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1962年1月、黒澤明『椿三十郎』東宝

間抜けな味方の刀は、敵の刀より危ねェ。

原作:山本周五郎『日々平安』 脚本:菊島隆三・小國英雄・黒澤明 撮影:小泉福造・斉藤孝雄 美術:村木与四郎 照明:猪原一郎 音楽:佐藤勝 監督助手:森谷司郎 剣技指導:久世竜

巻き込まれ型べらんめェヒーロー。どうしてこれが武士なのか。菊千代が立派になったもんだと思ったら、やっぱり菊千代でした。城代家老夫人にやりこめられる表情がたまりません。

ああいうおばあちゃんになりたいと思いつつ、この作品はもう、男の人が「三船敏郎が好きだッ」という気持ちを正しく表現するとこうなる、ということでいいんじゃないかと思われます。

日本人らしい脚本の上手さと、セットを知り尽くし、計算し尽くしたカメラワークによって、約90分間、ひと息に見せます。三十郎は居合(抜刀術)の達人のようで、アクションシーンはまばたき禁止でございます。

若者たちは金魚のなんとかのようにゾロゾロしてるわけですが、悪役・婦人キャラクター含めて余分な者が一人もいない。コメディリリーフとして本筋から浮いている者がなく、それぞれに命がけで男(または女)を張りながら、「おかしみ」の要素を持っている。役者もよく分かっている。

なお、外界とは障子戸一枚しか隔ててないんだから、あんまり騒ぎなさんなよッ(^^;)

物語としても、美術としても、ミニチュア的な、箱庭的な、せま~~い世界を懇切丁寧に作り込んだ、まったくもって日本の職人技的な映画です。

冒頭は勇壮なオープニング曲に打たれつつ、ものすごい配役に呆れつつ、ファーストシーンが重要とタイトルバックが明けるのを待つと、ド正面から古い社殿。エイゼンシュテイン的編集を経て、カメラが屋内へ踏み込むと、舞台劇ふう若者たちの密談。ああ黒澤だなァと思っていると、……世界一カッコいいヒーローの登場シーンかもしれません。

公開時で三船(1920年生まれ)42歳、加山雄三(1937年生まれ)25歳、田中邦衛(1932年生まれ)30歳。世慣れた中年と、いかにも浮き足立ちやすい青年たち。実年齢差をよく活かした物語作りはたいへん感情移入しやすいわけですが、べらんめェの武士って。

黒澤監督はヤクザがおきらいだったそうで、1962年というタイミングは東映が任侠路線を始める手前なんですが、これに先立つ時代劇では東宝系でも東映系でもこのタイプはいなかったんじゃないかと思うと、これが渡世人キャラクターの原型なのかどうなのか。

これほど頭の回転が早く、腕の立つ男がどうして素浪人なのかと考えると、まさにそれゆえにこそ自分の生まれ育った藩で浮いちゃったのかもしれません。青臭かった時代があったのかもしれません。だから若者たちをほうっておけなかったのかもしれません。若者たちの正義感が何を招いたかという話でもあって、新左翼運動が流行する直前でもありますから、時代を先取りしていたのかもしれません。

懐手、袖まくり、なにかの動物のように碁盤に座り込んじゃった姿など、三船のアイディアなのか監督の演出なのか、どっかに書いてあるのかもしれませんが、印象的な場面が一杯です。「こんな着物」を着た姿も拝見したかったように思いますが、日本一緊縛姿が似合う俳優のような気も致します。

浮いてないといえば、男惚れの要素も物語の本筋に緊密に組み込まれているわけですが、胸の内を思えば切なくて、惚れた心が深ければ、恨む心も深い道理。

農夫なら農作業が始まって忙しくなる季節。職人なら博打で決着をつけるところ。次の仕官の当てのない(いや、あったんだけど)平和な時代の素浪人どうしだからこそ、命と誇りのほかに賭けるものがない。

出会い方が違えば親友になれた二人だったのでした。

そしてやっぱりというべきか、爽快な暴力映画を撮る監督たちの真の心意気は、鞘に入った人生の良さを観客に言い含めることなのです。

終盤、若者たちが椿を見つけて、駆け寄って、遠くに見える岩山との間に空間が生じて……あのタイミング、それをじっと遠くから捉え続ける構図は素晴らしいですね。

黒澤監督も、初期には編集が斬新すぎて話法が乱暴に感じられたり、逆にまだるっこしかったりしましたが、これは熟練の美学の大盤振る舞い。お見事といっては、叱られるでしょうか?



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Misha

Author:Misha
スマホ時代にさからう評論系長文ブログ。冷静に通読できる大人の読者様を想定しています。

「若い人」に直接呼びかける文章は、18歳以上のヤングアダルト対象です。高校生は受験を最優先してください。

書く人は、新旧とりまぜて映画とアニメを見ながら文芸書に取りくんでみたり、昔の漫画を思い出したり、お国の先行きを心配したりしております。

記事中の色つき文字は、映画中の台詞・挿入歌からの引用です。あらすじは、あまり申しませんので、楽しみに御覧ください。取り上げる作品は、暴力・エロスなど特殊な要素を含んでいることもあります。

ときおり、耽美・BL・同人・LGBTに言及します。いずれの分野からも、偏見と差別と自虐がなくなるといいと思っております。

「二次創作の責任を二十四年組に押しつけるな」「実在同性愛者に甘えるな」が基調です。

全体として、二十四年組ファンが社会学者に物申すという珍しい構図。一部同人を叱責することによって全体を守るという意図もあり、ときにかなり辛口です。

記事は時々予告なく手直し・削除・分割しております。保存は個人的閲覧の範囲で、お早めに御随意に。転載・改変利用は固くお断り申し上げます。

解題


Casketとは、玉手箱。

でも検索すると棺桶がならびます。来世まで持っていきたい好きな作品の記録帳とご理解ください。