1965年5月、熊井啓『日本列島』日活

  02, 2016 10:22
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こうした世界中のスパイ組織が入り乱れ、対立し、絡み合って、政治そのものにまでなって来ているのが日本の現実です。

企画:大塚和 原作:吉原公一郎(三一書房版『小説日本列島』より) 脚本:熊井啓 撮影:姫田真佐久 音楽:伊福部昭 美術:千葉和彦 録音:沼倉範夫 照明:岩木保夫 編集:丹治睦夫 助監督:三浦朗

宇野重吉以下、民芸な人々による「異色の社会ドキュメンタリー・サスペンスドラマ」。(公開当時のプレスシートより)

まだ小学校に小遣いさんがいて、乗り合いバスに女の車掌さんがいた昭和34年頃。航空機の爆音が響く空の下、もはや占領下ではないのに、駐留米軍に翻弄される日本人。もはや戦時下ではないのに、旧日本軍の亡霊に翻弄される現代人(当時)。

あんまり出来が良いと「どこから書こう!?」と手がわきわきしちゃうわけですけれども、まずは撮影と照明がすごく良く、象徴主義なオープニングから始まって、これでもかというほど粋な構図と流麗なカメラワークが続きます。

モノクロですが、びっくりするほど綺麗な画面と思ったら、意外に新しいのでした。二人の登場人物の着衣が必ず淡色と濃色の組み合わせになっており、よいコントラストですから、狙っているのだろうと思います。

全篇を通じて、音楽と効果音の使い方がすごく良く、テーマは重量級ですが語り口は意外なほどテンポが早く、題材が題材なだけに面白いって言っちゃあれですが、面白いです。回想シーンへの切り替えも珍しいほど美しく、回想中は画質を変えているあたりも憎いです。

映像としては、かなりとんがってるほうだと思いますが、静かな怒りを湛えた脚本と主演の質が完全に一致。

水上勉か吉行淳之助に出てきそうな冴えない教員だった軍属という主人公と、やや非当事者らしい軽薄さを漂わせた二谷英明の新聞記者がいいコンビ。鈴木瑞穂がビックリするほど若いながらも印象的で、大滝秀治はまさかの台詞なし。当然ながらまだ若く、特徴的な目元に妖しい色気があって、いい感じに悪役です。マドンナ役の芦川いづみが、気品があって理知的で理想的。DVD盤面には彼女のスクリームな顔が印刷されておりますが、ホラーではないです。

野次馬のごとき新聞記者というのも、映画・テレビドラマで後々までくり返される表現ですが、構図によって諷刺の面白みを出すことができるというお手本のように思われます。

という、たいへん語り方のうまいサスペンスで、意識高い監督の「手」に乗せられてしまうのが心地良い作品ですから、あらすじは申し上げません。

物語そのものは、このあと漫画などで散々繰り返されたものではあって、結末も見えているのですけれども、クランクインから試写までわずか2ヶ月という密度の濃さと、最初の問題提起という清冽な気概にあふれた傑作です。



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