Misha's Casket

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1958年10月、薮下泰司『白蛇伝』東映動画

あなたは、おとなにならないでね。

製作:大川博 原案:上原信 脚本・演出:薮下泰司 構成美術:岡部一彦・橋本潔 音楽:木下忠司・池田正義・鏑木創 台詞構成:矢代静一 原画:大工原章・森康二 背景:草野和郎・前場孝一 動画:大塚康生・楠部大吉郎 撮影:塚原孝吉・石川光明 編集:宮本信太郎 風俗考証:杉村勇造

昭和三十三年度芸術祭参加作品。文部省選定、少年向、家庭向。大東映が世界に放つ日本最初の総天然色長篇漫画映画。

それがどうしてこうなった!? と訊きたい気もしますが、実写映画の初期にはアラビアンナイトが流行し、ディズニーもアメリカ建国の歴史ではなく西欧中世を題材にしたので、創作意欲を掻き立てるには、エキゾチシズムというのが重要な要素なのかもしれません。

もしもルーブルで上映なさる時は「日本製」と大きく明記して貼り出しておかれませ。

予告篇では東映社長・大川博が挨拶に立ち、前年の一月に東京撮影所の一画に東映動画スタジオを設立して本作の制作に着手した旨を説明してくれます。(※詳しくはみんなのウィキペさんに丸投げ。) 木製の机を並べて、白手袋でトレース・彩色作業をしていた現場の様子が見られます。

まだ女学校を出たばかりのような若い女性スタッフが大勢いたもようです。彩色には洗練されたパステルトーンが使用されています。撮影は大掛かりなマルチプレーンカメラ。輸入ものでしょうね。意欲のほどが偲ばれます。

で、本篇。均整の取れたキャラクター描画、その動き、幻想的な演出など、まことに見事なもので、ディズニーに「そこのけ」と言ってやってもいいだろうと思われます。全篇に詩情と気力が満ち溢れております。CGではありません。すべて手描きの時代です。話法としても戦前以来の日本映画界の実写の蓄積が存分に活かされております。

物語の骨格は、ふと「鈴木春信に見せたら喜んだかな」と思うような、日本映画史上最高の美男美女の純愛ロマンス。ヒロインの顔立ちは、ちゃんと1950年代の流行を反映しております。中原淳一のイラストがいちばん近いかもしれません。

冒頭4分間ほど藤城清治ふうの切り絵の静止画が続くので「アニメ!?」とビックリしますが、しばらくお待ちください。ずっと昔の遠いあの頃をものがたるお伽話ふうの演出が終わると、スペクタクルな動画が始まります。

声優のアフレコだけがぎこちない感じで、無声映画に弁士が解説をつけていた時代をひきずっているように思われます。とくに動物キャラクターの動きが『トムとジェリー』ふうのパントマイムなところへ、ややタイミングのずれた感じで説明的に台詞を乗せているわけで、いまの人の耳には違和感があるだろうと思います。

原案は中国の有名な民話だそうですが、途中から水の魔力の表現が重要になるのが日本流。硬骨魚類的眷属を引き連れて大活躍するのは女児キャラクター。既視感いっぱいです。(※順序が逆。)

おそらくディズニーのプリンセスものを意識しているので、オープニングでは「少年向」と表示されますが、あまり男の子がわいわい応援しながら観るような作品ではなく、動物キャラクターは愛されたことと思いますが、結果的に子どもを連れて見に来た母親向けだったかもしれません。日中友好パンダの到着は、十年以上の後ですね。

ここへ手塚治虫が加わると、男児を主人公にした男児向けアニメの時代が始まると言ってもよいのかもしれません。



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