2006年9月、マヌエル・ウエルガ『サルバドールの朝』

  11, 2016 10:20
  •  -
  •  -
原題:SALVADOR PUIG ANTICH 撮影:ダビ・オメデス 音楽:ルイス・リャック

第59回カンヌ国際映画祭ある視点部門正式出品作品
第11回トゥールーズ&ミディ=ピレネー・スペイン映画祭観客賞受賞
第21回ゴヤ賞11部門ノミネート
第53回オンダス賞映画部門受賞

1973年、スペイン。フランコ将軍独裁政権末期。残酷な処刑が行われていたようです。アラン・ドゥロン主演作品に登場したフランスの小型ギロチンが文化的に見える。

おぞましい刑具は全篇を象徴するアイコンとなって、オープニングで印象的に用いられ、DVDメニュー画面にもあしらわれております。

実話に基づいたセミドキュメンタリー。原題は主人公のフルネーム。伝記映画ということで、目線は徹底的に主人公寄りです。

たまには新しい作品にタイムトリップしてみようと思ったら、新左翼的なお話でした。主人公たちのやってるこた『俺たちに明日はない』なんですが、本当に大量の政治犯が収容されていた独裁政権下なので、撮り方が真顔です。

オープニングとエンディングが1970年代当時の政治闘争の数々の実写映像の編集になっており、どうやら「すべての自由の闘士に捧ぐ」ということのようで、政治にかけるスペイン人の情熱の真摯さが伝わります。

本篇映像のほうは、かなりスタイリッシュで、PC時代らしい色調補正でノスタルジーを出しつつ、接写をきかせた画をめまぐるしく編集してあり、面白いっていうとあれですけれども銃撃戦の描写が刺激的で、アクション映画的な面白みもあります。

さらに音楽の使い方がよく、プログレッシヴ時代の名曲がいくつか聴ける上に、クライマックスは息の長いクラシック調の楽曲で悲劇感を高めます。主人公には姉妹が多く、末の妹がたいへん効果的な役割を与えられております。

全篇を通じて光と影の使い方がすごくうまいんですが、ところどころに用いられた赤の色が印象に残ります。スペインというと、影を帯びた絵画や、マニエリスム期の陶酔的な宗教曲が想起されますけれども、その伝統はしっかりと息づいているようです。

ただし主人公たちはカタルーニャの人で、家族との会話にさえも地元言葉を禁止されている(スペイン語を強制される)のでした。

贅沢に計画された「ある視点」(=カメラ)は独裁政権下の警察と司法の非人道性を容赦なく映し出しつつ、受刑者と家族の交流を丁寧に描き、でもそれだけでは本当にドキュメンタリーになってしまいますので、フィクション的演出力は刑務官との友情描写に注がれました。

字幕がちょっと荒いようで、予告篇とは文言が違い、決定的な台詞を訳出しそこねているのが残念です。再版はないだろうとは思いますが一言しておきます。

なお、若者たちは思想思想と言ってますけれども、ほんと言うとマルクスはあんまり関係ないわけで、世界各地で地元の権力者と闘う際の旗印として、千年至福説の一種として、マルキシズムが担ぎ出されたのであったのでしょう。



Related Entries