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同人がアニパロを続けたければ、言ってはいけないこと。

日本で最初にファンクラブが結成され、15歳以上の女性ファンもつき、流行のきざしとして認識されたアニメ番組は、西崎義展プロデュースによるもので、原作は手塚治虫でした。1972年のことです。

が、作品の権利を西崎が手塚から「ひっぺがした」という事情があったようで、手塚はすごく怒ったそうです。

これは手塚自身のファンから見ると「手塚先生かわいそう」というべき事態だったのです。

西崎自身は、もともと演歌歌手を使って歌謡ショーの興行を打っていた人で、漫画家ではありません。脚本家でもありません。人気キャラクターをカレンダーや貯金箱のデザインに利用するというキャラクター権利ビジネスの先駆者の一人でもあります。

彼がアニメ映画を製作したのは、例えていえば東映の岡田茂のように映画会社の重役がだいたいの構想を書いて、細部の台詞を若い脚本家に書かせるという方式を真似したのです。

漫画家は、最後の段階でキャラクターデザインの職人として雇われただけです。実写に例えれば、キャスティング交渉担当のスタッフというだけです。

いっぽう、漫画家というのは、セルフプロデュースのフリーランサーです。自分でお話を考えて、自分で描く。自分の作品は最初から最後まで自分自身の創意工夫によっており、自分で責任を持つ。

その眼で「製作者以下の合議制によって映画が制作される過程に漫画家が職人の一人として取り込まれていく」というのは面白くない事態なのです。

ケント紙にGペン・丸ペンでクロスハッチングを重ねていく・点描を打つというペン画の技法が、セルロイド板に輪郭だけ描いて、裏からアクリル絵具で着色するという技法に駆逐されて行くのを目の当たりにするのは、漫画家にとって気分のいいことではないのです。

これは、1980年代以降に「アニパロ」に関わり、そのうち出版社から声をかけてもらって、漫画家にしてもらえて、アニメ化してもらえるという受身な発想を持っている人には、分かりにくい境地なのです。

もう明らかに、1980年代以降の漫画同人には、漫画家の卵といっても(製図用ボールペンの一種を使って)キャラクターの輪郭線を引くことしか出来ないという人が増えてしまいましたね。アニメの技法が漫画を食っちまったわけです。

だからこそ、まだ「漫画道」としての自負を持っていた1970年代の漫画家・漫画同人の中から、アニメを「ネタ」にするというパロディの発想が出て来るのは自然なのです。それが性的なジョークであれば、その権威を最大限に(というか最低限に)傷つけたということなのです。

いわゆる二次創作BLは、BLであることが注目されやすいですけれども、男女の二次創作ポルノであれば描いてもいいというわけでもないのです。

権利者は「勝手なことをするな」と思うに決まっています。本人がキャラクタービジネスのプロであれば「使用料よこせ」と言うでしょう。アニメ映画そのもののファンは「イメージを壊された」と憤るはずです。

『宇宙戦艦ヤマト』シリーズには、ファンの評判がよくないのでラブシーンをカットしたという経緯がありますね。文字通り、フィルムをハサミで切ったそうです。

男女を問わず、ファンにはキャラクターに対して、それぞれの思い入れがあるものです。なかには本当に性的な話題が苦手なので、あえて児童向け作品を選択しているのに、途中からそういう話にされちゃ困ると思う人もいるでしょう。

だから「アニメファン=アニパロファン」ではないのです。ましてBLファンとイコールではないのです。

むしろ、ギャグの一種として、女性キャラクターのヌードを描いたり、男性キャラクターをBL化したりすることは、上記のように、アニメの急激な流行に対する漫画同人のルサンチマン・諷刺を一つの動機としていたと見ることもできるのです。

ただし、あくまで「一つ」です。すべてではありません。アニメも好きだが、アニパロも好きという人も現実に存在する以上、どちらかだけを取り上げて「他はあり得ない」と決めつける必要はありませんし、不適切です。

【それ言っちゃおしまい】

世のなか自分で何を言ってるのか分かってない人もいるわけでございまして、同人みずから「もともとアニメファンってわけじゃないわ。べつにアニメファン同士が交流してるってわけじゃないわ。キャラクター愛なんて言われると笑っちゃうわ」と自己申告するなら?

世間様は「オリジナルを描けばいいじゃん」って仰るだけですね。じつは、同人はそれでも困らないのです。客層が変わるだけです。

漫画同人としては、なにもアニメファンに売ってやらなくてもいいわけです。自分自身がアニメファンとして、アニメファンのお客様と楽しく交流したいというのでない限り。

コミケはもともと「アニパロマーケット」ではなく「コミックマーケット」なのですから、オリジナル漫画としての「エロ」を描いて、アニメファンではない人々に向けて宣伝を打てばいいだけです。他人の著作権を侵害していないのですから、堂々と「珠玉の官能ロマン」とでもいって宣伝できます。天下御免でツイッターアカウント名を出展ブース番号にすればいいです。

そのうちアニメファンが来なくなって、一般エロ読者に入れ替わるだけです。

アニメファンは他の場所(または他の日時)でコスプレイベントを開けばいいだけのことです。公式ブースから記念グッズを買えばいいです。アニメ会社・テレビ局はその売り上げを新作アニメの制作に投じることができます。下品なロリ化・BL化を目にしなくてよくなるので、真面目なアニメファンが喜ぶでしょう。ファミリー層を呼び込むこともできます。

出版界にとっては、同人オリジナル作品こそ、ダイレクトに青田として機能します。そのままでは使えない二次創作と違って、原作者に気がねせずに出版権を取得できます。

警察が「猥褻」で引っ張ろうとすれば、これはまた別の問題です。全世界のMangaファンと連帯して「表現の自由」を楯に闘うことになりますが、著作権が絡んでいないので、話がシンプルです。エロとパロを混同して余計なことを言い出すアホ同人がいなくなります。

どちら様も万々歳です。

つまり、私のほうが同人活動に詳しいわと自慢したいばかりに「べつにアニメファンってわけじゃないし~~」と言っちゃう人は、アニパロをつぶす人です。

【自己決定権】

逆にいえば「なぜアニパロなのか」の鍵を握るのは、アニパロを読みたい人です。エロであろうがなかろうが、知ってるキャラクターが出て来ることが嬉しくて、絵とお話作りのうまい漫画同人さんに描いてもらいたい人々です。

可能なかぎり、おカネを出して、漫画同人さんの生活を支えて差しあげるので、アルバイトなどに忙殺されずに、どんどん面白いアニパロを描いてもらいたいと思う人々です。

政府・司法としては、その「アニパロを描いてもらいたい」という気持ちは誰を傷つけるのか? が問題になります。

同人のほうから「売れるからいいじゃん」では、お話になりません。だったら海賊版の売人も、麻薬の違法取引も、奴隷商人もそう言うでしょう。

需要があるというだけでは理由になりません。それが危険ではないことが絶対条件です。

アニパロを描いてもらうと、オーバードースを起こして急逝するのか? アニパロそのものが火を噴いたり、弾丸を発射したりするのか? まだ幼い子どもの人権が蹂躙され、心身が破壊されるのか?

それほど恐ろしいこととは言えませんね。漫画を描く人と読む人がいるだけです。それなら国費(警察の活動費)を投じてまで取り締まるほどのことか? 著作権者から「どうしても」という訴えがあった時だけってことで充分なんじゃないか?

どこまで行っても、こういう話です。

政府としては、国民の「アニパロを読みたい気持ち」を「個人の自己決定権の尊重」といえば、民主主義国家の顔が立つのです。

ただし、同人やっていた人の態度がひじょうに悪く、人生を踏み誤ったと悔しがり続け、はらいせに他人を傷つける言動を続けるようなら「同人活動は危険だから取り締まれ」ということになります。

だから、自分が「同人やっていた」ことを、非行少女だったように思っている人には困るのです。

未成年の内から「エロ」と「カネ」という大人っぽい要素に触れて、いっぱし都会の「ワル」になったような気分になってしまい、その興奮がいまだに続いている人には困るのです。

【明日のために】

漫画同人みずから「私自身がアニパロを買って帰ることを楽しみにしています。アニパロの自由を守って行きましょう」と言わないことには存在意義がないのがアニパロです。

なかには他人の作品を買って帰ることをしない同人さんもいるのかもしれません。でも購読オンリーの人々と一緒になって「アニパロを読む楽しみを守っていきましょう」と言わないことには存在意義がないのがアニパロです。

そういう話にできないなら、やめればいいです。自分の世界を守るための約束さえ守れないなら、やめていいです。国民は誰も困りません。

パロディの規制を禁酒法に例えた人もいましたが、レベルが違います。酒類が禁止されたら、一億二千万国民の半数以上が「困る、寂しい」と言うでしょう。が、コミケ参加者なんて三日ぶん合わせても百万にも満たない。

レディースデイの出品物も、もはやパロディだけ・BLだけではないとすると、一途に二次創作BLだけを求めて来場するのは十万人程度ってことになります。

「我々はもっと多いのに、なんの便宜も図ってもらっていない」という人々が、新宿二丁目方面に大勢いるでしょう。パロディ同人だけが天狗になれる時代は終わりました。

わずか十万人(コミケに行ける人ばかりではないので本当はもっといるでしょうが)を守るために必要な態度は、わざと悪びれることではないのです。非行文化ごっこではないのです。

いまだに1980年代から精神を更新できていない人は、そろそろバージョンアップしましょう。



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Misha

Author:Misha
スマホ時代にさからう評論系長文ブログ。冷静に通読できる大人の読者様を想定しています。

「若い人」に直接呼びかける文章は、18歳以上のヤングアダルト対象です。高校生は受験を最優先してください。

書く人は、新旧とりまぜて映画とアニメを見ながら文芸書に取りくんでみたり、昔の漫画を思い出したり、お国の先行きを心配したりしております。

記事中の色つき文字は、映画中の台詞・挿入歌からの引用です。あらすじは、あまり申しませんので、楽しみに御覧ください。取り上げる作品は、暴力・エロスなど特殊な要素を含んでいることもあります。

ときおり、耽美・BL・同人・LGBTに言及します。いずれの分野からも、偏見と差別と自虐がなくなるといいと思っております。

「二次創作の責任を二十四年組に押しつけるな」「実在同性愛者に甘えるな」が基調です。

全体として、二十四年組ファンが社会学者に物申すという珍しい構図。一部同人を叱責することによって全体を守るという意図もあり、ときにかなり辛口です。

記事は時々予告なく手直し・削除・分割しております。保存は個人的閲覧の範囲で、お早めに御随意に。転載・改変利用は固くお断り申し上げます。

解題


Casketとは、玉手箱。

でも検索すると棺桶がならびます。来世まで持っていきたい好きな作品の記録帳とご理解ください。