2016/10/11

1970年12月、山下耕作『日本侠客伝 昇り龍』東映京都

あたし……、それを、貴男の体に残したい。

原作:火野葦平 脚本:笠原和夫 撮影:吉田貞次 美術:鈴木孝俊 音楽:斉藤一郎 編集:宮本信太郎 助監督:本田達男

胸が一杯でどこから書こう? というほどの傑作。ロケハンのセンスの良さ、仁侠映画では古今無双の野外撮影の美しさ、室内構図の芸術性、物語の再構成の手際の良さ。山下耕作ここにあり。必見。

緊迫の賭場描写から始まって、全篇を通じて白粉濃い目の藤純子の美しい存在感を強調した女侠ものの一種でもあって、胸に沁みる悲恋物語となりました。四十歳になんなんとする高倉の美貌が渋みと落ち着きを増して、不倫ロマンスの情緒を深めております。

前作『花と龍』の続きではございませんで、完全な仕切り直しです。序盤に入浴シーンがあって、まだ彫物が入っていないことが示されます。『侠客伝』をぜんぶ観てこなければ分からないということもなく、独立の作品としての完成度が高いです。

男男パートも山下らしくコメディリリーフを投入せずに、骨太かつ緊密に撮り上げたアクションシーンの連続。後半は笠原魂炸裂で、機械化によって職場を追われる石炭流し達の苦境を丁寧に描きました。もうベタ褒めです。

中村玉緒が若くて誰だか分からんほどですが、じつにいい嫁さんぶりです。荒木道子の「どてら婆さん」がたまらなくカッコいいです。笠原が女性キャラクターをこれだけ上手に動かしたのも珍しいかと思われます。

藤は娘ぶりっこ演技から始まった人でしたが、ほんとうに悲しみに溢れたいい顔をするようになりました。

年末らしいオールスターものでもあって、背中で存在感を見せちゃう「小倉のカミソリ」も、惜しみなくこの人らしい役どころ。高倉とともに演じてきた役柄の総決算・集大成といえるかと思います。それにしてもいろいろと二つ名を持ってる人でしたね。

監督が千恵蔵をたいへん尊敬して、丁寧に遇している心も伝わって参ります。なお全篇を通じて、和風セットが豪華です。

栗銀は悪役で、親玉はいつもの背の高いあの人。日本一切れ味鋭いゴンゾに対して、やや誇張ぎみの演技で悪役らしさを横溢させております。この二人がこれほどの大立ち廻りを演じたことも少なかったかもしれません。惜しみなく消費されるセットにセンスと技術の全力を投じたのは鈴木孝俊。

『侠客列伝』(1968年)のマキノも、この山下も「もうこれで仁侠映画は終わりにしよう! 最後の華を咲かせよう!」という意気込みだったように思われます。(だからこそ出来が良いので続いちゃうのです。)

彫物の絵師のお名前はクレジットされていませんが、たいへん美しいです。



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