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1970年2月、降旗康男『任侠興亡史 組長と代貸』東映

堅気になんぞ、なりたくもねェ。

企画:俊藤浩滋・太田浩児 脚本:笠原和夫・長田紀生 撮影:星島一郎・清水政郎 録音:井上賢三 照明:梅谷茂・大野忠三郎 美術:中村修一郎 音楽:菊池俊輔 編集:田中修 助監督:伊藤俊也

仁義なき実録路線が始まる直前の味わい深い現代劇。一匹狼だった者たちの最後の大勝負。ブラスの重奏によるタイトル曲をはじめ、降旗作品の中でもズバ抜けて音楽が良いように思われます。

およそ愚連隊で鳴らしたって顔じゃないのに「堅気におさまりきれない」という役が、なんで説得力あるかなァこの人は……と鶴田の存在感に感心しつつ、弟分は佐藤允と待田京介。なんという安心して観られる顔合わせでしょう。

予告篇によると「娯楽巨篇」ですが、降旗さんと笠原さんが組んで暗黒街路線をやると、これだけ社会派リアルタッチになりますという一本。鶴田が組長で、大木が別の組の代貸なので、タイトルは間違いではないんですが、もうちょっとどうにかならなかったものかとも思われます。

オープニングは小松方正のナレーションをきかせて、ハードに。本篇開始すると、ビルと団地が乱立して風景を変えつつある1970年代の都会の片隅に生きる洋装ヤクザたちの日常を丁寧に追う、降旗らしいドキュメンタリータッチ。もはや斬った張ったのご時勢ではなく、どこも「台所」は苦しいようで、山本麟一が出世してるのも時代の流れを感じさせます。

嘘はつかない日本の任侠道の行き着いた先。もう、男の意地や義理はいや。でも「私も行く」という女もいるところが'70年代流。

紅一点の工藤明子は新人だそうですが、頬骨の高い現代的な顔立ちで、鶴田浩二46歳の最後の賭け(という役)に粋なロマンスの華を添えております。ローウェスト&ミニスカートな'70年代ファッションが魅力的。男のほうは、つい5年前までボルサリーノで決めていたはずですが、もう帽子を着用しなくなったみたいです。

じゃっかん中だるみ感のあるお色気場面もいくつかあって、どうもこの頃になるとピンク映画が取り締まられた一方で、一般映画がファンサービスに励んでいたような気が致しますね。

男の色気のほうでは、沢村忠が半端ない背中の筋肉と、本職らしいアクションと、なかなか上手なお芝居を見せております。待田京介はこういう引き立て役がうまいな、と改めて思われることです。

ハリウッドほど贅沢でない代わりに細やかな編集技で見せるのが日本映画。車載カメラを効果的に使用したカーチェイス場面が出色で、降旗監督もアイディアマンだったと思います。

現代劇は、任侠劇と違って「悪役親分の家へ殴りこみ」という定型がないので、いつも「結末はどうつけるんだろう」と奇妙な心配をしながら観るのですが、これは……鶴田浩二ここにあり、というグランドフィナーレの味わい。これを撮っちゃった後でまだまだ『侠客伝』とか『残侠伝』とかプログラムしちゃう東映はいい度胸。

さて、黒いダルマ(※サントリーのウィスキー)買ってきましょう。


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Misha

Author:Misha
スマホ時代にさからう評論系長文ブログ。冷静に通読できる大人の読者様を想定しています。

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書く人は、新旧とりまぜて映画とアニメを見ながら文芸書に取りくんでみたり、昔の漫画を思い出したり、お国の先行きを心配したりしております。

映画評は、アップロードする以上は「下げる」ようなことは言わないことにしております。あらすじもあまり申し上げませんので、楽しみに御覧になってください。記事冒頭の色つき文字は映画中の台詞・挿入歌の歌詞からの引用です。

なお、取り上げる作品は、暴力・エロスなど特殊な要素を含んでいることもあります。

ときおり、耽美・BL・同人・LGBTに言及します。いずれの分野からも、偏見と差別と自虐がなくなるといいと思っております。

「二次創作の責任を二十四年組に押しつけるな」「実在同性愛者に甘えるな」が基調です。

全体として、二十四年組ファンが社会学者に物申すという珍しい構図。一部勘違い同人を叱責することによって全体を守るという意図もあり、ときにかなり辛口です。

記事は時々予告なく手直し・分割・削除しております。保存は個人的閲覧の範囲で、お早めに御随意に。転載・改変利用は固くお断り申し上げます。

解題


Casketとは、玉手箱。

でも検索すると棺桶がならびます。来世まで持っていきたい好きな作品の記録帳とご理解ください。