Misha's Casket

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1949年10月、黒澤明『野良犬』東宝

心の持ち方しだいで、きみの不運はきみのチャンスだ。

製作:本木荘二郎 脚本:黒澤明・菊島隆三 撮影:中井朝一 照明:石井長四郎 美術:松山崇 音楽:早坂文雄 助監督:本多猪四郎

三船が走る! 三船が悩む! 新東宝・映画芸術協會提携作品。ディテールの物量作戦で押しまくる黒澤流1949年東京案内。煙草が男の心の友だった頃。名台詞いっぱい。教訓:コルトはジャケットのポケットに入れてはいけません。

『ラ・パローマ(鳩)』は平和の象徴なのに、人間は何やってんのか。ちょうちょ、ちょうちょ、とまれよ遊べ。根幹の心理的テーマと音楽の使い方のうまさは『天国と地獄』へ真っ直ぐに通じているようです。(なお『天国と地獄』のほうを先に観ちゃったのですが、鑑賞記は可能なかぎり公開年順に挙げて参ろうと思います)

さて、アプレゲール敏郎(公開時29歳)は、若すぎて誰だか分からんほどですが、たいへんいい男です。若手俳優らしい清新な(やや気負った)演技で熱意をふりまいております。どうも本当に暑いみたいでジャケットが汗だくです。復員兵いで立ちが、めっさ似合います。

まだ配給手帳があった頃。撮影の工夫がいっぱいで、フィルムを重ねた画に流行歌を乗せていく長い風俗描写が印象的。どこまでセットで、どこまで実物ロケなのか。今となってはものすごく貴重な時代の証言ですが、撮ってる時点でその意義を理解しているところがすごいと思います。『三四郎』では編集がもたついていましたが、意識としても技術としても、急にものすごくレベルを上げたようです。

おふくろってやつは娘のことに関しては素晴らしい検事だ。

序盤に急展開のアクション場面を置いて、観客の共感がキャラクターに定着したところで中盤からじっくりと重苦しい心理描写に入る黒澤節。

若手刑事の三船は序盤に足でかせぐ役で、中盤は志村喬の独擅場。役柄としても演技としても、若い三船を叱咤激励し、道をつけてやる役です。ベテラン刑事の果断さと身ごなしの素早さは『七人の侍』の勇姿を連想させることですね。

撮影の順番は、作中の時系列とは必ずしも一致しないでしょうが、一本撮り終わる頃には、キャラクターとともに悩み抜いた三船自身が立派に成長を遂げたように思われます。



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