2016/11/21

1961年7月、薮下泰司『安寿と厨子王丸』東映動画

安寿恋しや、ほうやれほ。

製作:大川博 企画・構成:高橋勇 脚本:田中澄江(よみうり少年少女新聞連載)演出:薮下泰司・芹川有吾 動画監修:山本早苗 音楽:木下忠司 原画:大工原章・森康二・大塚康生・吉沢日出夫・熊川正雄・楠部大吉郎 美術:鳥居塚誠一 色彩設計:小山礼司 背景:蒲田又治 考証:蕗谷虹児 歌:松島トモ子・能沢佳子

東映創立十周年記念。制作期間2年あまり。「グランプリ東映動画が放つ動画芸術の金字塔。けんらん豪華、平安の絵巻物。全スタッフ意欲と良心の結晶」(東映らしさが横溢する予告篇より)

御簾が巻き上がるオープニングから始まって、母恋い、怪物退治、悪漢成敗、魂になって約束を果たすといった様式美が遺憾なく盛り込まれた物語が、絵巻物や浮世絵がそのまま動いているというべき伝統美術への尊敬あふれる背景に支えられ、当時の最新技術の上を行くと思われる丁寧かつ意欲的な撮影技法と、実写以上というべき話法の洗練によって遺憾なく表現されております。姉弟を乗せた小舟が「カメラ」から遠ざかる構図が尋常でなく見事です。

終盤では矢が飛んでくる場面が、実写なら「どうやって撮った?」と悩まれるところですから、アニメならではの表現というべきで、斬新な構図だと思います。

木下音楽は自己主張しすぎず、的確に物語に寄り添って、じつに良いです。

ディズニープリンセスものを踏襲した要素もあり、動物たちがコメディリリーフとして大活躍する様子も愛らしく、予告篇では大川社長が登場し、当時らしい美しい言葉使いで、世界市場または受賞を意識しているらしき挨拶を述べておりますが、1960年代おそるべし。いや、制作期間2年あまりだから、やっぱり1950年代の負けじ魂がすごかったのかもしれません。

ディズニープリンセスは悪役が女性ですが、こちらは「森鴎外先生」の『山椒大夫』を基盤にしていることでもあり、美しい少年少女を売りもの買いもの労働力にする、好色または残忍な男たちの姿が忌憚なく描かれております。これが日本の活動屋の良心。

ここで「日本人は児童虐待が好きだ」とか勘違いしてはいけません。悪役の顔かたちが誇張的に描かれている通り、これは諷刺であり批判なのです。

海には魔力があるという発想も、海外作品ではあまり見られない要素かもしれません。潮汲みのリアリティが切ないです。

比較的長尺で、台詞があまり説明的ではなく、おとなには余韻・情緒として感じられますが、子どもには理解しにくいかもしれません。おとなになってから、昔の日本がいかにすごかったか確認したくなった時に観てみましょう。

地方豪族に対して、中央政府(「帝」)が一方的な威圧感を与える様子も見られ、昭和を通じてテレビ時代劇として流行した「世直し」ものが連想されたりもすることです。日本の社会・日本人「らしさ」を考える時のサンプルの一つ……かもしれません。

ディズニーの『白雪姫』(日本公開は1950年9月)を見た人は「俺たちも芸術的なアニメーションを作ろう!」と思うに決まってるわけでございまして、その後の日本アニメ界がこのグレードを維持できなかったのなら……事情は複雑ですが、ここから宮崎駿の受賞を含む現在の活況に至るまで、「あきらめなかった」という日本人魂を顕彰すべきなのかもしれません。



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