Misha's Casket

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1963年7月、井上梅次『暗黒街最大の決斗』東映東京

川の水だって流れていく。世の中だって変わっていくんだ。

脚本:井上梅次 撮影:星島一郎 照明:銀屋謙蔵 美術:藤田博 音楽:鏑木創 助監督:加島昭

大東映が勝負する、ギャングスター総出演。(東映は予告篇も面白いのです)

洋酒と煙草とカフスボタンが男を飾っていた時代。残侠vs.洋行帰り。兄弟仁義のフォーカード。日本の「家」制度を一つのテーマに、タイトルからは想像もつかないほど情緒深い一本です。必見。

なお、ノンクレジットですが助監督に高畑勲が入っているようです。

まずは刺激的な劇中劇から、ラテンなビッグバンド音楽に乗せて、タイトルバックでどんどんお話が進む梅次節。タイトルが出るまでに「カッコいい」が詰まってます。

あれですよ。音楽性からいっても『ルパン三世』は、これを10年経ってからアニメでやったのです。それはともかく。

「暗黒街」シリーズではありますが、お話は前回の続きではなく(続きようがない)、独立しております。基本的には新旧勢力による賭場の利権争いのお話。登場人物たちがチョコチョコと英単語を使うのがご愛嬌。なお、観光目的の渡航自由化は、この約半年後。1964年4月1日のことだそうです。

ニューヨーク・ギャングの皆さんに言わすと「日本はいま景気がいいから、当たりゃ大儲けができるぜ」だそうで、主人公の通関の様子が時間をかけて撮影されているのが海外旅行慣れしていなかった当時の観客に強くアピールしたと思われますが、空港の内部は、たぶんセットです。国内で物語の中心的舞台となるナイトクラブもセットです。豪華です。映画産業自体は斜陽化していたはずですが、確かに景気がよかったようです、1960年代の日本。

主役はあくまで鶴田さん。小柄なおじさんのようですが、頭部が小さく立ち姿のバランスが良いのです。ナチュラルに気障でありつつ、眼に熱意があり、誠意を感じさせる演技ができたんだから、もう仕方ないです。

若さを残した高倉さんは日本の好青年代表。今回は白刃のなんとかではなく精神的な対決が見どころで、こちらも荒削りながら誠意ある演技力を披露します。

大木実がたいへん楽しそうに悪役を演じております。大政が元は武士だったように、元はインテリという育ちの良さを感じさせる人で、脇が甘いというか、非情になりきれない役がよく似合います。ギャング映画の悪の代名詞・安部徹にも独擅場が一杯あります。

久保菜穂子は地味めな年増なんですが、おとなの男たちに一歩も引けを取らない存在感が頼もしいです。十数年来の鶴田ファン女性を象徴していたのかもしれません。オートクチュールを意識した60年代の女性ファッションは今見ても斬新で、楽しみの一つです。

背景として、セットではなく現実の街の風景が映しこまれており、これも今となっては貴重な記録かと思われます。


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