Misha's Casket

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1944年11月、木下恵介『陸軍』松竹

男の子は天子様からの預かりもんじゃけ、お返しするまではハラハラします。

陸軍省後援、情報局国民映画。この当時の映画の常として、スタッフはノンクレジットです。

まさかの慶応年間から始まって、山県有朋は顔を出さないけれども陸軍創設以来の歴史をひもときつつ……気丈な母と不器用な父子たちのホームドラマなのでした。木下恵介ここにあり。

昭和19年11月というと、もうだいぶ逼迫していた頃だと思われますけれども、ロケとセットを組み合わせ、たいへん丁寧に撮られており、画質も良いです。

独特の台詞まわしの俳優さんが大尉役で登場し、誰だっけなァ……と思ったら笠智衆のすっごい若い頃でした(驚)

田中絹代(1909年生まれ)が、たいへん良いです。まだうら若い新妻が男の口調を真似て厭味にならず、キリッとしたところを見せていた時代から、少しずつ老けていって、実年齢よりちょっと年上の、まろやかなおっかさんらしくなるところまで。

撮り方も最初は彼女をたんなる脇役のようにあつかっておいて、だんだんクローズアップしていくわけで、じつに「にくい」です。

音楽の使い方、カメラが寄っていくタイミング、編集の切れ味など、映画の話法としても戦中ホームドラマの傑作中の傑作といっていいのだろうと思われます。地味にすごいのは、カメラの焦点は戦友同士の会話に当たってるんだけれども、場面の焦点はそこじゃないっていう、すごい演出があるところ。観客の意識を画面の外(または奥)に集中させるのです。

終盤には圧巻のロケーションがあります。これが戦中日本映画人の良心。

戦意高揚映画というのは、戦中風俗を時代の証言として活写しつつ、言いにくいことをいかに表現に忍ばせるか、活動屋たちが知恵と勇気を振り絞った苦闘の記録なのだと思います。


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