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1971年4月、小沢茂弘『日本侠客伝 刃』東映京都

アホにゃ勝てんわい。

脚本:笠原和夫 撮影:吉田貞次 照明:増田悦章 美術:鈴木孝俊 音楽:津島利章 助監督:清水彰 

はい注目。もう一回いいますが、刃と書いて「ドス」と読みます。せっかくなので完走記念に再見しました。

小沢さんらしい喧嘩ッ早い男どもを立て続けに描く娯楽色ゆたかなアクション作品ですが、身分違いの悲恋という背骨が一本通っておりまして、中入り後は悲劇調が高まり、『侠客伝』の看板がなかったとしても、独立作品としての見ごたえが高い一本です。

大きく三部構成。コメディタッチでキャラ立ちが良く、テンポの早い第一部でしっかり心をつかまれて、大木実が登場すると、第二部が急展開。

現実社会は「よど号」事件の後で、新左翼運動は下火になりつつあった頃のはずですが、むしろこの頃から笠原脚本は国粋・軍国主義への批判を強めていったような気がいたしますね。

撮影の吉田は『昇り龍』を撮った人でもあります。遠近自在。女の着た赤、男の着た青、逓送の厩、夕映えの海岸ロケ。絵画的に美しい絵が続きます。斜めに狙った和室や、樹木の枝越しの男女の姿など、斬新な構図が古い物語に新鮮な外見と緊張感を与えたかと思います。

郵便制度は明治四年、前島密によって整えられたそうです。このお話は明治二十年。もと武士という設定を使えた時代。

1931年2月生まれの高倉は、40歳に達してるんですが、前半では顔を汚して、20歳くらいの世慣れない青年の役を熱演しております。同じ年に8本(!)撮ったうちの6本目。 

この『侠客伝』シリーズは、もともと高倉が演じる青年が一人前になって行く様子を描くというテーマがあったので、今回は一人二役といいたいほどの変貌ぶりで、最終章に相応しい構成になったかと思います。精一杯ほめてみました。

十朱幸代は、ときどき高倉と共演してきた人ですが、やや野暮ったい顔立ちが品格として感じられ、わりと好きです。娘さんというよりは、やっぱりお姉さんで、やや年増なんだけれども、それが唯一楽しみにしていたはずの婚礼衣装を手放す。切なくも美しい場面ですね。

1918年の紀元節に生まれた池部良は53歳。だいぶ貫禄つきました。もとがロマンス映画系なだけに女連れがよく似合います。高倉とは実年齢で十歳以上の開きがあるので、このくらいの立場の差があるのが自然ですね。

「御家政」は、御家人だったのでしょう。明治二十年にこの歳ですから、大政奉還の時点で三十代に達していたわけで、その頃にはまだ武士だったでしょうか、すでに渡世人だったでしょうか。

次郎長さんとこの大政さんを下敷きにしていると思われるので、すでに幕藩時代に仔細あってお家断絶といったことになった後、用心棒として侠客の世界に入ったというところでしょうか。『残侠伝』でも「もともとインテリのはずなのに」という雰囲気を保っており、戦後になっても古い仁義の型を守っているという役だったので、これも一本貫いたといえるのだろうと思います。

なお、これは辰巳柳太郎を観る映画でもあります。剛柔一如の新国劇。山田黒兵衛のほうは、もともと荷馬を引く人々の親方だったのかもしれませんね。それを懇意にしてくれていた上級武士が資本金を出して会社の形にしてくれたと。

池部起用の今さら感にはやっぱり驚かされるわけですが、じつはこの『侠客伝』では、二大ヒーローがうちそろって殴り込みってことが無かったのです。じつはそういう例は、『人生劇場』から単発作品まで思い出しても、あんまり無いのです。

いっぽう『残侠伝』は、なぜか一本目で肩を並べてスタスタ歩く姿を撮ってしまい、それが定番になったのですが、池部の演じる役の立ち位置は、脚本家泣かせだったに違いなく、途中で死なせちゃうわけには行かないし、『椿三十郎』のような決定的な対立の構図を取るわけにも行かないし。

三本目くらいまでは緊張感あったんだけど、その後は苦しくなってきたかな……という印象でしたね。

マキノが撮った7本目『死んでもらいます』の人気が高いとしたら、むしろ池部のほうが主人公で、全体のまとまりが良かったことも理由になっているかと思われます。

で、『侠客伝』に戻ると、その池部の存在感を活かしてくれと言われたに違いない笠原は、今さらどう思ったのかと勘ぐりたくもなるわけでございますが、もともと東映陣は尾崎士郎に対して(以下略)

監督は(よく考えると大した役回りではない)御家政に長い尺を与えて見せ場をつくり、アップを多用して気障な表情をよく捉えてやっております。

というか『残侠伝』のほうでは、じつはあんまり気障な芝居をやってないので(やってもマキノさんが撮ってくれなかったともいう)、小沢さんが演出つけたのかもしれません。

クライマックスでは、まずは客分からという、こちらのシリーズの定型を踏みつつ、最後に『残侠伝』の構図が付け加わった形なので、現場で合議があったのかもしれません。(楽しく想像してみましょう)

その御家政の「この姐さんも一緒に三人助け合って」の言葉通り、高倉の殴りこみ出で立ちは、紅裏が切ない思い出の白装束でした。

救國社は失職した武士が集まって、それぞれの古武術に励む道場でもあるので、アクションシーンは工夫が一杯です。池部の殺陣は、たいへん美しいです。墓地のシーンは、やっぱりカメラの揺れが鬼気迫ります。

マキノさんが『侠客列伝』まで撮って、一度決着をつけた後、『花と龍』に蛇足感があって、『昇り龍』は傑作なれどもシリーズの一本というよりは山下耕作の独立作品と見たほうがよく、なんで今さら池部良という不思議な企画だったわりに……

津島音楽の響く第三部の悲劇展開に情趣があり、血染めの大団円は暗い感動を呼んで、大人の夢としての結末を見事につけたかと思います。ラストシーンには「終」ではなく「完」と出ました。皆様ほんとうにお疲れ様でした。


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Misha

Author:Misha
スマホ時代にさからう評論系長文ブログ。冷静に通読できる大人の読者様を想定しています。

「若い人」に直接呼びかける文章は、18歳以上のヤングアダルト対象です。高校生は受験を最優先してください。

書く人は、新旧とりまぜて映画とアニメを見ながら文芸書に取りくんでみたり、昔の漫画を思い出したり、お国の先行きを心配したりしております。

記事中の色つき文字は、映画中の台詞・挿入歌からの引用です。あらすじは、あまり申しませんので、楽しみに御覧ください。取り上げる作品は、暴力・エロスなど特殊な要素を含んでいることもあります。

ときおり、耽美・BL・同人・LGBTに言及します。いずれの分野からも、偏見と差別と自虐がなくなるといいと思っております。

「二次創作の責任を二十四年組に押しつけるな」「実在同性愛者に甘えるな」が基調です。

全体として、二十四年組ファンが社会学者に物申すという珍しい構図。一部勘違い同人を叱責することによって全体を守るという意図もあり、ときにかなり辛口です。

記事は時々予告なく手直し・削除・分割しております。保存は個人的閲覧の範囲で、お早めに御随意に。転載・改変利用は固くお断り申し上げます。

解題


Casketとは、玉手箱。

でも検索すると棺桶がならびます。来世まで持っていきたい好きな作品の記録帳とご理解ください。