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いや過ちは人間にあり。『2001年宇宙の旅』鑑賞記。

ツタヤディ◯カスから送ってもらったDVDで。特典の主演俳優による解釈が面白かったです。以下、それを含めてネタバレでいきます。あまりにも有名な作品なので。



これは、人間世界が嫌になった時、独りになりたい時に観るといいのかもしれない。後のSFに見られる刺激的な話運びと違って、あまりにもゆったりとした語り口に、無重力のなかでゆっくり動く登場人物たち。懐かしい音楽と、無機的な映像美の共演。じゃっかん眠気を感じたことも含めて、お能を観たような気がします。

幽霊が出てきたからって、追いかけてくるとか、呪いをかけられるってことはない。月光や雪のなかで舞うのを見ておしまい。
木星の彼方まで行ったけど、宇宙人は出てこないし、攻めてこない。『イベント・ホライゾン』のような怖い考えになってしまったりもしない。改造人間にはされちゃったようだけど、ただそれだけ。失せにけり。原作と台本(と続編)には「旅の結末」「お話の意味」があったようですけど、削ったことによる収まり感の悪さ・解釈不能感が、かえって良かったと思います。

1965年暮れ頃からの撮影で、68年公開。これに触発されて様々なSF映画ができたわけですけども、それらは異星人に悪意があって攻めてくるものか、星間宇宙を舞台に人間同士が戦うものか、コンピュータが悪意をもって人間を支配するものがほとんどでしょう。
惑星を擬人化して女の子が戦い、恋愛模様を絡めれば『セーラームーン』ですが、ここでは天体の擬人化が一切ない。「惑星自体に意思がある」という描写もない。ただ大きな「物」として、無機物の外見の冷たい美しさが、それ自体の価値として、見る人を清潔な昂揚に誘う。

広い「海」へ密命を帯びて仲間とともに船出するのは男の子のロマンだけど、仲間は抵抗のドラマもなく一人ずつ減り、人間よりも信頼できると思った「仲間」は皮肉にも疑心暗鬼を人間のように気分転換や仲間への信頼感で解消することができず、高慢ゆえの過ちに落ちて、主人公は自ら彼を倒さなければならない。サスペンスタッチのドラマは漸次盛り上がって、納得の結末を迎えるけれども、べつに解決にはならない。「めでたし」感もない。

八億光年の孤独は、実はテーマであって、「たまには完全に独りになってみるのもいいもんだぜ」「いっぺん自分の死ぬ姿まで想像してみると、生まれ変わった眼で世界を見ることができるぜ」っていうメッセージが、あるといえばあるのだろうと思います。

なぜ木星なのか? どうせなら太陽系のさいはて、海王星などじゃなくて。ちょっと不思議に思ったのでイメージしてみると、地表に立って天空を見上げ、夜空でもっとも明るく輝く星を見て、「あの向こうには何があるんだろう」と夢想した、というのが物語着想のきっかけ、など。

そして目を閉じると、網膜を流れるもやもやしたものや、脳内を明滅する光が見えた、とそんな感じ。歳をとって死ぬところまで想像を続けて、ついに生まれ変わった自分は、世界を新しい感覚で眺めることができるけれども、羊膜をへだてた疎外感に包まれている。

……なんて暗喩的なことを考えなくても、たぶん「序の舞」のように、肉眼に見えるものそれ自体の妙味、工夫された映像美を、楽しめばよいのでしょう。聴覚と視覚への肉体的・直接的刺激。CGのなかった時代の特撮の「自然」感は圧倒的です。(製作作業のすごさについてはウィキペさんなどで)

『戦場にかける橋』は徹底して自然光を生かしていましたが、こちらは人口の光がきいていますね。
作業は真逆なのに、同じように丈高く、雄大、かつ苛酷な監督の仕事。(その人工灯の調整に一日かかって、俳優は待たされる方が長かったとか、10テイク撮ったとか)

原題はスペース・オデッセイだけど、オデュッセイアーのように「血沸き肉踊る冒険があって、魔女とのロマンスがあり、最後は帰国して奥さんと再会し、めでたしめでたし」というドラマを予想すると「分からない」ということになる。主人公と思われた人が途中で交代しちゃうし。フロイド博士の娘のくにくにした子供らしい動きは可愛かったですけども、あの子が物語の鍵を握って……って展開にもならないし、ジュピターは快楽の星といっても全然関係ないし。むかし我が家では両親がしきりと「分からない」を連発してましたが。

前半はアイディア満載の「ミッドセンチュリーな未来」が、とっても可愛いです。いや、可愛いです。どこまで前半かというと、無限の彼方へ突入するまでを「前場」と考えますが、地球の待合室におけるローズピンクの椅子であるとか、バスガール(?)の制服であるとか、いろいろな建造物・機体のツヤツヤした外観であるとか、丸っこい修理用ポッドとか。特典の対談によると、HALちゃんは今ならラップトップサイズだそうです……

カメラの方向を工夫して、人物が壁に垂直に立っているように撮るのは、ドリフのコントでやってましたっけね…… セットのほうが廻るように造ってあったとか、のぼったように映ってるけど実際には落ちたとか、特撮裏話はすごい話ばかりです。

後半はそんなわけで。主演俳優の解釈によると、無限の彼方に人間の部屋があったのは、異星人によって「捕獲」されてしまって、虫カゴに葉っぱや朽木を入れてやるように、人間らしい環境に置かれたのだそうです。そして地球を未来へ導くっていうストーリーが「あった」らしいんだけど、これはそれより、太平洋ならぬ大宇宙ひとりぼっちな感覚を味わうってことでいいのではないかしらん。
ともかく、そういうわけで後発作品は「誰かと誰かが戦う勧善懲悪ドラマ」になっちゃったものが多いので、これは空前絶後の「映像による音楽」とでも。
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Misha

Author:Misha
スマホ時代にさからう評論系長文ブログ。冷静に通読できる大人の読者様を想定しています。

「若い人」に直接呼びかける文章は、18歳以上のヤングアダルト対象です。高校生は受験を最優先してください。

書く人は、新旧とりまぜて映画とアニメを見ながら文芸書に取りくんでみたり、昔の漫画を思い出したり、お国の先行きを心配したりしております。

記事中の色つき文字は、映画中の台詞・挿入歌からの引用です。あらすじは、あまり申しませんので、楽しみに御覧ください。取り上げる作品は、暴力・エロスなど特殊な要素を含んでいることもあります。

ときおり、耽美・BL・同人・LGBTに言及します。いずれの分野からも、偏見と差別と自虐がなくなるといいと思っております。

「二次創作の責任を二十四年組に押しつけるな」「実在同性愛者に甘えるな」が基調です。

全体として、二十四年組ファンが社会学者に物申すという珍しい構図。一部勘違い同人を叱責することによって全体を守るという意図もあり、ときにかなり辛口です。

記事は時々予告なく手直し・削除・分割しております。保存は個人的閲覧の範囲で、お早めに御随意に。転載・改変利用は固くお断り申し上げます。

解題


Casketとは、玉手箱。

でも検索すると棺桶がならびます。来世まで持っていきたい好きな作品の記録帳とご理解ください。