Misha's Casket

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1972年7月、山下耕作『博奕打ち外伝』東映京都

今度ばっかりは、きっちり片ァつけな、しょうがないな。

企画:俊藤浩滋・橋本慶一 原案:島村喬 脚本:野上龍雄 撮影:古谷伸 照明:増田悦章 録音:中山茂二 美術:富田治郎 音楽:木下忠司 編集:堀池幸三 助監督:俵坂昭康 

渡世一代、侠道一筋。絶品にして必見。名にし負う仁侠映画の決定版。鶴田さん出演作はレンタル店における品揃えがいいほうじゃないんですが、これは観られて良かったです。ツタヤさんありがとう。

北九州、若松。明治後期。石炭と博奕と喧嘩の町。野上龍雄フルスロットルの任侠ホームドラマ。オールスター兄弟仁義は八方塞がり。

男同士の情念を撮らせたら日本一の山下監督が、鶴田さんvs.若山さんの博奕打ち構図に、高倉さんと辰巳さんと菅原さんと松方さんを連れて来ました。

まちがいなく白刃が飛び交う娯楽任侠映画ですが、小沢ふうの娯楽色・ファンサービス的要素を削ぎ落として息づまる緊張感を押し通すのが山下流。絵的には影の落とし方と構図の美意識が冴え渡りますが、話法的工夫はむしろ抑制的で、かなり複雑かつ情感深い物語をじっくりと正攻法で語ることに集中しております。

親子、兄弟、義兄弟、男同士と男と女。

小指が何本あっても足りない鶴田さんは、いい感じに老け始めて「親分」という呼び名が似合うようになっており、いっぽうで高倉も貫禄を増して、背景は時代劇と同じセットにガス燈が立ってる明治情緒。ロケに使われた建物も魅力的です。

基本的には賭場の縄張り争いで筋の通らぬことばかり、血みどろな莫迦と阿呆の絡み合い、もう男の意地や義理はいやっていういつものあれですが、それぞれの一家うちの事情が丁寧に描かれており、どちらが白とも黒とも簡単には言いきれず、しかも川船頭の威勢の良さと、いざという時のヤクザの怖さはまた違うということがよく分かる。

女性キャラクターの使い方も勘所を押さえており、野上好みの女侠客(いや船頭か)も出てくれば、色男属性同士がおなじ女を争うロマンス要素も「馬賊芸者」の気風の良さで粋な味わい。

わずか100分のプログラムピクチュアのはずですが、ものすごい噛み応えです。

松方弘樹が悪役を一人で背負いきり、凄みのある名演技です。終盤には胸を打つ名台詞・名場面が続きます。木下音楽はオルガンとギターの使い方がうまく、最高の劇付随音楽。

クライマックスは主人公たちの衣装にも所作にも心意気にも、日本の男の美学が結晶しております。日本の侠客は、ときには嘘もつくのです。

この翌年から映画界の流行は仁義なき実録調に移って行くようですから、まさに仁侠映画時代のフィナーレというに相応しいかと思います。鶴田で始めて鶴田で終わる。ごめんやす。

これは……買っちゃおうかな。




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