1979年3月、中村登『日蓮』永田雅一プロダクション・松竹配給

  14, 2016 10:22
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黙りません。わたくしが言うのではない。お釈迦様がお言いやるのです。

製作:永田雅一 企画:宮本丈靖 原作:川口松太郎(講談社刊) 撮影:竹村博 美術:芳野尹孝・横山豊 音楽:芥川也寸志・東京交響楽団 録音:田中俊夫 照明:飯島博 編集:池田禅 脚本:中村登

日蓮聖人第七百遠忌記念。面白いです。びっくり。『王将』で「南無妙法蓮華経」の連呼が印象的だったので、錦之介の演技力に全幅の信頼を置いて。

中村錦之助あらため萬屋錦之介(1932年11月生まれ。1972年に改名)って人は、いわゆる滑舌があんまり良くなくて、声も甲高いんですけれども、その舌たらずな人がやむにやまれず渾身の力を振り絞って真実の声を放つというハイテンション演技が演出の方針と完全に一致して、日蓮の火の玉ぶりが画面中に炸裂しております。

修羅の道のまっただなかで仏像を彫っていた武蔵がそのまま頭丸めて二刀流を数珠と経典に持ち替えたというべきか。いやむしろ武蔵よりハイテンションかもしれません。

冒頭から「ダイジェストかっ」とツッコミたくなるほどのハイテンポでたたみかけ、後から幼少期を描くという倒置法。その後も現在と過去を鮮やかに編集してあり、だいぶ手のこんだ作りです。鎌倉時代には天変地異と八幡大菩薩の霊験あらたかな奇跡が多かったようで、怪獣映画ライクな特撮が、今となっては却って魅力です。

日蓮宗全面協力のもと、完全に日蓮寄り視点から描いた直球ドキュメンタリーで、そう言うと教育目的みたいですけれども、充分に娯楽性を意識しており、任侠映画顔負けのアクション場面も多いです。なお田中邦衛がたいへんカッコいいです。江原真二郎がいい感じに中年になりましたが、どうしてもこの人は損な役だなァ……っていう。松坂慶子は意外なほどしっとりした、いい女優さんでした。

日本の美しい四季を活かした野外ロケも多いので、撮影はたいへんだったろうと思われます。構図はあんまり変わったことしない代わりに、錦之介の表情に肉迫しております。

萬屋一門が弟子の役で脇を固めるとともに、染五郎時代の幸四郎が出ています。ノーブルな雰囲気。このころNHK大河に出ていたですね。松方弘樹が東映から参加。錦之介よりちょうど10歳年下で、北條時宗役。『昭和残侠伝』では組の若いものでしたが、よく成長して迫力のある演技で、二人の掛け合いは見どころの一つです。

釈迦の教えは一つのはずなのに、宗派がいくつにも分かれてしまっているのは何故だ?

と根本に戻って真面目に考えすぎちゃった人なわけで、まさに天下分け目の関ケ原が終わった後で「修行、修行」と唱えて世を騒がせた武蔵とキャラクターが完全に一致してしまう日蓮は、しかし憎めない奴ではあって、美しい人に恋もすれば修行仲間に男惚れもして、母恋しさに涙もすれば、弟子・信徒を思って血を吐くばかりの絶叫もする。ほんとにいい人なのです。演技としては美剣士・女性的という印象を完全に克服した上での円熟味を鑑賞できます。

はりつけ刑や闘技場に閉じ込めての大虐殺に較べりゃ日本の迫害はマイルドですが、生きとし生ける身には寒さとひもじさは応えるのでした。かなり残酷な場面もあって、念仏信徒な観客の皆様にはつらいかもしれません。当方は父方が念仏系で母方が日蓮宗です。ザッツ大世俗化ニッポン。

日蓮自身が「もとは武士」って人ではなく、本当に子どもの頃からお寺で学問していた人なので、アクション場面の緊張感は、観てるほうもヒーローものとは違って危機感充満してしまいます。

倒置法を駆使した珍しい話法でありながら、臨場感たっぷりなドキュメンタリーとして、稀有な一本だと思います。なお、子が己の信じた道を進む時は、母は不孝などとは思わぬものです。

南無妙法蓮華経。南無妙法蓮華経。南無妙法蓮華経。



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