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1978年2月、市川崑『女王蜂』東宝

お客の噂をしないのは、客商売の心得ですからね!

原作:横溝正史 脚本:市川崑・桂千穂・日高真也 撮影:長谷川清 美術:阿久根巌 録音:矢野口文雄 照明:佐藤幸次郎 音楽:田辺信一 監督助手:西川常三郎 協力監督:松林宗恵

金田一耕助シリーズ第4弾。さらに怪奇に、さらに耽美に、さらに華麗に。(予告篇より)

昭和7年。山また山の天城路に。さみどり匂う岸の色。京大生が遊びに来たんですね。仲代さんの学帽姿も無理あるなと思いつつ。『究極超人あ~る』でスイッチしようとしていたボンネットバスが健在だった頃。タイトル前の「なんのこっちゃ」感に、やや圧倒されます。

個人的に『悪魔の手毬唄』において、徹底して金田一目線で、過去に何があったのか、足を使って薄皮を一枚ずつ剥ぐように明らかにしていく様子が好きだったんですが、今回は語り方を変えたもよう。

カットバック編集で現在進行形を並行させたので、観客はヒロインとともに現場に乗り込み、不安や恐怖を感じるという、ホラーまたはスリラーの語り口。冒頭から特殊効果班大活躍の刺激的な場面が続き、やや俗っぽくなったかなと思われます。もっとも探偵ものは元来が社会面の娯楽化ですから、もとより俗悪の極みではあります。

監督としては三本目の『獄門島』で打ち止めのつもりだったそうで、今回は肩のちからが抜けていたということなのかもしれません。

いっぽうで、新人・中井貴恵を監督が気に入ったということなので、彼女の存在感を活かしたかったとも言えるでしょう。佐田啓二の娘さんと聞けば「おお、父ちゃんそっくり」と思われることで、上背もあって知的で清楚で演技力もあって、よい新人さんです。

『手毬唄』には出ていなかった坂口良子が宿屋の女中さん役でコメディ出演しており、そちらと較べて陰性なぶん、名家のお嬢様らしい気品があると言えます。

ただし、戦後のふつうの女子学生(実際に在学中だったそうです)であって、「頼朝伝説の残る伊豆の山奥で、男たちを次々と狂わせる魔性の美少女」って風情ではないのが残念。

周囲は前3本に登場した高峰三枝子・岸恵子・司葉子の3人を監督みずから意図的にキャスティングしたのだそうで、どの女が犯人か? という楽しみもあります。「男性的」な沖雅也の悪役とも味方ともつかない妖しい魅力も確認できます。

ただちょっとキャラ多すぎ感もないことはなくて、男性陣も多いんですが、今回は県警などを迎える村の駐在さん役が伴淳三郎。眼福な名演技を拝見できます。

事件の背後に時間的な幅があるのはいつものことですが、今回は空間的にも幅があって、密室トリックものでもあるけれども、一つの村または館で全ての事件が起きるタイプではなく、黒煙を吐く蒸気機関車が大活躍。

スケールが大きいというべきなのかどうか、好みが分かれるかもしれません。なお、いつもと違う洋風のお屋敷が魅力的です。

【以下、詳細につき未見の方はご注意ください】



女の悪事ってのは、男にやらせるか、カーーッとなってやっちまって、後で困って嘘を重ねるのですぐバレるっていう程度のものなわけで、このシリーズ最大の違和感は、女の犯行にしては辻褄が合いすぎる点。

今回は、その難点をクリアしたと言えるでしょう。けれども「見立て」じゃないので、あの緻密な作り込みの感じが味わえないわけで、どうもやっぱりテレビサスペンスな雰囲気だったかと思われます。

華族と平民の差があるにしても、伊豆のお金持ちには違いないわけで、現代の視聴者から観ると落差がハッキリしないという点も、やや残念なようではあります。

横溝作品は戦前の耽美派を引きずってるわけで、仮面の怪人とか、伝説の美少女とか、絶世の美少年とか、ほの暗い風情をまとった人物を登場させるわけですけども、俳優・女優の雰囲気および観客の心構えがそういう向きではなくなってしまったという、期せずして時代の証言になっちゃってるような気も致します。

それにつけても「邪恋」って。この当時は映画が同性愛に言及することが急に増えたんですけれども、まだ罪悪の一種という捉え方でしたね。沖の最期の際のテレビ報道の奇妙な加熱ぶりも残念な記憶として残っております。


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Misha

Author:Misha
スマホ時代にさからう評論系長文ブログ。冷静に通読できる大人の読者様を想定しています。

「若い人」に直接呼びかける文章は、18歳以上のヤングアダルト対象です。高校生は受験・就活を最優先してください。

書く人は、新旧とりまぜて映画とアニメを見ながら文芸書に取りくんでみたり、昔の漫画を思い出したり、お国の先行きを心配したりしております。

映画評は、アップロードする以上は「下げる」ようなことは言わないことにしております。あらすじもあまり申し上げませんので、楽しみに御覧になってください。記事冒頭の色つき文字は映画中の台詞・挿入歌の歌詞からの引用です。

なお、取り上げる作品は、暴力・エロスなど特殊な要素を含んでいることもあります。

ときおり、耽美・BL・同人・LGBTに言及します。いずれの分野からも、偏見と差別と自虐がなくなるといいと思っております。

「二次創作の責任を二十四年組に押しつけるな」「実在同性愛者に甘えるな」が基調です。

全体として、二十四年組ファンが社会学者に物申すという珍しい構図。一部勘違い同人を叱責することによって全体を守るという意図もあり、ときにかなり辛口です。

記事は時々予告なく手直し・分割・削除しております。保存は個人的閲覧の範囲で、お早めに御随意に。転載・改変利用は固くお断り申し上げます。

解題


Casketとは、玉手箱。

でも検索すると棺桶がならびます。来世まで持っていきたい好きな作品の記録帳とご理解ください。