知らない世代であり、若者が不遇な不況時代を表しているのでしょう。

さりながら、有能な若者たちが船出して愛と正義のために闘うドラマとしては、やはり延長線上にあるわけで、原作者もアニメスタッフも「俺のほうがヤマトよりえらい」とは申しますまい。

あとは人物デザインですが、これはもう好みの問題でしょうけれども、このタイプの絵については個人的には「イメージイラストとして見るといいんだろうけれども、アニメとして動かすとなると、くどいな」と思っております。

なお、美しい女王様と髭の将軍という組み合わせが個人的萌え壷です。

佐渡先生を描ける作画スタッフがいなくなっちゃったらしいのも寂しいところですが、真田さんともども(こんなこともあろうかと)見せ場があったことですし、戦士の丘の沖田さんにもお眼にかかれたことですし、配給収入はふるわなくてもディスクの売上は良かったんだそうです。

永田雅一や角川春樹もそうですけれども、敗者復活戦があるというのは良い話です。

観客が中年層に限られることを事前に読んで、もっと中年向けのファンサービス要素を取り入れればよかったのかっていうと、これで充分であり、自分でパロディみたいなことをやっちまわない生真面目さこそが真骨頂であり、正統派ファンへのサービスなのだと思います。

罪は罪でありましょう。しかし、人間の罪であるならば、その人間の理解ということも、裁きの外のこととも思えません。

(上掲書 p.275)

西崎が逮捕された際に、阿久悠が裁判官へ当てて書いた嘆願書の一節。さすがの名文に涙を禁じえません。

カネの苦労をさせられた人々にとっては、それどころじゃなかったに決まっており、阿久自身はその苦労はさせられなかったようなので、これだけのものが書けたのでしょうが、そして日本のアニメ界に何が残ったかというと、やっぱり傑作だったのでした。

血を流しても、守らねばならぬものがある。

『さらば』劇場版のラストシーンは賛否両論あったわけですが、これは前向きな特攻というべきで、終わってみればたいへん後味の良い作品だったと思います。いま一度見直されるべき作品、いま一度評価されるべき仕事と信じます。

この国には、西崎義展という男がいたのです。

Related Entries

SEARCH

Profile & Caution

Misha

Author:Misha
スマホ時代にさからう評論系長文ブログ。冷静に通読できる大人の読者様を想定しています。

「若い人」に直接呼びかける文章は、18歳以上のヤングアダルト対象です。高校生は受験を最優先してください。

書く人は、新旧とりまぜて映画とアニメを見ながら文芸書に取りくんでみたり、昔の漫画を思い出したり、お国の先行きを心配したりしております。

記事中の色つき文字は、映画中の台詞・挿入歌からの引用です。あらすじは、あまり申しませんので、楽しみに御覧ください。取り上げる作品は、暴力・エロスなど特殊な要素を含んでいることもあります。

ときおり、耽美・BL・同人・LGBTに言及します。いずれの分野からも、偏見と差別と自虐がなくなるといいと思っております。

「二次創作の責任を二十四年組に押しつけるな」「実在同性愛者に甘えるな」が基調です。

全体として、二十四年組ファンが社会学者に物申すという珍しい構図。一部勘違い同人を叱責することによって全体を守るという意図もあり、ときにかなり辛口です。

記事は時々予告なく手直し・削除・分割しております。保存は個人的閲覧の範囲で、お早めに御随意に。転載・改変利用は固くお断り申し上げます。

解題


Casketとは、玉手箱。

でも検索すると棺桶がならびます。来世まで持っていきたい好きな作品の記録帳とご理解ください。