2015年、細田守『バケモノの子』

  14, 2016 10:20
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胸の中の剣を握れ。

原作・脚本:細田守 作画監督:山下高明・西田達三 美術:大森崇・高松洋平・西川洋一 音楽:高木正勝 CGディレクター:堀部亮 助監督:青木弘安

一本刀、落とし差し。日本人の得物は、やはり日本刀がよろしゅうございますね。渋谷区全面協力により街頭一大ロケーション敢行(違)

金曜ロードショー(の録画)で拝見しました。スクランブル交差点や闘技場など、CGでなんでも描ける時代になったとはいえ、限度というものがございます。スタッフの皆様、本当にお疲れ様でした。

昨今の実写映画がイケメン偏重・ガールズパワー偏重で、肉弾相打つ中年男の汗と色気を描くことができなくなってしまったのは、もう今さら申すまでもないわけですが、アニメーターが腕を上げれば上げるほど、当人たちがどれほど実写映画を観て来たかが重要になるわけでございまして、アニメのくせにカメラの焦点が切り換わるんですよっ。

別の意味で「なにやってんだ」と云いたくなることでございます。

現代人の心をつかむテーマ、小道具、名シーン、名セリフ続きの傑作ですから、あまり細かくは申しませんが、日常のすぐ裏側にある異世界という描写は『千と千尋の神隠し』『ハリー・ポッター』『猫の恩返し』などを直ちに連想させつつ、それらにはなかったサイコな恐怖感を帯びて、いっそう印象的でしたね。

スーパーリアリズムな現代日本と、外国へ行った気分にさせてくれる南欧的なバケモノ界。しかも日本刀と卵かけご飯。どっかで観たような世界観が続くわけですが、宮崎監督から実力を認められて「のれん分け」を受けたといっても良い細田は、ひじょうに良い意味で模倣がうまい人なのだと思います。「型」の継承者と申すのが良いでしょうか。

宮崎は独自路線を貫いた人でしたが(過去形にせずに西部劇を描いてもう一花咲かせて頂きたいですが)、細田は今どきの創作家のご多分にもれず「同人」的な流行を取り入れることがうまい人でもあって、この作品は「もののけ」の擬人化……云わない約束ですかそうですか。

サブキャラクターの中では、じろーまるが可愛くて、幼い男の子が強い父親に憧れて眼を輝かせる姿は良いものです。これぞあるべき少年の姿。

「でも自分はそれにはなれない」というのは、現代女性に共通のルサンチマンでもあって、長男の容姿が女性的なことは、ちゃんとうまくできてるのです。彼は牙のない口元を隠したかったんですね。主人公とは心の兄弟、陰と陽、永遠のライバル。いい構図です。

楓ちゃんも女の仕事を良く心得ていて、腕力で劣る女性の戦い方は、心で負けないことなのです。

男児を主体としていたアニメ映画の世界に少女キャラクターの活躍を持ち込んだのは宮崎監督の功績ですが、彼の描く少年キャラクターは、わりと最初から頼りがいのあるタイプ。

細田は「偉大な先輩たちのあとを受けて、これ以上なにをしたらいいのか分からない、頭打ち感のある現代の若者」という自分自身をひじょうに素直に表現できている幸福な才能の持ち主であるいっぽうで、置いていかれがちな女性の痛みにも心配りを忘れない、稀有な人物だと思います。

最初は年長者の影でしかなかった若者が、こけつまろびつ成長する姿は『宇宙戦艦ヤマト』『銀河鉄道999』『機動戦士ガンダム』などが描いて来たもので、ここまで真正面から師匠と弟子の交流を描いた作品は少なかったですから、一見すると新鮮味があって、今まで盲点だったようにも思われますが、意外に正統派なのかもしれません。

「それが本当の永遠の命だと俺は信じる」という宇宙海賊の名セリフも耳に蘇ってくるようでございます。

なお、白くてちっちゃいのがすごくいい動きをしていたのは、観た人ならみんな知ってることですが、やはり特筆せねばなりません。いっこ欲しいです。