1988年5月、蔵原惟繕『海へ -See You-』東宝

  19, 2016 10:20
  •  -
  •  -
彼を口説けるのは、貴男しかいないんですよ。

原案:ジョゼ・ジョバンニ『砂の冒険者』より 脚本:倉本聡 撮影:佐藤利明 照明:安河内央之 美術:小川富美夫 音楽:宇崎竜童・千野秀一 助監督:猪崎宣昭 ラリー撮影:松前次三・毛利立夫 協力:東京映像社

パジェロが走る! パジェロが跳ねる! 今回は雪でも水でもなく、熱砂との闘いで、基本的にはレースそのものを実直に撮るドキュメンタリータッチ。いや、もう陽炎揺れるドキュメンタリー。堂々176分。なきゃなくてもいいような英語のサブタイトルがついてるところが80年代ふう。

チーム・ダンカイは「団塊」だと思われます。この頃は40歳前後。高倉さんは実年齢(公開時57歳)を活かして、ちょっと年下のレーサー達の兄貴分。相手の心も空気も読めない若い男女の面倒も見させられて、なんかもうお父さんの貫禄。

パリ・ダカール間耐久レース。当然ながら海外ロケがメインになるわけでございまして、序盤では高倉が外人俳優相手にたいへん楽しそうに演じております。

どーーしても雪国から離れられないようでもあり、いっぽうで南欧の空と海の色が美しく、お約束というべきか現地の祭り映像もあり、レース出発点はヴェルサイユ宮殿前で、出走すると雄大な空撮が続き、使用車両の数を見ても、いやァ……バブル時代の日本ってすごかったなと。

俳優陣は降旗映画と森谷映画に出ていた面々で、これが東宝の布陣なんだなと思うと楽しいです。カメラはすごく遠いところから急激に絞り込む手法が何回か使われているのが印象的です。

砂漠へ行くと黒いターバンが似合いすぎるほど似合う伝説の人の伝説は、じつに彼らしくて、ありありと眼に浮かぶようです。ぶん殴られたんですね池部さん。いや仲沢さん。

これは劇場公開を観に行った記憶があって懐かしいんですけれども、当時は池部さんはノーチェック。いま見ると楽しい仕掛けになっております。

相変わらず明るい褐色の眼が魅力的ですが、池部良70歳。ちょっともう現役サラリーマンを演じるには無理あるかなと思いつつ、よくぞキャスティングしてくださいました。

サスペンス要素はないので、あらすじを申し上げちゃいますと「スポーツドリンクの広告戦略として、ラリーには素人の人気俳優を出場させるに当たって、ベテランスタッフが必要である」ので、口説きに行きましょうというところまで、約7分間。たいへん手際よく説明されます。脚本も画もすばらしいです。

1965年10月1日公開の『残侠伝』から足かけ23年の付き合いを活かした口説きが奏功したのかどうかは見てのお楽しみ。

岡田真澄のバタ臭さもよく活かされております。カネがものを言う世の中は、いつの時代もお約束。洋物かぶれが悪役という時代劇以来の構図も仕込まれているように思われます。なお、サーフブレイクというブランド名は、そのまんまですが、なかなかカッコいいと思います。

ビデオ冒頭には「不適切な表現があります」という注意書きが表示されますが、この場合、女性関係の発言かと思われます。けれども、確かに甘えた女の来るところではないです。

でも桜田純子の役柄は、初見の時に「いいなァ」と思いました。一見地味な日本女性の情熱が。本当だったら一日三回食べることを考えただけでも現場の負担が大きいんですけれども。

高倉さん(いや本間さん)は会社員だったはずなのに、べらんめェです。ほぼ筋者です。竜童の音楽は、この時代らしくシンセサイザー使用ではありますが、やっぱり意外なほどクラシック。

日本語も英語も言葉少ない脚本は、男と男と女の言わない心までよく伝え、レースも恋も人生も混迷の果てにクラッシュし、空気の乾いた砂漠の夜の月は冴えて、人間模様を照らし出すのでした。

たいへんな長尺ですが、メインキャラクターを絞り込んだことと、並行して日本の現在の様子を描くということを殆んどせずに、レースの実況と現場の人間の内面描写に徹することを選択したことによって、緊迫感が持続し、共感度は深いです。後半は車載カメラと砂嵐映像により、圧倒的な臨場感で押して参ります。撮りも撮ったり。

あの頃は若かったから、死ぬことばっかり考えてた。

ロマンチック要素がないと本当にドキュメンタリーになってしまいますので、いしだあゆみがナビゲーターとしても優秀さを見せる魅力的なマドンナ役ですけれども、別の意味でお医者様におまかせしたほうがいいんじゃないかという部分もあるわけで、女性が奔放すぎて不安定になってしまうというのも80年代的なのかもしれません。

倉本は、内部の論理性が確立しているから言葉数が少なくても話が通じるので、監督と役者を信じて眼と眼の芝居に尺を取るということのできる稀有な脚本家ですが、女性を痴情のもつれ担当として「イメージ利用」する癖があるので、女性観客が見るときには眉に唾つけてというか、ニヨニヨしながら見てやるのがいいかもしれません。加藤泰『人生劇場』の台詞を借りるなら「あんたが書いた女って、ぜんぶ嘘ね!」といったところでしょうか。

じゃっかん取ってつけたようなエンディングに女性キャラクターが都合よく使われているとか、そういう言い方はしないでおきましょう。

東宝の文芸路線に較べて東映の娯楽路線は明らかですが、どっちがいいというものでもなく、両方観ればいいことだろうと思います。同じ役者が出てるんだし。

角川春樹が東映寄りの路線で気を吐いていたことも連想されまして、いっぽう西崎義展は気持ちとしては東宝みたいのをやりたかったんだろうなとも思いつつ、岡田茂と顔を合わせていたことを考えると、似た者どうしの3人だったんだろうなァと思うなど。



Related Entries