1969年5月、マキノ雅弘『日本侠客伝 花と龍』東映京都

  11, 2016 10:21
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人間、裸一貫。自分が正しいと思う道にまっすぐ進んで行きなィ。

原作:火野葦平 脚本:棚田吾郎 撮影:飯村雅彦 照明:川崎保之丞 美術:藤田博 音楽:木下忠司 助監督:沢井信治 刺青絵師:毛利清二

ここへ来て、いつにも増してマキノ雅弘らしい『花と龍』……って、あの『花と龍』? と思ったら、確かにそうでした。

予告篇はハードな感じですが、本篇はたいへんマキノらしく、俯瞰的な背景に小さな人物を配した屏風絵のような構図で、ゴンゾ仲間に見守られる初恋を描く人情喜劇。山本麟一と津川雅彦が大活躍。あまり「カット」の声を掛けず、編集も加えずに俳優にまかせるのがマキノ流で、誰もがたいへん楽しそうです。

大正デモクラシーボーイ(加藤泰)も、マキノも、筋金入りの活動屋なのでしょうが、面白さの捉え方がぜんぜん違うところが面白いですね。木下忠司の音楽が場面に寄り添って絶品です。

「日露戦争が終わった頃」だそうで、まだ石炭を手作業で運んでいたのでした。対馬沖の勝利もこうした労務者に支えられていたのでしょう。

で、ゴンゾとは、その「石炭流し」のことであるという説明から始まって、丁寧に人物を紹介していきます。シリーズ内にはテンポアップした回もあったのですが、今回は落ち着いた語り口が次郎長時代劇の頃みたいです。これが監督の本領なのでしょう。

(こっちの観る順序が転倒してるので、「加藤はここをすッ飛ばしたんだな」ということも改めて分かったのでした。)

実年齢で公開時38歳の高倉は、登場シーンでは純朴な田舎の青年という顔をしてます。喜劇らしい動きも見せます。じつは意外に器用なのです。

星百合子はやっぱり素敵な女優さん。仁侠映画の枠を使いながら、溝口顔負けの女性映画を撮っちゃうのがマキノさんですが、今回も地味な労務者の女たちの立場と心理の描写が丁寧で、男たちの稚気の陰で、物語世界全体にしっかりと現実味を与え、マキノ組の屋台骨を支えております。

二谷英明は誰だか分からんほど若くて色男でした。チョイ悪です。

純子はいつにも増して綺麗で綺麗で、小娘役から嫁さん役まで何でもこなす人ですが、今回は旅先で出会った「あだ」な女という役どころがよく似合って眩しいです。お衣装も変幻自在です。1969年は高倉と藤の共演作が立て続けで、もうこの二人は一年じゅう一緒にスタジオにいたんだろうと思います。

ただし、あくまでマキノ節なので、大人向けではないです。蝶々牡丹は女侠にして彫師というエキセントリックなキャラクターで、たいへん魅力的なんですが、不倫というテーマはマキノ好みじゃなかったみたいで、終盤に向けて違う文脈の山場が用意されているので夫婦喧嘩を追及することもできず、取ってつけた感は否めないようです。

やっぱり重点が置かれているのは前半の青春ドラマで、高倉の成長ぶりを描くというテーマはシリーズ当初からあったわけですが、ここまで撮って来た監督は、息子を何人も育て上げたようなご気分だったのかもしれません。『侠客伝』の枠を使いながら、これを撮れたのは楽しかったんじゃないかと思います。

昇り龍の映し方もマキノ的にあっさりしていますが、たいへん美しいですから必見。それにつけても蝶々牡丹、自分の肩に彫るのは首が疲れるよな……と。




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