Misha's Casket

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1977年8月、市川崑『獄門島』東宝

闇がすべてを包んでいて、ぼくたちの位置からは和尚さんの提灯の灯だけしか見えなかった。

製作:市川崑・田中收 原作:横溝正史(角川文庫版) 脚本:久里子亭 撮影:長谷川清 美術:村木忍 録音:矢野口文雄 照明:佐藤幸次郎 音楽:田辺信一 監督助手:岡田文亮 編集:池田美千子・長田千鶴子 錦絵製作:竹内邦夫

エヴァみたいな(逆)オープニングに並ぶ名前は美女だらけ。たぶん監督は坂口良子が好き。草笛光子がちゃんとお芝居やっていてカッコいいです。雪月花がアホすぎて、本当はリアル幼女を使いたかったのかどうなのか。

お話の舞台は昭和二十一年、岡山県笠岡市。原作は雑誌『宝石』に昭和二十二年一月号から二十三年十月号まで連載。

道成寺、白拍子、萩の花。俳句だけでは成り立たない、芝居だけでも成り立たない。よくも日本らしい要素を綺麗に組み合わせたものだと思います。

戦争中は海外探偵小説を読むことはもちろん自分で書くこともできなかったのだそうで、原作者は本格探偵小説に飢えており、終戦すると疎開していた岡山県で取りつかれたように書き始めたのが『本陣殺人事件』、2作目がこれで、代表作になったんだそうです。書いた時点では、作中世界は生々しいリアルタイムだったことになります。

以後の作品はこの路線を求められることが多く、「土俗性に富んだ懐古趣味的なもの」が続いた由。DVD特典の資料より。西村寿行の小説や、石原慎太郎脚本の『処刑の島』なども同じ路線に乗ってるのだろうなと思われることですね。

映画としては、冒頭から金田一を登場させて、徹底的に彼目線から描いたシンプルさが気持ちいいです。ミステリーはフィクションの極みであり、娯楽の最高峰であるってなことをよくよく分かってる話法ですとは、もはや申し上げなくてもようございますか。終盤はカットバックを用いて「名探偵、みんなそろえて『さて』と言い」の型を破っているところがにくいです。

市川・石坂コンビによる金田一映画としては3本目。ミステリーの撮り方の挑戦の歴史でもあったかと思います。脚本の「久里子亭」とは日高真也と市川崑の共同ペンネームのようです。ドイルじゃなくてクリスティなんですね。

まずは佐分利信の存在感を観る映画ですが、大滝秀治の絶妙な台詞まわしを聴く映画でもあります。東野英治郎は、じつはこれがもっとも適役ではないかと思います。

女性映画の要素が強く、若干の性的場面があって、基本的には「戦前の女性は大変だった」というお話ではあります。

復員と父権が重要な要素で、逆にいえばそれの後始末をつけて新時代を迎えるという、社会の転換期の精神の表現でもあるかと思われます。

復員兵は『犬神家』でも重要な要素でしたが、ややメロドラマ調な甘さが出てしまいましたから、やはり3本目だけあってか、結末のつけ方の上手さではこちらが上かと思います。

連続事件ですから残酷っちゃ残酷ですけれども、あまり絵的に(犬神家や八つ墓むらほどは)グロテスクではないです。女性陣の衣装も美術陣もすばらしいので、楽しく拝見しましょう。コメディリリーフである坂口良子を活かしたラストも後味の良いものだと思います。

なお、最近の夜間の寺社は盗難・損壊予防などもあって、LED照明に白々と照らされております。ミステリも書きにくい世の中になりましたね。


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