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1960年8月、薮下泰司『西遊記』東映動画

わたしの掌の上から、飛び出してごらん。

企画:高橋秀行・渾太防五郎 構成:手塚治虫 脚本:植草圭之助 演出:薮下泰司・手塚治虫・白川大作 音楽:服部良一 動画監修:山本早苗 原画:森康二・熊川正雄・大塚康生・大工原章・吉沢日出夫 美術:矢野雅章・沼井肇 考証:邱永漢 作詞:西沢爽 歌:山東昭子・佐藤しげみ・ダークダックス

大東映が自信をもって放つ!! 長篇動画第三作。スタッフ200人。構想三年、作画三十余万。暴れん坊孫悟空が巻き起こす奇想天外なミュージカルドラマ。(特報より)

シンプルかつ無理のない物語に表現上の工夫と技術を最大限に盛り込んだ、東映動画の熟練ぶりを堪能できる快作。例によって大川社長が登場する予告篇では、実写と動画の見事なコラボラレーションを拝見できます。1960年です。意欲に満ち溢れております。海外に負けておりません。(トムとジェリーも女優と共演してましたね。)

文部省選定。無限に広がる大宇宙。神さまはローマふう。望遠鏡は最新式(当時)。007の銃口オープニングのパロディってことはありませんから、もっと古いカメラを意識したものでしょうか。あえてアニメに投入するのは斬新なアイディアだと思います。

徹底的に悟空自身を主人公に、あくまで「動き」で見せる漫画映画としての真っ当な話法であって、まだ声優が(どこかの妖怪執事のような)叫ぶ芸風を確立しておらず、アニメそのものの歴史の初期ですから楽屋落ち的要素もあり得ませんので、笑いの壷が違うのは致し方ないです。現代の作品だと『ドラえもん』の雰囲気が近いかもしれません。

画面の「くちぱく」と声優の芸を一致させる技術は向上したようです。おサルが人語で人間と会話できる時点で修行ができていると思います。(※言わない約束。)

手塚がストーリーボードに参加しているそうで、オリジナルキャラクターの造形と終盤・牛魔王の館の描写が手塚節でしょうか。ディズニーを愛しぬきつつも、やや鬱屈している様子が見られるかと思います。

原画陣の錚々たる顔ぶれに驚きつつ、本篇開始すると、いきなり男女関係の基本を見せられますが、キャラクターの動き・カメラワーク・カットバック編集を応用した場面転換など、すごいの上をいって凄まじいとも言うべきもので、新しいものを知っている人ほど驚かれることでしょう。

背景に実写との合成による特撮的な表現が見られます。映像技術としても、1960年代初期のサンプルとして好適ではないかと思われます。当時のアート界の動きも充分に意識していたように思われます。

手塚のみならず、演出陣は舞台劇にも造詣が深かったことと思いますが、魔法や天国の表現は舞台上ではむずかしいところですから、本当に「アニメ」でしか出来ないことを全部やったんだなと思います。

こののち、手塚がリミテッド方式のテレビアニメではなく、映画を丁寧に作ることを続けていられたら、その後の日本の「サブカル」全体の発展の方向も違っていたのかもしれません。

ダークダックスは、アヒルじゃなくておサルになってます。ディズニー以上にミュージカル、レビューといった要素を重視しているようです。1950年代時代劇におけるミュージカル調の流行も連想されるところです。

花を飾った愛らしい女児(というか雌猿)キャラクターは、時間の経過を表し、次の展開を導く重宝な助演者であり、悟空と観客の良心の象徴でもあって、女児観客へのサービスという意図もあったんじゃないかと思われますが、語りのテンポをのんびり気味にしてしまってはいるようです。

まだ麦わら海賊団のように(または『どうぶつ宝島』のように)女性が一緒に冒険の旅に出る発想がなかったのです。観音様は、すっかり女性です。三蔵は白馬の王子様。

なお、予告篇の編集がいいです。




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Misha

Author:Misha
スマホ時代にさからう評論系長文ブログ。冷静に通読できる大人の読者様を想定しています。

「若い人」に直接呼びかける文章は、18歳以上のヤングアダルト対象です。高校生は受験を最優先してください。

書く人は、新旧とりまぜて映画とアニメを見ながら文芸書に取りくんでみたり、昔の漫画を思い出したり、お国の先行きを心配したりしております。

記事中の色つき文字は、映画中の台詞・挿入歌からの引用です。あらすじは、あまり申しませんので、楽しみに御覧ください。取り上げる作品は、暴力・エロスなど特殊な要素を含んでいることもあります。

ときおり、耽美・BL・同人・LGBTに言及します。いずれの分野からも、偏見と差別と自虐がなくなるといいと思っております。

「二次創作の責任を二十四年組に押しつけるな」「実在同性愛者に甘えるな」が基調です。

全体として、二十四年組ファンが社会学者に物申すという珍しい構図。一部勘違い同人を叱責することによって全体を守るという意図もあり、ときにかなり辛口です。

記事は時々予告なく手直し・削除・分割しております。保存は個人的閲覧の範囲で、お早めに御随意に。転載・改変利用は固くお断り申し上げます。

解題


Casketとは、玉手箱。

でも検索すると棺桶がならびます。来世まで持っていきたい好きな作品の記録帳とご理解ください。