Misha's Casket

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1968年2月、熊井啓『黒部の太陽』三船プロ・石原プロ

この映画は 敗戦の焼あとから 国土を復興し 文明をきずいてゆく 日本人たちの 勇気の記録である

製作:三船プロダクション三船敏郎 石原プロモーション石原裕次郎 協力:関西電力株式会社 株式会社間組 鹿島建設株式会社 株式会社熊谷組 佐藤工業株式会社 大成建設株式会社(黒四建設工区順) 株式会社小松製作所 ブルドーザー工事株式会社 日本国土開発株式会社 朝日ヘリコプター株式会社 愛知県豊川市

企画:中井景 原作:木本正次(毎日新聞連載・講談社刊) 脚本:井手雅人・熊井啓 撮影:金宇満司 照明:平田光治 録音:安田哲男・紅谷愃一 美術:平川透徹・山崎正夫・小林正義 編集:丹治睦夫 音楽:黛敏郎 助監督:片桐直樹 音響効果:片桐直樹 特別技術指導:株式会社熊谷組・株式会社笹島建設

きみの祖国は日本と呼ばれ、男たちは立山連峰にはばまれて重機を入れることのできない黒部の谷底を、はなはだ景気の悪い手掘りで始めて、反対側からは魔の破砕帯と闘い抜き、日本で1番、世界でも4番目、総貯水量2億立方メートル、堰堤の長さ492メートル、高さ186メートルというアーチダムを建設しました。

今度の工事はね、日本の、本当の土木工事なんだ。

インターミッションつき堂々の3時間16分。黛交響曲が鳴り響くオープニングの大上段ぶりが象徴するとおり、ド正面から土木工事を描いたドキュメンタリー調。

じつはダムそのものの建設の様子ではなく、その資材を運び込むためのトンネルを、フォッサマグナ上の雪解け水に満ちた大山脈をぶち抜いて貫通させる苦闘を描くのが映画の主眼。アニメーションを用いて、計画の概要と進捗ぶりを説明してくれるのがたいへん分かりやすく親切です。

それだけに「ここでなきゃいけないのか!?」と話を最初に戻して念押ししたくなるような凄まじい計画であることもよく分かりますが、やれと言われりゃやってしまったのが日本人。尊い犠牲を払いながら。冒頭に表示される錚々たる企業名は、興行上の配慮もあるでしょうが、まずは実際の工事にあたった人々への真摯な尊敬の念の表れと存じます。

雄大なタイトルバック上に流れる出演者名は50音順。その困難な現場に、トップスターも脇役もなかったのです。もう、これだけで目頭が熱くなることです。

ときに、昭和31年6月。日本で1番、世界でも4番目ってダムの建設は、まずは雪山登山から。CGではありません。三船敏郎、48歳。楽ではなさそうです。えらい所へダム造んなきゃいけなかったのは、電力が足りなかったからです。国家的大事業ではあるのですが、あくまで関電の発注で、その男気に応えたり応えなかったりする現場のリアリティを、感動的かつドライに撮るという離れ業を実現しております。

人物をわざと画面の中心から外したり、異様に高い位置または低い位置から狙ってみたりする熊井的構図の美学と、編集センスの冴え、音の使い方の細やかさが全篇に溢れており、地味な説明の続く序盤から見せます魅せます。

『海峡』ではトンネル掘りの最初の一歩を端折ってましたが、こちらはブルドーザーをくり出して、異常な構図で完全再現。う、埋まる。

現場の様子を描くだけではドキュメンタリーになってしまいますので、裕次郎演じる大学出のホワイトカラーが観客目線を代表いたします。ヘルメット無しで現場に出るのはファンタジーなので真似してはいけません。

映画監督というのは、現場の親方ではありますが、高学歴の知的労働者の一種なわけで、労務者の集団に対しては「上から目線」ということが多いものです。「社会の底辺で逞しく生きる人々を温かい目で描いた」みたいな。マキノ任侠映画などにも見られますね。だから最も共感できる主題は、ホワイトカラーと労務者の葛藤。それもホワイトカラー側の独善性の自己批判ということになるのでした。

個人的に裕次郎の顔立ちが好みでないと思っていたので敬遠していたのですが、あらためて、知性と愛嬌を兼ね備えたいい俳優さんだと思いました。なお、ソフトは石原プロ50周年で初DVD化だそうです。

もう一人のホワイトカラーである三船さんは企業倫理代表。現場のド根性代表は、長尺をまかせて安心な辰巳柳太郎。宇野重吉は、いい感じにくたびれております。いずれの家族の場面も、ハードな現場との切り替えのタイミングがうまく、清楚なロマンスの要素もあり、観客の感情移入度は高いと思われます。

なお、貫通直後の儀式が神式であったり、樽酒がふるまわれたりなど、機材が現代化しても日本である様子が胸に沁みます。

終盤は画質が違うので、実際の工事を撮影したフィルムだと思われます。すごいです。




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