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2015年4月、橋本昌和『クレヨンしんちゃん オラの引越し物語 サボテン大襲撃』

あきらめるな。絶対に諦めるな!

脚本:うえのきみこ 絵コンテ:橋本昌和、増井壮一、高橋渉、湯浅政明 音楽:荒川敏行、澤口和彦

名にし負う歴代一位の涙腺破壊力。アニメ映画ヒットの法則は、オヤジにいい仕事させることと、可愛い子にも仕事させることなのかもしれません。

野原ひろしの男心の繊細な描写を中心に、小物の使い方がうまく、終盤には怪獣映画的なデッカい画もあって、各ご家庭のとーちゃんを置いていかない連休向け劇場版シリーズの真骨頂を見せたかと思います。

脚本には女性らしい感性が随所に閃くとともに、ゲストキャラクター一人一人のそれまでの人生・日常生活の様子までが想像できる。

劇場版シリーズの他の話とは違って、異世界から奇想天外な人物がやって来るといった話ではなく、現代の現実を描いており、大人泣かせの人間ドラマになっております。シロでさえ、1本の独立したストーリーとして楽しめる活躍ぶりを見せる。

このタイプの話は、しんちゃんらしさがどっか行ってしまうこともありますが、敵キャラクターそのものは奇想天外なので、対抗策として「おバカ」要素もよく活かされております。

監督のほかに「演出」としてクレジットされている人が2名おり、あるいは手練れの絵コンテ達も、それぞれのアイディアを出したのかもしれません。

話が「敵の正体が分かる前と後で2部構成のようになっている」というタイプではなく、たいへん流れとまとまりの良い一本で、それ自体は脚本家のお手柄だと思いますが、評価できる要素が盛りだくさんなので、「ブレインストーミングが上手く行った例」みたいな気がするのです。

という具合に話が良いんですが、その見せ方が輪をかけて素晴らしく、アクション場面のカメラワークも、余韻をきかせた場面転換の切れ味の良さも、「照明」の効果も、実写映画でもなかなか無い上手さだと思います。絵コンテ陣と撮影班に献杯しましょう。ドップラー効果を再現した音声さんにも。

女性ゲストのナイスバディぶり・オトナのオンナっぷりも歴代一位。もう一人は、いずこも同じ女子高生のスマホちゃん。展開における二人の活躍ぶりのバランスもよく、清々しい味わいでした。

以下、ネタバレリーナに取りつかれないことにはお話できないので、未見の方はご注意ください。なお、未見の方は必見です。日頃アニメを見慣れない方にも損はさせません。




野原一家が正体不明の敵に追いつめられるという、いつものパターンですが、敵キャラクターの動きがコミカルでありつつも、追いつめられる恐怖の演出は『バイオハザード』(それもゲームのほうの)を想起させる迫力で、まさに歴代一位だったと思います。

やはり「食われる」というのは、マンガと分かっていて観る者の心にも、根源的な恐怖を呼ぶものです。

劇場版シリーズを通じて、男性脚本家は悪の親分としての男性を登場させることが多く、悪の動機としては現代社会に対する怨嗟を設定している話が多いわけですが、今回は自然の脅威に人間たちが立ちすくむ。

人間倫理の尺度における善悪ではなく、自然のほうとしても、子どもを生き残らせたいだけなのです。

その発生が、人間の研究者が自然界の何をどうした結果であるといった説明を加えなかったことが、何よりも賢明な選択だったと思います。

本家(?)バイオハザードのほうは「女王」の描写に(おそらく男性ゲームデザイナーの)女性恐怖が表現されてしまったように思いましたが、こちらは悪意が感じられないところが女性脚本家らしいところかと思います。

これが全体の後味の良さに通じているわけで、良い意味で「オチ」がなく、戦い終わって日が暮れて……ならぬ、虹の架け橋が出て、まことに潔い幕切れでした。

そういうわけで、人間サイドは人間心理の弱さと確執を描きつつも、悪者がいない。過疎の村に残った者の意地、派遣された者の意地、自分なりの美学を究めちゃったらしい者、自分を乗り越えたい者。がんばるきみは美しい。

トランス的キャラクターを正義の側として描ききった点も現代的な選択でした。

外国の町を救うために日本人ファミリーが活躍するというナルシシズム映画ではあって、実際のメキシコの方が御覧になったらどのように思われることか。

よく考えると、みさえさんは(赤ん坊の世話という最も大切な仕事の他には)何もしておらず、現地の女性キャラクターたちが大活躍しているので、構図としては『007』シリーズなどと同じことで、もともと連休中の日本国内に市場を絞り込んだ娯楽作品として、最大の効果を挙げていることではあります。

ただし「カスカベ防衛隊」だけはいなかったわけで、ボーちゃん・ネネちゃんなどが好きなお子さんには物足りなかったのかもしれません。(次回ユメミーワールドで満喫)


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Misha

Author:Misha
スマホ時代にさからう評論系長文ブログ。冷静に通読できる大人の読者様を想定しています。

「若い人」に直接呼びかける文章は、18歳以上のヤングアダルト対象です。高校生は受験を最優先してください。

書く人は、新旧とりまぜて映画とアニメを見ながら文芸書に取りくんでみたり、昔の漫画を思い出したり、お国の先行きを心配したりしております。

記事中の色つき文字は、映画中の台詞・挿入歌からの引用です。あらすじは、あまり申しませんので、楽しみに御覧ください。取り上げる作品は、暴力・エロスなど特殊な要素を含んでいることもあります。

ときおり、耽美・BL・同人・LGBTに言及します。いずれの分野からも、偏見と差別と自虐がなくなるといいと思っております。

「二次創作の責任を二十四年組に押しつけるな」「実在同性愛者に甘えるな」が基調です。

全体として、二十四年組ファンが社会学者に物申すという珍しい構図。一部勘違い同人を叱責することによって全体を守るという意図もあり、ときにかなり辛口です。

記事は時々予告なく手直し・削除・分割しております。保存は個人的閲覧の範囲で、お早めに御随意に。転載・改変利用は固くお断り申し上げます。

解題


Casketとは、玉手箱。

でも検索すると棺桶がならびます。来世まで持っていきたい好きな作品の記録帳とご理解ください。