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1963年4月、今井正『武士道残酷物語』東映京都

さむらいは、主君あってのさむらいなれば、おのれは常になきものと知れ。

製作:大川博 原作:南條範夫『被虐の系譜』(講談社刊) 脚本:鈴木尚之・依田義賢 撮影:坪井誠 照明:和多田弘 録音:渡部芳丈 美術:川島泰三 音楽:黛敏郎 助監督:山下耕作

「原作のタイトルも魅力的だな」と思ったり、助監督の名前で「よっしゃあ」と思うことも珍しいなと思ったりしつつ。

あるときは槍の老人、あるときは振袖若衆、あるときは中年剣士、またあるときは青雲の志いだく明治の書生、しかしてその実態は。

現代の武士、ジャパニーズ・サラリーマン! 二十四時間、じぶんと闘えますか。

「映画史上初の七役に挑む」(予告篇より)錦之助の変幻自在の演技力を観る映画。最初と最後を現代(1963年当時)ではさんだ額縁構造。ラストショットからいっても皮肉の意図は明らかで、おとなのためのおとぎ話。切腹の際は腕の立つ介錯人を確保しましょう。殉死は計画的に。あと弔いて賜びたまえ。

わりに新しい作品ですが、モノクロです。全篇を通じて、前衛な黛音楽がたいへん魅力的です。大小の鼓による即興的(に聞こえる)伝統芸能の伴奏を洋楽器で再現しているような気も致します。

関ヶ原の直後から現代に至る七代に渡る武士道残酷あるある物語なわけでございまして、仕事人が出てこない仕事人シリーズみたいなものともいえるかもしれません。つまり、東京五輪開催直前の好景気社会に叩きつける「異常鮮烈な残酷タッチで三百五十年の歴史に斬り込む衝撃の問題作」(同上)

東映の予告篇は煽りすぎて本篇とちがう話になっちゃってることが多いのですが、これは文字通りです。前月には仁侠映画も始まっており、もはや時代劇映画が峠を過ぎて、従来通りの勧善懲悪痛快娯楽冒険活劇をやっても「無理」となったところでこれを企画しちゃう東映のド根性が立派です。

ダーク昔話なんですが、あまり後味が悪くないのは、錦之助の演技があまりにも見事だからで、感服つかまつっている内に約2時間があっという間なのです。

ただし、もうチャンバラやってもウケない前提で開き直った企画ですから、アクション映画ではないわけで、むしろ変則的なロマンス映画のつもりで観たほうが肩すかし感は少ないでしょう。

今井の撮り方は王道路線のようで、坪井はときどき面白い構図を試しておりますが、まず落ち着いて観られるとともに、編集の切り口が冴えております。

24分くらいになると、元禄時代の前髪立ちの若侍たちの舞踊や筝を演奏する姿が魅力的です。『羅生門』から13年、いい感じに老けた森雅之演じるお殿様は両道に精通しておられるようです。忠義の道もいろいろで、奥づき小姓に取り立てられるのも良し悪しです。

確か錦之助はこの前に顔を泥で汚して新免たけぞーを演じていたはずですが、こちらで「美童」と呼ばれて違和感ないので立派なものです。

天明年間になると、江原真二郎のバカ殿っぷりがまたよく似合っております。この人もねェ……。明治になると、木村功の散切り頭がやたらと似合っております。昭和になると、なにげに見送っちゃいましたが、実機が飛んでおります。もちろん、いずれの要素も、それだけの興味で観る映画ではございません。

時代を変えて七役ですから、セットも七回変わるわけで、ものすごく贅沢な作りです。が、ものすごく奇抜な新しいセットを用意したってわけでもなく、従来の時代劇セットと野外ロケですから、アイディアの勝利といえるでしょう。それがひとえに錦之助の演技力によって成り立っているわけで、東映と錦之助の蜜月の果実ですが、このあと引き続き宮本武蔵を撮っちゃうのもまた東映ではあります。

そして、よく考えると鶴田の仁侠映画もだいたい同じ話なのでした。日本人ってやつァ。


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Misha

Author:Misha
スマホ時代にさからう評論系長文ブログ。冷静に通読できる大人の読者様を想定しています。

「若い人」に直接呼びかける文章は、18歳以上のヤングアダルト対象です。高校生は受験を最優先してください。

書く人は、新旧とりまぜて映画とアニメを見ながら文芸書に取りくんでみたり、昔の漫画を思い出したり、お国の先行きを心配したりしております。

記事中の色つき文字は、映画中の台詞・挿入歌からの引用です。あらすじは、あまり申しませんので、楽しみに御覧ください。取り上げる作品は、暴力・エロスなど特殊な要素を含んでいることもあります。

ときおり、耽美・BL・同人・LGBTに言及します。いずれの分野からも、偏見と差別と自虐がなくなるといいと思っております。

「二次創作の責任を二十四年組に押しつけるな」「実在同性愛者に甘えるな」が基調です。

全体として、二十四年組ファンが社会学者に物申すという珍しい構図。一部同人を叱責することによって全体を守るという意図もあり、ときにかなり辛口です。

記事は時々予告なく手直し・削除・分割しております。保存は個人的閲覧の範囲で、お早めに御随意に。転載・改変利用は固くお断り申し上げます。

解題


Casketとは、玉手箱。

でも検索すると棺桶がならびます。来世まで持っていきたい好きな作品の記録帳とご理解ください。