1994年10月、市川崑『四十七人の刺客』東宝

  14, 2016 10:24
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町人ならば、ののしり合うて済むことが、さむらいはそうは参りませぬ。

原作:池宮彰一郎(新潮社刊)脚本:池上金男・竹山洋・市川崑 撮影:五十嵐幸勇 美術:村木与四郎 録音:斉藤禎一 照明:下村一夫 音楽:谷川賢作

映画誕生100年記念。西暦1702年。お家断絶の日より、一年九ヶ月。意地と義理の原点。日本史上最も有名な殴り込みの責任者役に相応しいのは、この男しかいない。『動乱』を思い起こしつつ。

色気とは禁欲の内側からこぼれ出るものとか言ったのは三島由紀夫なんですが、すこぶる「男性的」と申しましょうか、高倉の東映時代の蓄積を存分に活かした内蔵助像。おとなのマニアを唸らせる、ハードボイルド忠臣蔵。どちら様も討つ気満々。

歌舞伎を「原作」と考えれば、それを逆転させたわけで、これだけ見て「日本人として『忠臣蔵』をよく知っている」ことにはならないところがミソ。タイトル通り、どっちが悪役か分からない恐怖感の演出に成功しております。

任侠映画全盛時代から、制作陣には「白刃の出入り」を美化して描くことへの懐疑があり、さらには時代劇における武士道の美化への懐疑もあったわけでしたが、これはその居心地の悪さが行き着いた先でひっくりかえってシビアな娯楽劇として開き直ったと申すべきか、息をもつかせぬ緊張感に満ちておりながらも、監督自身はアイディアにあふれ、肩の力が抜けて、映画作りを楽しんでいるというようにお見受けいたします。つまり、たいへん面白いです。

ロケハンがいい仕事したドキュメンタリー調でもあって、まずは「ああ、機材が変わったなァ」と、しみじみしながら明るい画面と細やかな編集技を楽しみましょう。

脚本がやや説明的で硬いんですが、映画ですから見た目が大事。男優陣のトレンドが変わって、細面の美男ぞろいの時代に入ったようです。石坂出羽守兵ちゃんが(金田一とはふた味ちがう)重厚な時代劇らしいお芝居を見せております。

予告篇では「謀略」とまで言いつつも、赤穂方が「実役」で、化粧濃いめの吉良方が悪役系なのはお約束。吉良邸を再現したセットが見事なもので、模型ではない証拠に、初登場シーンから人を歩かせております。なお、予告篇の編集も良いです。

女性陣は襟元をくつろげた元禄時代の着付けが魅力的です。お炊事にがてな宮沢りえちゃん可愛いです。大石主税くん役が本当に声変わりも完了していない若い子で、こういうの重要です。とうの立った男性アイドルを無理に前髪立ちにすると興ざめしちゃいますからね。

対立の構図にお芝居通りではない現代的解釈を取り入れつつも、勧善懲悪痛快時代劇映画の基本は外していない。サントリーが出資してるようですが、確かに熟成した洋酒のハードかつ芳醇な味わいです。黒ずくめにちなんで、やっぱりダルマがいいのかもしれません。ロックで頂きましょう。


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