1965年9月、須川栄三『けものみち』東宝

  09, 2016 10:21
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しばらく、ぼくの道具になってみる気はありませんか。

製作:藤本真澄・金子正且 原作:松本清張(新潮社刊)脚本:白坂依志夫・須川栄三 撮影:福沢康道 照明:石井長四郎 美術:村木与四郎 音楽:武満徹 録音:伴利也 監督助手:西村潔 編集:黒岩義民 

池部さんが出てるので。49歳、チョイ悪な色男ぶり全開。表情の美しさを堪能できます。

煙草が男優に絶妙の間を与えていた時代。タイトルから予想される通りの官能要素を含みますが、1960年代らしいスタイリッシュなモノクロで撮られた、たいへん語り方のうまい正調清張サスペンスで、主演の池内淳子と、脇固めに入った伊藤雄之助が底知れぬ演技力を見せます。

まずは不安を掻き立てる武満的前衛音楽と、大東京の大俯瞰図から。その片隅にうごめく獣たちということなんですが、野生動物のほうがなんぼか仁義を知ってます。仁侠映画が大流行し始めていた陰で、戦後社会におけるヤクザと右翼と「左翼革命」と保守政党の位置関係というエピソードがほほえましく響きます。

たいへん面白いですが、「おじいちゃん」という人が具体的に何やってるのかよく分からず、「悪い金持ち」というステレオタイプの利用にすぎないという見方もでき、結末も後味のよいほうではないので、全体に諷刺の目線をもって、ニヨニヨしながら観られるお客様限定です。

2時間越えの大作で、不幸な女の巻き込まれサスペンスでもあり、政治風刺でもあり、ロマンスでもあり、違う意味のロマンでもあり、中盤は『飢餓海峡』ふうの犯罪捜査描写が光ります。「満州」が一つのキーワードでもあり、戦後20年の伏目にあたるこの時代らしく、他の作品とも同様に、戦中世界の後始末という要素も持っております。

一歩まちがうと崩壊しちゃうくらい盛りだくさんなんですが、事件を構成する小物を手際よく印象的に映し込んだり、次の展開を予想させる不安な構図や、異常なカメラワークで登場人物の人生の転換点を表現するなど、見せる工夫・説明の工夫に満ちております。

わりにロケが多用されており、当時の街の様子や警察署の建物が映し込まれているのが印象的です。千石規子がいい感じに中年になってます。

芝居の背景に街の音が入ってるのが日本映画の面白いところで、海外作品にはほとんど無いですね。日本人にとって、三味線はもちろん自動車の発する音も雑音ではなく、象徴的な意味を持つのです。

オープニングクレジットにある「合成」ってなんだ? と思ったら、クライマックスに関係しているのでした。

それにつけても東宝の予告篇はいつも見せすぎ。


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