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2012年5月、出渕裕『宇宙戦艦ヤマト2199』(DVD第1巻)

針路、そのまま。

企画:石川光久・河野聡・西崎彰司 原作:西崎義展 キャラクターデザイン:結城信輝 撮影監督:青木隆 美術監督:前田実 音楽:宮川彬良・宮川泰 脚本・シリーズ構成・絵コンテ:出渕裕 演出:榎本明広 キャラクター作画監督:高見明男 CGディレクター:今西隆志

竹宮恵子みたいな宇宙戦艦ヤマト(・∀・)

無駄に壮大なジョークに見えますな。こりゃあオリジナルファンが怒るさ……。

と、けなした後にはほめましょう。

2199年1月。ノートパソコンがある時代。美麗なCG背景、実写ライクなカメラワーク、入魂のメカ描画など、現代のスペースオペラアニメとして破格の出来栄えであり、劇場先行公開だったこともあって、テレビサイズをはるかに超えたプロフェッショナルの仕事というべきで、最初からこういうもんだと思えば見応えは充分以上です。

ガミラス語の字幕が出たには「通訳できる地球人がいるんだなァ」と変に感心しました。(※創作と現実を混同してはいけません。)

若い世代に「スペースオペラ」という分野そのものがどれほどアピールするのかとも思いますが、まだまだ『ガンダム』も『スターウォーズ』もあることだし。

復唱などの戦場リアル描写や、金属的な着弾音などは、視聴者のほうにミリタリー趣味が行き渡っていることに充分に配慮しているのでしょう。「ゆきかぜ」の回頭が超高速なので「中の人が感じるGがすごいだろうな……」と要らん心配をしましたが、宇宙空間なのでこれが正解なのでした。

なお、DVDの発売が2012年5月です。

壁面を埋め尽くすモニターに漢字が表示されるという近未来描写も、ひじょうに若い女性が大勢勤務している様子も、『復活篇』でやってたことですから、たとえ義展が陣頭指揮を執ったとしても基本的にこういう現代的な味つけになったことだろうと思われます。

メイン女性キャラクターの外見の若返りは、ご愛敬でいいだろうと思います。オリジナルでは雪の描画が乱れることがあったのが不満の1つだったので、その点は払拭されたという以上に満足です。南部くんは誰だか分かりませんでした。

戦後の日本人は、リアルに骨格からして顔かたちを変えてしまったので、ちょっと世界的にも珍しい現象じゃないかと思います。ミィくんは相変わらず可愛いです。

アホ毛は見るからに写実性を損なっておりますが、これは源流をたどると手塚治虫『メルモちゃん』かなァ……と思います。女性の頭髪がくるくるカールして、部分的に逆立っているという表現は、マコちゃん・メグちゃんなどの魔女っ子ものにも見られたので、かなり古いです。

もう少し近いところでは「マミ」というキャラクターを記憶しています。確か、パーカー姿の女子小学生が魔法でアイドル歌手に変身すると、髪の毛全体が薄紫色に染まって、ふんわりと持ち上がるのです。宮崎駿などの学童向けアニメに登場する少女が「お堅い」感じであることに較べて、斬新で、ファッショナブルに見えたものでした。

それらを他のアニメーター・漫画家・漫画同人が自分の女性キャラクター表現に取り入れたので「若くて可愛い女性キャラクター=髪の毛が逆立っている」という定番になったのでしょう。

なお、最近の動画ファンには「パーカー」という要素にすごくこだわる人がいたそうですが、そういうわけで少女キャラクターがフード付きの洋服を着ているという表現も数十年前から存在するものです。

フード付きのジャージ素材の洋服というのは、申すまでもなく登山・ボクシングなどのスポーツをする人のものなので、女性が男性的な服装をする一環として、1980年代から流行り始めたんじゃなかったかと思います。1970年代には「プレッピー」などと称して、トレーナーを着ていたはずです。詳しくはファッション専門サイトにて。

それはともかく……。

描画がコンピュータに頼るようになって以来、人物の描線が細くて綺麗なのはいいけれども個性がなく、人体の構造理解も今いち不安というのも……もういいです。画力じゃなくて打ち込み作業の問題なんだと思うことにしておきます。

人間性描写については「沖田さんは作戦行動中に自分が興奮して怒鳴る人ではなかったよ」というのはあって、むしろ若者たちが浮足立っている時にビシッと叱ってくれる人だったから「怖い親父」という印象だったのです。

古代については、これが正解という感じがいたします。むしろオリジナルのほうが、兄貴をなくしたばかりで心が沈みがちなはずであり、戦争・軍隊そのものに懐疑を感じているはずでありながら、言動が軽佻浮薄にすぎるという違和感があったのでした。

これは思うに、当時の人が考えた「いまどきの若者」らしさ・アニメの主人公らしさというステレオタイプを踏襲したもので、それと「兄をなくしたばかり」という設定の整合性を考えなかったのです。端的には義展が物語作りに慣れていなかったことによるのでしょう。

彼は創作畑の出身ではなく、歌謡ショーの興行を打っていた人で、演出力はあるのです。「仕掛ける」ということができる。けれども「歌は3分間のドラマ」ですから、その場ではまとまりがいいけれども、おなじ歌手が違う歌曲を唄ったときに「こないだと話がちがう」といって怒る人はいないわけです。

おなじ歌手が夫婦円満の歌を唄ったり、浮気の歌を唄ったり、別れた女にまた会ったという歌を唄ったりしてもいいわけですね。「どうなってんだ、この男は!?」なんていう人はいない。

「森雪の本来の持ち場はどこだ?」という疑問も、オリジナルを観た人がいずれも感じるだろうことで、これも当時のスタッフ(端的には義展)が整合性ってことをあまり考えなかった結果でしょう。

序盤では艦内に雪のほかにも大勢の女性乗組員がいることが示されていたのに、役割分担が描かれず、しだいに画面に登場する女性が雪だけになって、あるときは看護担当、あるときは食糧担当、またあるときは子どもの宿題をみてやるかのように針路を告げるという、まるで母親のような八面六臂ぶりを発揮することになったのでした。

古代へ話を戻すと、今回は「兄をめぐる沖田との会話が戦闘班長拝命に至る」という心理の流れが、たいへんきれいだったと思います。

義展は現実の人間関係の出入りも激しかった人で、ビジネスパートナーの男性とも、私的なパートナーたる女性とも、くっついたり別れたりしている。そういう人間性が創作にもそのまま反映されていたと見てもいいのかもしれません。

逆にいえば、出渕という人は、ごくまじめな創作家なのです。物語内部・キャラクター内部の論理性、軍事リアリズム、さらには同人系の流行要素まで取り入れ、八方気配りした上で、最大限の努力を傾注した。よくやったと言えると思います。

確かに、軍事リアリズムについても「エヴァのなんとか」とか「攻殻のなんとか」とか、言えないことはありません。が、それらを手がけた人々も、人生の早い段階でオリジナルヤマトを観て愕然としたはずです。オリジナルの本放送の裏にはアルプスの少女がいて、視聴率的には惨敗したそうですけれども、逆にハイジのスタッフは、ヤマトを観てギクリとしたに違いないのです。

誰が手がけても、こういう「軍事リアリズムと幻想的スペースオペラの融合の表現を現代的に(CGを用いて)ブラッシュアップした」という表現になったでしょう。その上で、基本的に真面目に取り組んだものであることは、この第1巻で既に示されたと思います。

ただし、島が……。

一見して「古代と対照的にしたんだな」というのは、頭では分かるんですけれども。いやだから、それ自体は成功してるんですけれども。

この、男性キャラクターの顔が少女のようである・20代の青年士官のはずなのに12歳の男児のような体型で描かれている・口調が軽薄である・さらに女性キャラクターの頭髪・乳房の強調という要素は、オールドアニメファンにおける「一部の漫画同人によって男性向けアニメ全体が無用の美化ともいえるパロディ化されちまった件」に関する深い怨嗟の念と不快感を逆撫でするわけでございまして、これに向かって同人系(とくに女性)が「あら、私は可愛い島くんも好きよ」と言ってやっても、火に油を注ぐだけなのでございます。「喧嘩売ってんのか、ゴルァ!」ってなるのは当然なのです。

ただし、こういう時の女性の処世術は「こわ~~い♪」なので、こういうイタチごっこについては、一般アニメファンの皆様は、関わらなくていいです。

これは考えようによっては「だからこそオリジナルを見直してみよう」という契機にもなるわけで、あとは「消費トレンドをリードする仕掛け」という問題なのかもしれません。

上述した沖田と古代(弟)の会話、さらに抜錨直前の沖田さん・土方さんの友情描写、全世界的エネルギー供給エピソードなどは、オリジナルの空隙を埋める二次創作のセンスが良いほうに発揮されたというべきで、女性キャラクターの人間性描写もあまり遊びすぎた様子もなく、やっぱり作画のみならず物語作りもよく出来ていると言えると思われます。

続刊は……検討中。


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Misha

Author:Misha
スマホ時代にさからう評論系長文ブログ。冷静に通読できる大人の読者様を想定しています。

「若い人」に直接呼びかける文章は、18歳以上のヤングアダルト対象です。高校生は受験を最優先してください。

書く人は、新旧とりまぜて映画とアニメを見ながら文芸書に取りくんでみたり、昔の漫画を思い出したり、お国の先行きを心配したりしております。

記事中の色つき文字は、映画中の台詞・挿入歌からの引用です。あらすじは、あまり申しませんので、楽しみに御覧ください。取り上げる作品は、暴力・エロスなど特殊な要素を含んでいることもあります。

ときおり、耽美・BL・同人・LGBTに言及します。いずれの分野からも、偏見と差別と自虐がなくなるといいと思っております。

「二次創作の責任を二十四年組に押しつけるな」「実在同性愛者に甘えるな」が基調です。

全体として、二十四年組ファンが社会学者に物申すという珍しい構図。一部同人を叱責することによって全体を守るという意図もあり、ときにかなり辛口です。

記事は時々予告なく手直し・削除・分割しております。保存は個人的閲覧の範囲で、お早めに御随意に。転載・改変利用は固くお断り申し上げます。

解題


Casketとは、玉手箱。

でも検索すると棺桶がならびます。来世まで持っていきたい好きな作品の記録帳とご理解ください。