1949年、今井正『青い山脈』

  07, 2016 10:21
  •  -
  •  -
古い上着よ、さようなら。寂しい夢よ、さようなら。

原作:石坂洋次郎 脚色:今井正・井手俊郎 製作:藤本真澄 撮影:中井朝一 美術:松山崇 録音:下永尚 編集:長澤嘉樹 合成美術:渡辺義夫 音楽:服部良一 主題歌作詞:西條八十 主題歌作曲:服部良一 

まァ、戦争が済んでも?

原節子ばんざい。作中に登場する『美貌』という女性向け雑誌の表紙絵(虹児か淳一か)とそっくりなのでビックリしちゃいます。絵に描いたような美女とはよく云ったものです。

タカラヅカの男役のような美女というのも文法的におかしくないですね? 目が大きく、鼻筋が高く、凛然たる美貌の持ち主で、常々「うぶなお嬢さん役じゃ勿体ない」と思っておりましたが、これは適役だと思います。

これを観ないと池部さんの話ができないのが本当なんですが、パブリックドメイン過ぎて近所のレンタル屋になかったので買いました。

お話のほうは、どこかで観たサイクリング場面の印象しかなかったものですから、白馬村あたりへピクニックに行く話だと思ってましたごめんなさいごめんなさい。

むしろ「どうしてこうなった」と訊きたいほど、海辺の街の物語でした。名キャスティング、名演出、名演技、名編集続きの名作です。

映画がテレビ連続ドラマのように短い期間で公開されていた時代の前後編なので、アクション無しの青春劇としては、やや長いです。183分。今井の洗練された手際は勉強になりますので、がんばりましょう。

美しい湾岸の風景から入ります。古い家並みの下、「封建的」な暮らしぶりの残る街に東京から赴任して来た若い教師が、剃刀のごとき正義感を持ち込んで一波乱。本来の意味で腐敗した女子の園に、節子の声が凛々と響きます。

新時代の『坊っちゃん』というべきか、女性の口を借りて旧来の男性中心社会を批判することが主眼なわけで、これを男性が書くんだから面白いことではあります。

映画づくりの基盤は伝統的な人情喜劇で、その上に女性の自立というか人権意識の目覚めをテーマにした翻訳劇的なものが接ぎ木してあるのですが、じつに見事に一体化していると思います。

劇中時間の進行としても、映画の見せ方としても、のんびりしていた時代の炎上劇で、校内イジメという深刻な事態ではあるのですが、吉屋信子の少女小説のような要素もあり、素人っぽい女学生たちの嘘泣き演技に、どうもニヨニヨが止まりません。女ってやつァ。

「尺」が長いのは台詞のやり取りをひじょうに大切にしているからでもあって、洋画にも因習にとらわれる街の物語はありますが、まったくのところ日本映画は台詞の積み重ねに優れているように思われます。昭和ひと桁ではなく、1900年代一桁生まれの男優陣が絶好調です。

じつは、この手の作品は、女を殴って黙らせておしまいにしない男たちの忍耐によって成り立っているのでした。

若手の男たちには、いくらか「照れ」の要素があって素人くさいのに比べて、女優たちは女学生役に至るまで、ナチュラルに演技力高いです。

リアルで戦争が終わって、映画に出られるという自負と喜びに満ちていたのかもしれません。メガネっ娘・和子ちゃん最高です。

池部良は誰ですかと云いたいほど若かったです。インテリなのに不良っぽいというキャラが変わっていないようです。というか、ここから始まったのです。

大学一年生だったはずのバンカラ高校留年生で、実年齢では三十越えていますが(ガンちゃんともども)違和感ありません。長身痩躯がヒーロー(ヒロインのお相手)にふさわしく、たいへん爽やかに美男ぶりが際立っております。

海浜ロケの他は、かなり狭いスタジオで、ギリギリの広さのセットを組んで撮っているようで、マット画が美しく、工夫の苦労が偲ばれます。

世の中、アンハッピーな物語は受け付けないという方もあるので、先に申し上げますが、根本的にはハッピーエンド型のロマンス映画で、小さな伏線や小道具をきかせた脚本上の仕掛けもあり、鑑賞後感は気持ちの良いものです。

日本の自然を背景にしたラストショットは、たいへん美しいです。

Related Entries