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1959年11月、市川崑『野火』大映

俺が食ったんじゃないぞ。

製作:永田雅一 原作:大岡昇平 脚本:和田夏十 撮影:小林節雄 録音:西井憲一 美術:柴田篤二 照明:米山勇 特殊撮影:的場徹 音楽:芥川也寸志 助監督:弓削太郎

昭和三十四年度芸術祭参加作品。グダグダ南方戦線の変てこりん決死行。徹底的諷刺目線による極限的戦場私小説。開始後しばらくたっても話が見えないっていうか、話などない。音楽だけが無駄に壮大に。

塩は、ときに感涙を生ぜしめる御馳走となります。これは経験した人じゃないと分からないですね……。

『地獄の黙示録』(1979年)に先んじること20年、『戦場にかける橋』(1957年)よりは、ちょっと後。敗戦国リアリズムは半端なくありました。非人間的とはよく言いますが、人間じゃなきゃわざわざこんなことしないのです。

眼を覆うばかりと言うべきなんでしょうが、あくまで実録ではなく映画ですから、作りこみの徹底ぶりに「むしろ爽やかな感動を呼ぶ」とさえ言えるかもしれません。(皮肉でも言わないことにはやりきれない)

時々たいへん効果的な編集技が見られますが、まだ金田一シリーズほど変わったことをしておらず、むしろ「ワンシーンワンカット」的なじっくり感が観られます。それがかえって、題材が題材なだけに、ドライな諷刺目線に感じられるのでした。

もし、これで音楽が無駄に壮大でなかったら、もう本当に淡々とリアルすぎて観ていられないのかもしれません。また、主演の二人がやや日本人離れのした顔立ちであることによって、フィクション性を高めてあることが、映画として成り立たせるうえで重要なんじゃないかと思います。

なお、市川監督は当初「発声漫画部」にいたんだそうで、アニメーションの作り方を学んだらしいです。なるほど。

そして思うに、これを撮れるようになるには、心身ともに回復して、もはや戦後ではないと言える余裕を生じる必要があったのでした。


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Misha

Author:Misha
スマホ時代にさからう評論系長文ブログ。冷静に通読できる大人の読者様を想定しています。

「若い人」に直接呼びかける文章は、18歳以上のヤングアダルト対象です。高校生は受験・就活を最優先してください。

書く人は、新旧とりまぜて映画とアニメを見ながら文芸書に取りくんでみたり、昔の漫画を思い出したり、お国の先行きを心配したりしております。

映画評は、アップロードする以上は「下げる」ようなことは言わないことにしております。あらすじもあまり申し上げませんので、楽しみに御覧になってください。記事冒頭の色つき文字は映画中の台詞・挿入歌の歌詞からの引用です。

なお、取り上げる作品は、暴力・エロスなど特殊な要素を含んでいることもあります。

ときおり、耽美・BL・同人・LGBTに言及します。いずれの分野からも、偏見と差別と自虐がなくなるといいと思っております。

「二次創作の責任を二十四年組に押しつけるな」「実在同性愛者に甘えるな」が基調です。

全体として、二十四年組ファンが社会学者に物申すという珍しい構図。一部勘違い同人を叱責することによって全体を守るという意図もあり、ときにかなり辛口です。

記事は時々予告なく手直し・分割・削除しております。保存は個人的閲覧の範囲で、お早めに御随意に。転載・改変利用は固くお断り申し上げます。

解題


Casketとは、玉手箱。

でも検索すると棺桶がならびます。来世まで持っていきたい好きな作品の記録帳とご理解ください。