Misha's Casket

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1963年8月、内田吐夢『宮本武蔵 二刀流開眼』東映京都

名家の子というのは、自尊心が強うて、ひがみやすい。

製作:大川博 原作:吉川英治 脚本:鈴木尚之・内田吐夢 撮影:吉田貞次 照明:和多田弘 美術:鈴木孝俊 音楽:小松太一郎 助監督:山下耕作 衣装:三上剛 擬斗:足立伶二郎

ベテラン監督に全幅の信頼を置いて、ゆったり観ましょう吐夢映画。登場人物が多く、それぞれの事情をかかえて武蔵を追っかけてる(または待ちうけてる)わけですが、出し入れがうまく、流れがきれいで、いずれの人物にも観客が共感しやすい見事な作りです。セットもたいへん豪華です。

錦之助さんは「女形あがりの美剣士」というイメージからの脱却を図っているようで、顔を汚して貧乏素浪人・武者修行のリアリズムを追求しております。二刀流ももちろん華麗なる揚羽蝶ではなく、たけぞーのちから強い二刀流。

関が原の敗残兵で、ただの暴れ者だった奴が、なにをどうして強くなったのか、そこの描写はスッ飛ばしちゃったんですが、俳優自身が時代劇ヒーローとして場数を踏んできたことが充分に活かされているようで、軽快かつ腰の入った立ち回りは安定感抜群。

しかも独白が多く、舞台劇みたいで、映画としては珍しい作品なんですけれども、声を抑えた錦之助の芝居には重厚感があり、生真面目で純情な人間性が伝わる不世出の武蔵像だと思います。京八流・吉岡清十郎(江原真二郎)の不安げな様子とは好対照。

高倉健が中盤から巌流・佐々木小次郎として登場するのが今回の目玉で、「前髪」と呼ばれるのが魅力的。舞台衣装のように派手な出で立ちで、周囲の武芸者たちから浮いており、「生意気な」とか「気障な」とか言われております。

まだ若いという設定なのでしょうが、俳優の実年齢は32歳。美剣士というには武骨で、演技力的にもいっぱいいっぱいですが、上背をいかした長刀さばきと眼光はいかにも鋭く、後の活躍ぶりを思わせます。

それにつけても、徳川の天下ってことでだいたい決まって、柳生宗矩も隠居した後になってから「剣の道」と言い立て、喧嘩売って歩く奴は、よく考えると迷惑だよなと思わないこともありません。食いつめ素浪人の時代だからこそ花開いた武士道伝説だったのかもしれません。

1963年の現実世界では、3月に東京方面から、着流しヤクザ伝説が始まっておりました。


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