1968年、マキノ雅弘『侠客列伝』東映京都

  03, 2016 10:20
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もうなんにも言うな。でなきゃ、泣けそうなんだよ、俺ァ。

脚本:棚田吾郎 撮影:鈴木重平 照明:中山治雄 美術:鈴木孝俊 音楽:木下忠司 助監督:原田隆司

官報 刑法第百八十六條 常習トシテ博戯又ハ賭事ヲ為シタル者ハ三年以下ノ懲役ニ處ス。

明治四十年、潮の香る小田原。精霊流しの頃。男同士の情念は闇に融けて、女の意気地は珊瑚色。女優も含めてオールスターの個性を十二分に活かしきって、木下音楽も冴え渡る、宝石箱のような傑作でした。

予告篇を見ると、侠客伝シリーズの集大成ということのようで、鶴田浩二はシリーズ序盤を兄貴分として支えてくれた人ですから、最後に華麗な仕事をしてくださったわけですが、今まで出演の少なかった若山富三郎も良い役で出ており、菅原謙二・大木実もいるので、博奕打ちシリーズや残侠伝シリーズからも勢ぞろいした感で楽しいです。

監督は各俳優に見せ場を与えて、丁寧に撮ってあげております。河津清三郎の悪役ぶりも徹底しており、お話のほうは、なかなかハードです。

湯たんぽじゃなくて官報が出たんだそうで、博打がハッキリと取り締まられることになったようです。基本的には組どうしの縄張り争いですが、生き残りを賭けて姿を変えていく任侠界を背景に、明治四十年の実録調。

大連合・大花会という、このシリーズでは今まであんまり取り扱って来なかった要素を取り入れてスケールアップした陰で、男と交わした盃と、女と交わしたい盃は、どっちも重くて遣る瀬ねェ。

脚本の棚田は内田吐夢版『人生劇場 飛車角と吉良常』、マキノ『日本侠客伝 絶縁状』『日本侠客伝 花と龍』を書いた人で、時代の変わり目に昔気質の侠気を貫く姿を、わりに息の長い台詞で丁寧に説明し、深い感情移入を誘う人。組んだ本数は少ないですが、マキノ監督とは相性いいような気がします。

カネが物を言う世の中になり過ぎて、賭場の遊びの気分が崩れてきてるんだ。形だけ渡世人を真似たならず者が増えてきやがった。お上が目ェ光らせねェはずァねェよ。

たいへん暗く厳しいメインストーリーに悲恋を絡ませて、男男も男女も関係者の人数が多く、対立と協力の構図が複雑ですが、書くほうも撮るほうも熟練技でスピーディーにまとめ上げ、ものすごく密度が濃いです。

オープニングのタイトルバックは魚網のシルエットで、斬新に感じられるとともに、人間関係の網の目を象徴しているかのようでもあります。勇壮な音楽と、本物の漁船を走らせている様子からも、シリーズ最高傑作の意気込みが伝わって参ります。

これで終わりにするぞ! という打ち止め感があったのかもしれませんが、だからこそ出来が良いので、続いちゃったりすることです。

藤純子のお太鼓帯には洋蘭の花が咲いて、今回は高倉の嫁さん役じゃないので「あり?」と思ったところ、そうです特別出演のあの人がいるのでした。

物騒なふたつ名を持ったその人は、あくの強いギャング・任侠俳優の中では相対的に最も女性的な風貌で、ロマンスのお相手にこそ相応しいはずなんですが、なぜか破格の貫禄。眼と声がいいんだろうなァと惚れ惚れしつつ、鈴木カメラがすごくいい。せまいセットの奥行きを活かして、恋もアクションも見せ場が連続いたします。

クライマックスも破格ですので御覧あれ。

この華やかさと、任侠の世界を美化しつつ、懐疑をも表現しきったことを思うと、マキノさんとしては『侠客伝』やり尽くしちゃったんだろうなァと思われるのでした。

このあと、1969年『花と龍』は残念ながら蛇足感があって、1970年『残侠伝 死んでもらいます』のほうで(タイトルが物騒なわりに)マキノさんらしい明るさが戻ってきたり致します。

『侠客伝』シリーズのほうは、監督を変えて、その後も2本続くのですが、こちらはまた見てのお楽しみ。



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